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借りぐらしのアリエッティ

評価:B+

今更僕が言うまでもないが、アニメーション作家・宮崎駿は天才である。これは疑う余地がない。ただスタジオ・ジブリにとって不幸だったのは、宮さんが天才故に何でも自分でやってしまい、後進を育てられなかったことである。

宮さんは他人とコラボレーション(協調)することが出来ない人だ。押井守と一緒に作品を作るという企画は頓挫した。「ハウルの動く城」では細田守監督と大喧嘩をして結局、細田さんがジブリを去り、宮さんが監督を引き継ぐことになった。天才は孤独なのだ。

例えば長年、作画を担当してきた近藤喜文を監督に据えた「耳をすませば」を見てみよう。何とこの作品、脚本・キャラクターデザイン・絵コンテまで宮さんが担当している(おまけに主題歌「カントリー・ロード」の作詞も!)。だからこの作品は完全な宮崎アニメ。近藤さんの個性はどこに?と問いたくもなるではないか(いや、僕はこの作品、大好きだけど)。そして宮さんの後継者として期待された近藤さんは1998年に解離性大動脈瘤破裂で亡くなった。享年47歳だった。

「スタジオ・ジブリは宮崎駿・一代で終わればいいんじゃないか?」と僕は想っていた。でも宮さんや鈴木プロデューサーはそうは考えていなかったようだ。「猫の恩返し」や「ゲド戦記」といった迷走を経て、この度「借りぐらしのアリエッティ」を世に問うた。監督は37歳のアニメーター・米林宏昌、愛称:麻呂(まろ)。彼の顔は「千と千尋の神隠し」のキャラクター・カオナシのモデルとなったという。

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本作のポイントは宮崎駿がどこまで作品の完成までちょっかいを出さず(影響力を行使せず)、我慢出来るかということであった。結局、宮さんは企画・脚本のみに留まり、麻呂の書いた絵コンテにも一切目を通さなかったそうだ。えらい!なお、ヒロイン・アリエッティは米林監督が好きな映画「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)をモデルにしているという。さらに宮さんが書いたシナリオに丹羽圭子の手が加わり、宮崎臭は払拭された。

公式サイトはこちら

映画冒頭、主人公の少年・翔が車に乗って屋敷に到着する場面はまるで「千と千尋の神隠し」みたいだった。彼の動きが鈍く、この監督は絵の動かし方(タイミングの取り方)が下手なのかな?と一瞬想ったが、次第にこの少年が胸を患っていることが明らかになってくる。そして床下に住むアリエッティが登場すると敏捷な動きで、静と動の対比を鮮明にする演出だったのだなと合点がいった。また翔が住む世界は青を基調とした寒色系で、アリエッティが赤など暖色系でそのコントラストも見事。うん、なかなかセンスがあるじゃないか。

ダイナミックなアクション・シーンが話題になる宮崎アニメだが、実は重要なのは「静」の場面であったりする。例えば「ルパン三世 カリオストロの城」でルパンが空に浮かぶ雲を眺めながら「平和だねぇ…」と呟くシーン。あるいは「天空の城ラピュタ」でパズーとシータが漸くラピュタにたどり着き、次第に雲が晴れて城の全容が明らかになるシーン。それらがあればこそ、後に展開される「動」が生きる。米林監督はそのことがよく分かっている。

また、往年の宮崎アニメに対するオマージュ(敬意)があちらこちらに散りばめられていて愉しい。アリエッティの視点から見た猫はまるで「となりのトトロ」の猫バスだし、「アルプスの少女ハイジ」(宮さんがレイアウトを担当)のチーズを乗せたパンも登場する。そして朝日の差し込むラストシーンで「耳をすませば」を想い出さない人はいないだろう。

僕が特に気に入ったのは中盤で登場する少年、スピラー。彼がやることなすこと、もう完全に「未来少年コナン」のジムシーだ!むちゃくちゃ懐かしかった。

鈴木Pが指名した米林監督は大当たりだった。これでジブリの未来に希望が見えた。

鈴木Pはこう語る。

「試写が終わった後、突然宮崎駿が立ち上がって、前に座っていた麻呂の手を持ち上げ、『麻呂、よくやった!』と言ったんです。その後、僕だけに『映画観ながら、泣いちゃった』と。『ジブリ育ちの初めての演出家が誕生した』と言っていて、これは嬉しかったです」

鈴木さん、本人は嫌がるかも知れないけれど、是非また彼を監督に起用してくださいね。

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コメント

ジブリの次回作は高畑勲の鳥獣戯画をモチーフにした長編でしたっけ? 完成はいつ頃なのかな。

投稿: S | 2010年7月23日 (金) 20時04分

それを僕に訊きますか!?

高畑さんのアニメは大嫌いなので、知りたいとも想いません。「ホーホケキョ となりの山田くん」の興行的惨敗からもう11年ですか。

投稿: 雅哉 | 2010年7月24日 (土) 00時20分

高畑さんの次回作はすごく観たいですね。

なんでも脚本に5年かかって、現在作画の準備中なのでこれから何年かかるかわかりません(^^;

宮崎さんは、みんなに責任を持ちたがるけど、高畑さんはフィルムに命を懸ける。そんな感じです。どちらの作品も好きですけどね。

ホーホケキョとなりの山田くんは興行的には振るわなかったけど、内容は今見ても古びてないですよ。

投稿: kaze | 2010年7月24日 (土) 16時00分

コメントありがとうございます。

いまから11,2年前に僕が書いた、高畑アニメへの決別宣言を見つけました。もしよかったら、ご覧下さい→「高畑アニメと私

投稿: 雅哉 | 2010年7月24日 (土) 18時34分

個人の趣味ですから何とも言えませんが、、、。

高畑さんを観ないのは車の片方の車輪を無くしたようなものだと思いますよ。

もう一度、素直な気持ちで高畑作品に対峙されることをお勧めします。決別宣言を読んだ上で申し上げます。

いろいろな作品を観ないと損じゃありませんか?

投稿: kaze | 2010年7月25日 (日) 10時16分

詰まらない映画を観て時間を無駄にするほど、人生は長くありません。それが「素直な気持ち」です。

投稿: 雅哉 | 2010年7月25日 (日) 11時32分

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