村上春樹(原作)/映画「ノルウェイの森」
評価:B+
映画公式サイトはこちら。
まずは13年前に僕が村上春樹さんと交わしたメールの内容を紹介した、下記記事からお読み下さい。
今回映画を観て改めて気付いたこと。直子は幼馴染のキズキを愛していながら、彼とセックスすることが叶わなかったが故に、次第に精神を病んでゆく。これは映画「草原の輝き」(1961)でナタリー・ウッドが演じたヒロインの設定とほぼ同じである。
死んだキズキとセックスできなかったことが悔恨の念として重く直子にのしかかる。そして物語の終盤、直子を失ったワタナベは自分が彼女の魂を救済出来なかったことを悔み、放浪の旅に出る。旅から戻ったワタナベは下宿の前で待っていたレイコとセックスをする。この場面の解釈については原作ファンの間でも長年に渡り議論の的となった。映画でワタナベを演じた松山ケンイチはインタビューの中でこう語る。
たとえば直子を失ったときのレイコさんとのセックスの意味は、原作を読んだときは全く理解できなかった。けれど、芝居をしていくうちに、2人が直子の死を受け入れて生きていくために必要だったんだと気づいた。それと同時に原作の持つテーマの深さにも気づいたんです。
落ち込んだレイコの気持ちはワタナベとのセックスで救われる。そのことは同時にワタナベの贖罪に繋がり、彼は直子の呪縛から開放され、ようやく緑と正面から向き合えるようになる……という作品構造がこの映画を通して僕には初めて理解出来たのである。
ウォン・カーウァイ監督「花様年華」や日本映画「空気人形」で知られる撮影監督リー・ピンビンは今回、フィルムではなくバイパーというHDカメラを使用している。品質を考えればフィルム上映ではなく、デジタル上映している映画館で観るべきだろう。
画面全体を覆いつくす圧倒的グリーンが素晴らしい。トラン・アン・ユン監督は自然描写(演出)が巧みである。梢を渡る風、しとしとと降る雨(むせるような湿度)、深深(しんしん)と降り積もる雪の音。各々が印象深い。また直子が草原を歩きながらワタナベに告白する5分間の長回しが凄かった。
音楽は村上春樹さんもよく聴くというロックバンド「レディオヘッド」のギタリスト、ジョニー・グリーンウッドが担当。特に直子の死後、ワタナベが放浪する場面で、彼の叫び声を入れず、音楽がそれを代弁している場面が心に響いた。
ただ残念だったのは、音楽の先生という設定のレイコさんがギターの弾き語りで「ノルウェイの森」一曲しか歌わないところ。原作で彼女はビートルズのナンバーを沢山歌うのだが、版権が高すぎてこれ以上は難しかったんだろうなぁ。
ワタナベを演じた松山ケンイチは受け身の芝居という難しい役どころを見事にこなした。感情の抑制具合が絶妙で素晴らしい。
直子役の菊地凛子の顔は僕が好きなタイプではないが、彼女の演技には文句の付けようがない。そういう意味でメリル・ストリープとか大竹しのぶに似たタイプの女優である。
緑を演じる水原希子はハッキリ言って日本人に見えない(彼女はアメリカ人の父と韓国人の母をもつ)。でも、綺麗だから許す。美は他の価値観全てを超越する。
また、永沢役の玉山鉄二が虚無的な雰囲気を醸し出しており、中々良かった。
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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2010年12月24日 (金) 12時23分