第58回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 2010 《後編》
この記事は、第58回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 2010 《前編》と併せてお読み下さい。
西関東代表 埼玉栄高等学校 金賞 / 春日部共栄高等学校 金賞 / 前橋市立前橋高等学校 銅賞
昨年はディズニー・アニメ「ポカホンタス」で銀賞だった埼玉栄、今年はプッチーニ/歌劇「マノン・レスコー」で挑んだ。編曲は、大滝実先生と長年タッグを組む宍倉晃さん。大滝先生は国立音楽大学声楽科を卒業されており、常に”歌”にこだわる。一世を風靡したミュージカル「ミス・サイゴン」だってしかり(一昨年の自由曲は歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」だった)。課題曲Iから洗練された響きがあった。優しい歌心に富む。続く自由曲がピアノ・ソロから始まったのには意表を突かれた。クラリネットとの対話。そしてプッチーニの生命線であるカンタービレへ!息の長い旋律を丁寧に歌い、気持ちが途切れない。会心の演奏。
春日部共栄の課題曲Vは軽やかな導入部が印象的。自由曲は福島弘和/シンフォニエッタ第2番「祈りの鐘」。ここは常に邦人作曲家の新曲紹介に力を注いできたバンド。その高い志が新たな名演を生んだ。まず冒頭、場外からの鐘の響きとステージのオーボエが聴衆の魂を浄化する。次第にテンポが速まり変拍子の難しい曲調へ。後半はステージ両サイドに設置された鐘の音が絶大な効果を発揮。いい曲だった。
市立前橋高は初出場。吹奏楽コンクールの定員は55人だが、ここは初心者3人を含む31人で臨んだ。だからファゴットなし。正に少子化の時代を象徴する出来事であった。これからこうした学校が増えてくるだろう。頑張れ!小編成バンド。ちなみに、ここの自由曲はバルトーク/「舞踏組曲」より。
東海代表 愛知工業大学名電高等学校 銀賞 / 長野県長野高等学校 銀賞 / 安城学園高等学校 銅賞
愛工大名電の自由曲は真島俊夫/「三つのジャポニスム」(II.雪の河 I.鶴が舞う III.祭り)。日本的抒情が溢れる。ソプラノ・サックスが尺八の奏法を模し、扇子と団扇を叩き合わせることで鶴の飛翔を表現する。そして祭りの熱狂。けだし名曲、いい演奏だった。
長野高の課題曲IVは高校生らしい爽やかさ。自由曲はラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲。冒頭のアルペジオが曖昧模糊として、どうも全体的に歯切れが悪い。それから「全員の踊り」はもっと弾けないと!
安城学園の課題曲IVは音尻の処理に甘さを感じた。自由曲はチャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」より(鈴木英史 編)。当ブログで何度も書いていることだが、チャイコフスキーは吹奏楽コンクールの鬼門である。弦楽器抜きで彼の音楽の優雅さは絶対表現出来ない。鈴木英史さんのアレンジはオペレッタではその持ち味を発揮するが、それ以外はどうも精彩を欠くなぁ。平板な印象を受けた。まぁ、選曲ミスに尽きるだろう。
関西代表 大阪桐蔭高等学校 金賞 / 明浄学院高等学校 銀賞 / 天理高等学校 銀賞
関西は今年、大阪府立淀川工科高等学校(淀工)が三出休みなので、私立校のみが代表となった。
大阪桐蔭の課題曲IIIは沖縄の抜けるような青空と燦々と降り注ぐ陽光を感じさせる。輝くサウンド。指揮する梅田隆司先生が、途中でジャンプしたのが面白かった。自由曲ヴェルディ/レクイエムは解像度が高く、6人のトランペット女子が吹く音がポーンと抜け、心地好い。また「怒りの日」はパンチの効いた演奏で、ド迫力。貫禄、余裕の金だった。
明浄学院の課題曲IVは柔らかい音色が特徴。自由曲の高昌帥/ウインドオーケストラのためのマインドスケープは細部まで神経が行き届き、まろやかでよく歌う演奏。バランスもよく、後半のハーモニーが美しかった。
天理の課題曲I、ホルンがいい音。自由曲の三善晃/「交響曲三章」より第3楽章(天野正道 編)は静謐で透明感があった。
中国代表 修道高等学校 銀賞 / 岡山学芸館高等学校 銀賞/ 江の川学園石見智翠館高等学校 銅賞
中国地区も私立校のみ。
修道は今年唯一の男子校。女子校は3校あったのだけれど。自由曲プッチーニ/歌劇「トゥーランドット」より(後藤洋 編)はメロディー・ラインがもたつき、スタッカートが明瞭でないのが気になった。
岡山学芸館の課題曲Vは鋭く磨かれた音で、細部まで鮮明に響く。ドラムスの女の子が熱演。自由曲コダーイ/ガランタ舞曲(森田一浩 編)はアンサンブルの妙味が発揮されスマートな演奏。ハンガリーの匂い、民族色が感じられた。ここは金賞でもよかったのでは?
