前回のリストはこちら。
そもそも上方落語を生で聴いたことがないという初心者の方に向けてのガイダンス的企画として始まったもの。当然異論はあるだろうが、人の好みというのは千差万別なのでご容赦を。
ではまず、現時点で僕が一押しの落語家十人(順不同)。桂米朝さんは現役とは言えないので、リストから外している。
- 桂春團治
- 桂雀々
- 桂よね吉
- 月亭遊方
- 林家染二
- 笑福亭鶴瓶
- 笑福亭鶴笑
- 笑福亭たま
- 桂文珍
- 桂文太
上方落語四天王の一人、春團治さんは別格の存在感。シュッとした羽織の脱ぎ方ひとつをとっても名人芸で、何度観ても惚れ惚れする。代表的ネタは「代書屋」「祝いのし」
雀々さんはスピード感と、その口調の心地よいリズムが持ち味。お勧めは「くっしゃみ講釈」「疝気の虫」「地獄八景亡者戯」
吉朝一門のよね吉さんの十八番は何と言っても芝居噺。指先にまで神経を行き届かせた繊細な動き、所作が美しい。着物の趣味もいい。「七段目」「蛸芝居」「天災」
遊方さんは愛すべき噺家である、その人柄が彼の新作に滲み出している。繁昌亭創作賞受賞。自称”高座のロックンローラー”、でも健康オタクでもある。天王寺在住で天王寺ネタが愉しい。代表作「いとしのレイラ ~彼女のロック~」(遊方 作)「天狗の恩返し」(金山敏治
作)
染二さんは兎に角上手い人。繁昌亭大賞受賞。「たちぎれ線香」が絶品。ただ、人情噺を演りたがるのが難。
鶴瓶さんの「らくだ」は圧巻だった。笑福亭の芸を継承しながら、オリジナルのエピローグを付加する。芸能界の頂点を極めた人だけに鶴瓶噺がさすがに面白く、私落語「ALWAYS -お母ちゃんの笑顔- 」「青春グラフティ松岡」もお勧め。ただし、上方で最もチケット入手困難な人だから、聴きたければそれなりの気合が必要。
鶴笑さんはクレイジーなパペット落語が最高!「義経千本桜」「ゴジラ対モスラ」など。
たまさんの新作は筒井康隆的知性が魅力。ただし、万人受けはしないかも。繁昌亭創作賞受賞。ユニークなショート落語やオーバー・アクションの古典もいい。「胎児」「伝説の組長」(たま 作)、「いらち俥」(古典)
文珍さんは時事ネタを盛り込むのが上手い人。ブラック・ジョークはきついが、機智に富む。古典と新作の両刀使い。「粗忽長屋」「地獄八景亡者戯」など。
名人文太さんは抜群の安定感を誇る。どの噺を聴いても満足出来る。飄々とした軽やかさが魅力。特に贋作シリーズがお勧め。
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次に、この人なら間違いがないという十人(順不同)。
- 笑福亭福笑
- 笑福亭松喬
- 月亭八方
- 桂ざこば
- 桂九雀
- 桂吉弥
- 桂吉坊
- 桂三枝
- 桂あやめ
- 桂文三
福笑さんは過激でアナーキーな新作に本領を発揮する。立川談志さん言うところの「落語とは、人間の業(非常識)の肯定である」という意味がよく理解できる。新作は「瀞満峡(どろみつきょう)」「憧れの甲子園」、古典では「代書屋」がいい。
松喬さんは愛嬌のある大阪のおっちゃん(兵庫県出身だけど)。笑福亭の正統派という感じかな。酔っ払いが上手く、登場人物の一人を吃音で喋らせるなど、松鶴の芸をしっかりと受け継いでおられる。「質屋蔵」が良かった。
八方さんは悪い男が良く似合う。ご本人も「陰のある、暗い噺が好き」と仰っていた。「算段の平兵衛」と「大丸屋騒動」が絶品。
ざこばさんはある意味大雑把だけれど、そのダイナミックな語り口に魅力がある。「遊山船」や「子は鎹」が良かった。
九雀さんが創作した噺劇(しんげき)が僕は好き。芝居仕立ての落語で、これなら僕が大嫌いな人情噺でも、真面目に聴こうかという気にさせてくれる。「蜆売り」が良かった。また通常の高座で聴いた「たちぎれ線香」はテンポ良く、湿っぽさがないのが気に入った。
吉弥さんは弟弟子のよね吉さん同様、「七段目」など芝居噺で本領発揮。でも「高津の富」や「鴻池の犬」もいい。持ち前の明るい華やかさが魅力。それからネタに上手く直結させた、マクラの作り方が抜群に上手い。繁昌亭大賞受賞。
吉坊さんは所作の美しさに惹かれる。繁昌亭輝き賞受賞。好きなネタは「胴切り」
三枝さんが創作された200を超える落語の質の高さは他の追随を許さない。「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」みたいにそれが全国で通用するネタというのも素晴らしい。僕が凄みを感じるのは「ゴルフ夜明け前」「大阪レジスタンス」
噺家は女性というだけで大きなhandicapを背負うことになるが、それを創作落語によって見事に克服したのがあやめさん。女性にしか書けない視点がお見事。「義理ギリコミュニケーション」「私はおじさんにならない」「落語男」などがお勧め。また林家染雀さんとコンビを組んだ音曲漫才・姉様キングスもすごく愉しい。
文三さんは持ち前の機嫌よさ、明るさが爽やかで気持ち良い。客席への気配りもすごい。これぞ芸人の鑑。「動物園」「狸賽」「井戸の茶碗」「芋俵」などが印象に残った。
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さらに気になる五人。
梅團治さんは何と言ってもその豪快な語り口が印象的。「宇治の柴舟」とか「竹の水仙」が良かったな。
桂福丸さんは京都大学法学部卒で、2007年11月に入門したばかりの超若手。それなのに相当稽古をしているのか、滅茶苦茶上手い。笑福亭たまさんの説によると、「先輩に気を使ってまだ八分目くらいの力しか高座で出していない」とのこと。将来どのように豹変するのか今から愉しみである。リズム感が良いので、ポスト枝雀のポジションを担うのは彼かも知れない……なーんてね。
文我さんのありがたいところは、兎に角珍しいネタを高座に掛けてくれること。上方落語の奥深さを実感させてくれる。特に「妲妃のお百」には感動した。
三喬さんの十八番は泥棒ネタ。「月に群雲」(小佐田定雄 作)「おごろもち盗人」など。他には「崇徳院」が素晴らしかった。繁昌亭大賞受賞。
高い声の喬介さんはそのキャラクターに魅力を感じる。アホの喜六ぃ公(喜六 )が落語の中からそのまま飛び出してきた雰囲気。
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さて、以上のリストは勿論、流動的なものである。1年も経てばまた入れ替わりもあるだろう。また次回をお楽しみに。
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