直木賞vs.山本周五郎賞/いま、一押しの作家はこの人!
今や直木賞(文藝春秋社)の権威は地に落ちた。山本周五郎賞(新潮社)との比較で受賞作を見てみよう。
- 佐々木譲 「エトロフ発緊急電」(1990、山本賞)→「廃墟に乞う」(2010、直木賞)
- 宮部みゆき 「火車」(1993、山本賞)→「理由」(2002、直木賞)
- 船戸与一 「砂のクロニクル」(1992、山本賞)→「虹の谷の五月」(2000、直木賞)
- 天童荒太 「家族狩り」(1995、山本賞)→「悼む人」(2009、直木賞)
- 白石一文 「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」(2009、山本賞)→「ほかならぬ人へ」(2010、直木賞)
つまり、直木賞は常に後だしジャンケンなのである。しかも北村薫など、既に評価が定まった作家(安全パイ)を選出する。特に佐々木譲のケースは呆れた。山本周五郎賞の実に20年後の受賞である。例えて言うなら、村上春樹に今更、芥川賞を与えるようなものである。
上記小説を読まれた方は大方同意されると思うが、その作家の代表作と言えるのは、はやり山本周五郎賞受賞作の方である。
それにしても白石一文の「ほかならぬ人へ」は酷かった。デビュー作「一瞬の光」の完全な自己模倣。こんな駄作に直木賞を与えるなら、むしろ「一瞬の光」が受賞すべきだった。その点、山本賞を獲った「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」は優れた作品であった。こちらは選考委員の目が高い。
しかし困ったことに山本賞を受賞しても本は大して売れないが、直木賞だと爆発的に売れる。知名度が全然違うのである。
ここ最近、直木賞を受賞した小説20作品のうち、文藝春秋社から出版されたものは13冊。つまり65%を占めている。いくら本が売れない時代とはいえ、これは公平性を欠いたあからさまな選考としか言いようがない。
だから僕は直木賞を信用しない。むしろ読んでみたいなと食指が動くのは山本周五郎賞や書店員が選ぶ本屋大賞受賞作である。こちらはまず、ハズレがない。
そんな中、最近山本周五郎賞を受賞した作品の中で、僕が一番お気に入りなのが「夜は短し歩けよ乙女」(2007年)である。
著者の森見登美彦は1979年奈良県生まれ。京都大学農学部を卒業し2003年「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞、作家デビューした。第2作「四畳半神話大系」はアニメ化され、現在フジテレビ系列で放送中である。
「夜は短し歩けよ乙女」は2007年本屋大賞の第2位。この年、第1位「一瞬の風になれ」の得点が 475.5点で「夜は短し歩けよ乙女」が455点だから僅差だったと言えるだろう(第3位「風が強く吹いている」は247点)。また森見の「有頂天家族」は2008年本屋大賞第3位にランクインしている。
さらに「夜は短し歩けよ乙女」は今年、大学の文芸部員が大学生に向けた推薦図書を選ぶ文学賞「大学生読書人大賞」も受賞した。
この小説の魅力は、摩訶不思議なめくるめく青春ファンタジーであること。そして森見作品は全て京都が舞台となっているのも特徴的である。
また各小説間の関連性も興味深い。例えば「夜は短し歩けよ乙女」に登場する三階建て《偽叡山電車》や《偽電気ブラン》は「有頂天家族」にも出てくるし、「夜は短し歩けよ乙女」のゲリラ演劇プロジェクト《偏屈王》や(京都)大学工学部校舎屋上に建設された《偏屈城》は、その美術監督や裏方が「宵山万華鏡」に登場する。
「宵山万華鏡」を読んでいて、押井守監督のアニメーション映画「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」や「迷宮物件」に凄く似ているなと想った。そしてよくよく調べてみると、森見が押井ファンであることが判明した→こちら。もし押井が「夜は短し」をアニメ化したら、大傑作になるかも。
落語との関連性も指摘しておこう。「有頂天家族」は上方落語でお馴染みのキャラクター、狸や鞍馬の天狗が登場し、「宵山万華鏡」の《地獄の宵山巡り》は落語「地獄八景亡者戯」を彷彿とさせる。
森見登美彦の小説はライトノベルみたいに気軽に読めるし、とにかく面白い!未体験の方は是非、まずは文庫本「夜は短し歩けよ乙女」を手に取ってみて下さい。
関連記事:
- 面白きことは良きことなり!(「有頂天家族」について)
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