ピルナイって作曲家、知ってる?/一筋縄ではいかぬ児玉宏の名曲コンサート
ザ・シンフォニーホールへ。
児玉宏/大阪交響楽団による名曲コンサート。
- ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー
- ピルナイ/ドイツ流行歌の愉快な遊び
- ベートーヴェン/交響曲 第3番「英雄」
何といっても注目は2曲目のピルナイだろう。当日会場で、既に聴いた経験のある人は皆無だった筈。ここに児玉さんの「名曲とは何か?」という問題提起がある。
果たして普段からしばしば耳にする作品は本当に名曲なのか?一方、演奏される機会の少ないものは聴く価値がないのだろうか?
「ドイツ流行歌の愉快な遊び」が作曲されたのは1968年。小編成のオーケストラとピアノにより、まず1920年代ドイツのビアホールで流行った歌「膝で何する、親愛なるハンス」がテーマとして演奏される。第1変奏はバッハ風。ピリオド(ノン・ヴィブラート)奏法で弾かれる。第2変奏はモーツァルト「魔笛」風。第3変奏はピアノの分散和音がシューベルトの歌曲を彷彿とさせる。第4変奏はピアノ・ソロでメンデルスゾーン「無言歌」を。第5変奏はロッシーニ「セビリアの理髪師」仕立てでクラリネット・ソロがオペラのアリアに見立てられる。第6変奏はトランペットが勇壮にヴェルディ「アイーダ」凱旋行進曲の雰囲気を描く。第7変奏はプッチーニ「蝶々夫人」の登場で、弦楽器が夢見るような甘美なヴィブラートを奏でる。第8変奏は厳しくレーガー「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」風。第9変奏は音楽がうねり、R.シュトラウス「ドン・ファン」もどき。第10変奏は十二音技法でシェーンベルクをからかう。そして第11変奏はリストのピアノ協奏曲で始まり、「ハンガリー狂詩曲」風味に早変わり。これぞ音楽の冗談。機知に富んだ大人の遊びが展開された。
こういった趣向を楽しめるかどうかは、原曲に対する知識があるかどうかに左右される。つまり、聴衆の音楽的教養が試されることにもなるわけだ。児玉さん、お主も中々の策士よのぅ……。
ワーグナーはどっしり堂々とした演奏で、しなやかに歌う。中間部では軽やかに。
休憩を挟み後半のベートーヴェンはしばしば「英雄」第1楽章で聴かれる気宇壮大な解釈ではなく、むしろ押さえ気味。室内楽的と言えるかも知れない。繊細で明晰、歯切れがいい。作曲家がスコアに記したメトロノーム記号に即した速めのテンポ。第2楽章も悲劇性はあるが、決して荘厳にならず推進力、勢いがある「葬送行進曲」だった。僕は当初戸惑い、「児玉さんの意図はどこにあるのだろう?」と考えて、はたと気付いた。
このシンフォニーはフルトヴェングラーやカラヤン、ベームの時代、第1,2楽章と第3,4楽章の齟齬がしばしば問題となった。つまり「重い」前半と比較し、後半の音楽は「軽い」のだ。ところが児玉さんの解釈で聴くと、その落差が消え、違和感が無くなるのである。筋肉質に引き締まったベートーヴェン。見事なアプローチだった。
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