見智翠館の自由曲レスピーギ/交響詩「ローマの祭」は音をガンガン鳴らしているだけという印象を受けた。アインザッツも揃わない。
四国代表 愛媛県立伊予高等学校 銀賞/ 高知県立高知西高等学校 銅賞
四国は公立が頑張っている。
伊予高の課題曲IVは平板な演奏だったが、これといったミスはなし。自由曲R.シュトラウス/楽劇「サロメ」より 7つのヴェールの踊りは特にフルートが上手かった。全体にアンサンブルが整っており、ここは過去10年銅賞が続いていたが、今年は銀賞までいけるんじゃないかと聴きながら思った。
高知西の自由曲はマスランカ/リベレーション(我を解き放ち給え)。ピアノと木琴、鉄琴の調べから始まり、グレゴリアン・チャントを彷彿とさせる美しい響きへ。途中ハミングあり。なかなかいい曲。
九州代表 原田学園 鹿児島情報高等学校 金賞 / 玉名女子高等学校 銅賞 / 八代白百合学園高等学校 銅賞
九州地区に移ると、俄然また私立が優勢となる。しかも2校が女子校。今年3出休みの精華も女子校。
さて、日テレ「笑ってこらえて!」吹奏楽の旅で話題沸騰、「吹奏楽の神様」屋比久勲先生率いる鹿児島情報高である。譜面台には楽譜が置かれていない。つまり先生を含め生徒も全員暗譜。課題曲IIは威風堂々たるマーチを展開。そして自由曲チェザリーニ/アルプスの詩は冒頭のカウベルが朝の爽やかさを描き、続くホルン・ソロが気持ちいい!嵐の情景では金管が猛烈に咆哮する。そして後半、心に滲みる美しい音楽が展開される。皆の想いがひとつに結集される瞬間を、僕は確かにそこに見た。低音に厚みのあるどっしりした響き。これぞ屋比久サウンド。文句なし、ブラボー!!
玉名女子の課題曲IVは速めで一定のテンポ。音がよく出ている。ここはやっぱりマーチング・バンドだなと思った。だから強弱のコントラストについては?マークだった。自由曲「ローマの祭」は面白味に欠けるが、正確・楷書的な演奏だった。
初出場となる矢代白百合学園は高校の部で唯一の女性指揮者。課題曲IVは玉名同様、強弱の変化に疑問符。自由曲スパーク/ウィークエンド・イン・ニューヨークはガーシュウィン/パリのアメリカ人の逆バージョン。つまり"Englishman In New York"である。しっかりスウィングしていてJAZZの雰囲気が出ていた。ホーンが呻る感じがgood.それからドラムスがフルートの直ぐ後ろ、2列目正面に配置され、ノリがよかった。残念な結果ではあったが、素敵な音楽をありがとう。十分愉しかった。
さて最後に、普門館にはこんなポスターも。「アルメニアンダンス・パートI」「大阪俗謡による幻想曲」「リンカンシャーの花束」と淀工の丸谷明夫先生がお好きな曲が目白押し!きっと 4,702席を誇る普門館が満員になるんだろうなぁ。
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コメント
はじめまして。
大阪市在住の吹奏楽ファンとして、市音友の会会員として、いつもこの日誌を見るのを楽しみにしています。
ですがここ半年は受験勉強に専念していたため、今になってこの記事を読みました(笑)
2009年に大阪府大会と定期演奏会で圧倒的な「カルミナ」を聴き、すっかり桐蔭の大ファンになってしまいました。
2010年、これまた圧倒的な「レクイエム」を(CDですが)聴き、文句なしの金賞でした。
ところが、昨日連盟のホームページを見てみたら、なんと「審査員G」なる人物が、「EEDE」という、全団体中最低の評価をしてました。
もちろん、上下カットに含まれる評価でしたから2009年の市柏の様なことにはなりませんでしたが、多くの人が後半の部最高と感じたであろう演奏に対してこのような評価をする審査員がいることに、驚きと憤りを覚えました。
本来コーラスと共に演奏する曲をコーラスなしで演奏したことが気に入らなかったのでしょうか?
それだと、課題曲まで最低評価にした意味がわかりません。
やはりあなたが言う「選曲で評価が左右された」のでしょうか?
ということは、「公平を期すための上下カット」とは、「一般聴衆とは異なる音楽嗜好、曲の好みをもった審査員を選んでいる」ということを、連盟自身が認めているということなのでしょうか?
あと、審査員の評価が匿名なのも気に入りません。
「審査員G」が誰なのか、わからないのですから。
音楽に絶対はありません。だからこそ、審査員は「私はこういった基準で評価しました」と主張する必要があると思います。
主張も何もなくて、ただ評価を渡すだけ。威厳も何もありません。
上下カットなんてやらないで、多くの人が納得できるような主張ができ、評価を下す審査員だけを、連盟には選んでほしいですね。
愚痴&長文失礼しましたm(_ _)m
投稿: Edwards | 2011年3月25日 (金) 16時10分
コメントありがとうございます。
審査得点の上下カットはオリンピックでも行われていることです。意図的な過大・過小評価を避けるために有効な方法だと想います。
投稿: 雅哉 | 2011年3月26日 (土) 22時17分