大阪クラシック 2010 《3日目》大植英次/大フィルの燃え上がるベートーヴェン!
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェン/交響曲 第7番の演奏は、3年前のチクルスで聴き、下記感想を書いた。
殆ど酷評と言ってもいい。
この時の大植さんの体調は最悪だった。持病の首(頚椎)の調子が悪く、腕を振るのがやっとという状態。今にも止まりそうな遅いテンポで、青息吐息だった。
しかしこの後、手術を受け、劇的なダイエットにも成功。スリムな体系となって現在は体もよく動き、元気溌剌である。今の大植さんなら違う演奏が出来るんじゃないか?という期待を僕は抱いた。
さらにマーラー/交響曲 第5番の例もある。以前フェスティバルホールで聴いたのと、昨年ザ・シンフォニーホールで聴いたものとは完全に別の音楽だった。
大植さんはカメレオンのような指揮者だ。同じ曲でも解釈がどんどん変化してゆく。だからもう一度、彼のベートーヴェンを聴く気になった。
大阪クラシック 第38公演。"Nothing but Beethoven"と副題が付き、オール・ベートーヴェン・プログラム。
- ロマンス 第1番(Vn. 独奏:黒田小百合)
- ロマンス 第2番(Vn. 独奏:芝内もゆる)
- 交響曲 第7番
客演コンサートマスターは崔 文洙(チェ・ムンス)さん。
中学校一年生の黒田さんは昨年、芝内さんは今年の星空コンサートに出演した。
大植/大フィルのバックは柔らかい音色で、若い彼女たちを優しく包み込むかのような演奏であった。
交響曲に入る前に、ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」の一部を演奏した上で、大植さんから「これがトリスタン・ハーモニー(和音)です」と。
次にベートーヴェン/交響曲 第9番 第4楽章の冒頭部(17小節目)が演奏され、トリスタン和音はこれを発展させたものだとの解説があった。
大植さんによると、ワーグナーはバイロイト祝祭劇場の起工式でこの第九を自らの指揮で演奏したという(帰宅して調べてみると、第九はこの劇場でワーグナー作曲以外に演奏が許されている唯一の曲だそうだ。フルトヴェングラーの名盤もある)。
そして「ベートーヴェンの第7番を"Dance Symphony"と呼んだのもワーグナーなんです」と。
弦は対向配置、コントラバスは最後方、横1列に並ぶ。今回はイヴェント性が高いので第1,3,4楽章の繰り返しは省略された。
第1楽章から力強く勢いがあり、熱い演奏が繰り広げられた。作曲家がスコアに記載したメトロノーム記号に即した体感速度。アタック、アクセントが鮮烈で、音楽が弾け、飛翔する。崔さんが激しく強奏するので、弓の毛がぶちぶち切れる。
第2楽章もテンポは速め。押しては返す波のような心地よいリズム感がある。
そしてダンサーたちが軽やかに踊り、躍動する第3楽章を経て、第4楽章は驀進する凄まじい迫力があった。大植さんが唸り、指揮台の上でジャンプする。爆走するベートーヴェン。こんなの聴いたことがない!
3年前に聴いた音楽と同じ演奏者とは俄に信じ難かった。少なくともこのコンビ、今年最高の名演であったと断言出来る。
大フィルの楽員自体、3年前とはベートーヴェンに対峙する意識、アプローチが違う。例えば音尻、弓を弦から離すタイミングが早くなり、歯切れのいい演奏になっている。
これは昨年、指揮者の延原武春さんと出会い、古典派の音楽をモダン楽器で演奏する時の古楽的方法論(ピリオド・アプローチ)を学んだこと、そして崔 文洙さんが客演コンサートマスターに就任されたことが大きいのではないだろうか。
”新生”大フィル、Ver.2.0。これは面白いことになってきた。
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コメント
雅哉さん、こんばんは。この演奏聴かれたのですね。他からも、絶賛の声。良かったみたいですね。
大植さん、やはり芸人やなあ、と思います。大阪クラシックはこれで行こう、と決めて臨んではりますね。
ブラームスチクルスに、これで行こうと決めて臨んでおられるのと、同じような気がします。
前にも拙ブログに書きましたが、大植さん、次のベートーヴェンチクルスも考えておられると思います。雅哉さんの記事を読んで、楽しみがまた一つ増えました。
投稿: ぐすたふ | 2010年9月11日 (土) 00時39分
ぐすたふさん、コメントありがとうございます。
僕は二度目のベートーヴェンよりはむしろ、チャイコフスキーやマーラー、あるいはショスタコーヴィチのチクルスを聴きたいです。
大植さんは朝比奈隆の歩んだ道とは別に、独自の路線を堂々と突き進まれたらいいと想うのです。
投稿: 雅哉 | 2010年9月11日 (土) 23時49分
雅哉さん、はじめまして。
小生もこのコンサートに行ってました。まさに,熱狂のベートーヴェンでした。
帰り道に仲間と色々話す中で「指揮者の役割って何なんだろう」という話になりました。
「ロマンス」では娘を包み込むような優しい音色で歌伴を,団員を増員して演奏されたベートーヴェンでは叩きつけるようなリズムを。
指揮が単に交通整理であっては困ります。エンターティナーであっていいと思います。
大植先生が大フィルに来られてから,益々大フィルが活性化されてきたように感じます。
仲間からの情報なんですが,9月9日,関電ビルの「低音トリオ」に大植先生が現われたそうです。
観客を誘導してもっと近くで聞いてもらえるように誘導する,二階には休憩スペースがあって,ソファーが置いてあるそうなんですが,ソファーの位置を直して,聞いてもらいやすいようにする,演奏後は「アンコールの代わりのプレゼント」と言って,演奏者用の緑のTシャツを一階に投げ落とす。。。
クラシックの指揮者というとお堅いイメージがあるんですが,とても親しみやすい感じだったそうです。
今後の活躍がますます楽しみになってきますね。
駄文失礼いたしました。m(_ _)m
投稿: compaq_1958 | 2010年9月13日 (月) 00時02分
コメントありがとうございます。
記事に書きましたように、3年前の演奏は、息も絶え絶えで、満身創痍のベートーヴェンでした。指揮者というのは体調によってこれだけ変われるのだなと驚きました。
現在は大植さん、絶好調です。これからも大活躍して頂いて、大阪を盛り上げて欲しいものです。
投稿: 雅哉 | 2010年9月13日 (月) 01時28分