進化する神尾真由子×ミロスラフ・クルティシェフ/デュオ
ザ・シンフォニーホールへ。
2007年チャイコフスキー国際コンクール・ヴァイオリン部門で優勝した神尾真由子と、同ビアの部門で1位なしの第2位となったミロスラフ・クルティシェフのデュオ・リサイタル。
僕は以前、神尾さんの生演奏をソロで2回、コンチェルトで2回聴いている。
今までの体験に基づき、彼女のイメージを一言で表現するなら情熱の赤。
ところが今回、彼女は花の刺繍をあしらった純白のドレスで登場したので、意表を突かれた。
曲目は、
- チャイコフスキー/なつかしい土地の思い出
- チャイコフスキー/憂鬱なセレナード
- ベートーヴェン/ヴァイオリンソナタ 第5番「春」
- R.シュトラウス/ヴァイオリン・ソナタ
彼女のチャイコフスキーは線の太いカンタービレを奏でるという特徴はそのままだが、以前に比べ硬さが取れ、丸みを帯びたふくよかな音色へと変貌を遂げていたので驚かされた。「なつかしい土地の思い出」~”I. 瞑想曲”では蝶が舞うような軽やかさがあった。しかし”II. スケルツォ”では一転、激しい表現となる。そして「憂鬱なセレナード」はむせび泣くよう。
ベートーヴェンの「春」はいい意味で力が抜けた演奏。一方、クルティシェフのピアノには切れがある。ヴァイオリンはピリオド奏法ではないが音尻が短めに奏でられ、意識的にチャイコフスキーと表現法を変えているのが分かった。歓びに満ち、弾けるような「春」だった。
R.シュトラウスはロマンの芳香漂う美しい曲。ここでも神尾さんは雄弁で、表現の幅が広がったなぁと感じさせた。ピアノもしっかり対等に自己主張をする。ふたりの丁々発止のやり取りがスリリング。「ああこのソナタは”合奏”ではなく”協奏”なのだなぁ」とつくづく思い知った。そして終楽章では神尾さんはそれまで抑制していた情熱を開放し、スケールの大きなクライマックスを築いた。
アンコールは、
- クライスラー/美しいロスマリン
- チャイコフスキー/ワルツ・スケルツォ
- エルガー/愛の挨拶
クライスラーは風に舞う羽の如し。そしてエルガーは薄桃色だった。まさか彼女からこんな演奏が聴けるとは……。
神尾真由子は日々、進化を遂げている。そして最早、向かうところ敵なし!そのことを確信させられる演奏会であった。
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