インセプション
評価:B+
クリストファー・ノーラン監督もまた、ややこしい映画を撮ったもんだ。非凡な作品ではあるが、世紀の大傑作「ダークナイト」には及ばず。
映画公式サイトはこちら。
潜在意識=夢をテーマにしたお話である。これ自体は目新しいものではなく、夢(バーチャル・リアリティ)と現実との区別がつかなくなる名作として、例えば押井守監督「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」とか、小説では岡嶋二人の「クラインの壷」を挙げることが出来る。
本作のユニークなところは、夢(仮想現実)をさらに三階層に分けたことである。さらにその奥に”虚無”も存在する。だからプロットはとても複雑で、一回観ただけで全体を把握するのはきわめて困難。商業映画という枠の中で、やりたいことをやり尽くしたという感じ。
で「インセプション」を観ながら想い出したのは、ノーランが脚本・監督した出世作「メメント」(2000)である。10分しか記憶を保てない男を主人公に、物語の終わりから始まりへと、時系列を逆向きに進めていく斬新な作品であった。メメント・モリ(Memento mori)とは、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句。ノーランという人はこういうのが好きなんだな。
他人の潜在意識に入り込み、アイディアを盗むのは「エクストラクション」と呼ばれていて、「インセプション」はその反対。ある考えを“植えつける”こと。
登場人物の名前が風変わり。レオナルド・ディカプリオの役名が”コブ”(Cobb)、妻役のマリオン・コティヤールが”モル”(Mal)。そしてエレン・ペイジが”アリアドネ”(Ariadne)。
アリアドネーはギリシャ神話に登場する名前。テーセウスがクレーテーの迷宮より脱出する手助けをしたことで知られる。映画の彼女の役割に合致している。また、モル(Mal)は”悪”を意味する。色々凝ってますな、この作品。
ただプロットとして弱いのは、このミッションが成功したとして、斉藤(渡辺謙)からの依頼「敵企業を解体する」という目的が果たして実現するのか、極めて不確実であるということだろう。
ところで、登場人物たちが夢から醒めるためのガジェット(小道具)としてエディット・ピアフが歌うシャンソン"Non, Je ne regrette rien"「水に流して」(直訳すると「私はこれっぽちも後悔なんてしてない」)が使用されているのが面白かった(視聴はこちら)。これはマリオン・コティヤールがアカデミー主演女優賞を受賞した「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」で歌った曲でもある(視聴はこちら)。
映画のラスト、”コブ”が廻した独楽(こま)は永遠に廻り続けるのか(これは夢なのか)、それともいずれ静止するのか(現実なのか)は観客の想像に委ねられる。そしてエンド・クレジットでもピアフの歌が流れる。果たしてこれは”コブ”に「目覚めよ!」という合図なのだろうか、はたまた映画(夢)に身を委ねる我々への合図なのか?何とも奥深いラビリンス(迷宮)である。
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