ウィーン・ミュージカル「レベッカ」
イギリスの女性作家ダフネ・デュ・モーリアの小説「レベッカ」は1938年に出版された。1940年にはアルフレッド・ヒッチコック監督の手で映画化され、アカデミー作品賞および撮影賞を受賞。これはヒッチコックの渡米第一作となった。
「レベッカ」という作品の大きな特徴は、タイトルロール、つまりレベッカが最後まで登場しないことである。物語の発端から既に彼女は死んでおり、登場人物たちの想い出として語られるのみ。しかしそれでもなお、彼女の影響力は絶大であり、全てを支配している。
僕は「レベッカ」という作品のことを考える時、上方落語の”爆笑王”こと、桂枝雀さんのことを連想する。枝雀さんが亡くなって既に十年以上経つが、未だに上方の噺家たちの多くが彼に囚われている。落語のマクラで話題に上るのは、現役の噺家のエピソードよりも枝雀さんのことの方が多い。それだけ存在感が大きかったということなのだろう。
梅田芸術劇場へ。
ミュージカル「レベッカ」は2006年ウィーン・ライムント劇場で幕を開けた。「エリザベート」「モーツァルト!」「マリー・アントワネット」で一世を風靡したミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽)の名コンビによる作品。
いやぁ、とにかく面白かった!サスペンス・ドラマとして秀逸だし、楽曲がいい。ワクワクする。ただ「モーツァルト!」もそうだったのだが、前半不必要なまでにソロが多く、冗長な感は否めない。「こんな脇役の心情吐露なんかどうでもいいのに……」と時折、苛々した。2、3曲カットすればすっきりするだろうに。
しかし後半は怒涛の展開。屋敷が燃え上がるシーンは本物の炎も使ってスペクタクル感たっぷり。
クンツェ&リーヴァイは特に合唱曲が素晴らしい。劇的で迫力がある。また、「わたし」や夫のマキシムの歌は比較的転調が少ないが、家政婦頭ダンヴァース夫人や他の人がレベッカについて語る時には目くるめく転調をする。それにより妄執・狂気の雰囲気が巧みに醸し出されるのである。
「わたし」を演じる大塚ちひろは容姿が可憐で、発声が素直。伸びのある澄んだ歌唱で申し分ない。マキシム役の山口祐一郎はもともと演技が単調なのだが、この役では余りそれが気にならなかった。そして何と言っても特筆すべきはダンヴァース夫人の演技で第34回菊田一夫演劇賞を受賞したシルビア・グラブ。怖いくらいの気迫があり、堂々として力強い歌唱も圧巻。また、小悪党ジャック・ファヴェル役の吉野圭吾が軽妙な演技と愉快な踊りで好演した。
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