小川洋子(著)「猫を抱いて象と泳ぐ」
芥川賞作家・小川洋子の小説「猫を抱いて象と泳ぐ」を読了。
現代を舞台にしながら、イマジネーションが飛翔する大人の寓話になっており、さすがの力量。
第1回本屋大賞を受賞した「博士の愛した数式」は秩序だった数式の潔さに魅せられた主人公の話だったが、「猫を抱いて象と泳ぐ」(2010年本屋大賞第5位)はチェスの駒が描く軌跡の美しさに囚われた人々の物語。そういう意味で姉妹篇と言えるだろう。
主人公はロシアのグランドマスター、アレクサンドル・アリョーヒン(1892-1946)に憧れる。そして彼はいつしか”リトル・アリョーヒン”と呼ばれるようになる。
本文中に、ある写真を描写した、次のような一節が登場する。
どこか部屋の片隅、温熱器のそばにチェス盤が置かれている。アリョーヒンは黒。相手は首元にスカーフを巻いた、教授風の男だ。(中略)肩幅の広い立派な身体つきをしたアリョーヒンは、椅子を斜めにずらし、ゆったりと足を組んでいる。(中略)
そして猫だ。何とポーンと同じ、白と黒のまだら模様をしている。アリョーヒンの右手に抱かれ、耳をピンと立て、ご主人様より真剣な面持ちでチェス盤を見つめている。(中略)猫の名前はカイサ、チェスの女神だ。
この写真は、現実に存在するのだろうか?と調べてみたら、あった、あった!
また別に、アリョーヒンと猫だけが写ったものも見つかった。
テーブルチェス盤の下に潜り込むことを愛する"リトル・アリョーヒン”は11歳で成長を止めることを決意する。この設定って、ノーベル文学賞を受賞したギュンター・グラス(著)「ブリキの太鼓」みたいだなぁと想って検索したら、僕と同様のことを感じておられるブロガーが沢山いらっしゃった。また、少年に初めてチェスの手ほどきをしてくれるマスターが廃バスに住んでいることについて、エーリッヒ・ケストナー(著)「飛ぶ教室」との関連性を指摘されている方がおられ、なるほどなぁと首肯した。
「ブリキの太鼓」は映画化され、アカデミー外国語映画賞を受賞したが、「猫を抱いて象と泳ぐ」も是非映像として観てみたい。ただ実写が似合うのか、あるいはアニメーションの方がこのファンタジーに相応しいのかは迷うところである。
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