シリーズ《映画音楽の巨匠たち》 第1回/ニーノ・ロータ 篇
キネマ旬報社から「オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇」という本が出版された。これは映画評論家、音楽評論家、映画監督、作曲家、文化人らにアンケートし、集計したもの。
ベストテンは以下の通り。
- 男と女(フランシス・レイ)
- ゴッドファーザー(ニーノ・ロータ)
- 第三の男(アントン・カラス)
- ニュー・シネマ・パラダイス(エンニオ・モリコーネ)
- ウエストサイド物語(レナード・バーンスタイン)
- シェルブールの雨傘(ミシェル・ルグラン)
- スター・ウォーズ(ジョン・ウィリアムズ)
- 太陽がいっぱい(ニーノ・ロータ)
- 仁義なき戦い(津島利章)
- 死刑台のエレベーター(マイルス・デイビス)
ここでイタリアの作曲家、ニーノ・ロータが2作品ランクインしているのが目を惹く。さらに20位までにフェデリコ・フェリーニ監督とロータのコラボレーション「8 1/2」と「道」の2作品も入選している。また「好きな映画音楽作曲家」ベストテンにおいて、ロータは堂々第1位に輝いた。
「ニーノ・ロータは天使のような人だった」……フェリーニの言葉である。
ロータの音楽の魅力は一言で語るなら、その美しくも哀しみに満ちた旋律にあるだろう。ルキノ・ヴィスコンティ監督のイタリア映画「山猫」に代表される、格調高いシンフォニックなクラシック音楽を基調にしながら、時に「カビリアの夜」や「甘い生活」のようにJAZZの風味を盛り込んだりもする。また特にフェリーニ作品で顕著なのだが、「道」や「8 1/2」などサーカス音楽で賑やかに騒いだりもする。しかし一見陽気な音楽の中に、ロータ特有の孤独感、哀愁が失われることはない。
ロータとフェリーニは映画「白い酋長」(1951)で出会い、意気投合した。そしてロータが亡くなる直前の「オーケストラ・リハーサル」(1979)まで、その共同作業は続いた。映画監督と作曲家のこれだけ長きに渡る協力関係は非常に稀で、僕が思いつくのはスティーブン・スピルバーグとジョン・ウィリアムズくらいだろうか(1974年スピルバーグの映画監督デビュー作以来、現在まで)。
僕はそうだなぁ、「カビリアの夜」もお気に入りだし(試聴はこちら)、「ゴッドファーザー PART II」の切ない”移民のテーマ”も好きだ(少年時代のヴィト・コルレオーネがシチリアからニューヨークに移民船で渡り、初めて自由の女神像を目の当たりにする場面。試聴はこちら)。イタリア古楽の風味が付けられた「ロミオとジュリエット」もいい。
そして忘れられないのが小学生のとき映画館で観た「ナイル殺人事件」。僕は当時アガサ・クリスティの大ファンだったので、親にねだって連れて行ってもらったのである。ニーノ・ロータの音楽は雄大なナイル川のように滔々と流れ、そして美しかった。亡くなる前年の傑作である(試聴はこちら)。当時サントラのLPレコードを小遣いで買い、現在はCDで所有している。
ロータは「本業はあくまでクラシックの作曲であり、映画音楽は趣味に過ぎない」と語っていた。生涯に4つの交響曲、2つのピアノ協奏曲、弦楽のための協奏曲、そしてオペラ「フィレンツェの麦わら帽子」などを書いた。
現在ロータの音楽に熱心に取り組んでいるのが名指揮者リッカルド・ムーティである。彼はミラノ・スカラ座管弦楽団とロータのアルバムを何枚かレコーディングしているし、ウィーン・フィルとの来日公演でも映画「山猫」の音楽と、トロンボーン協奏曲を取り上げている。ムーティは南イタリアのナポリに生まれ、バーリ音楽学校へ入学した。この時校長をしていたのがニーノ・ロータだった。
さて、児玉宏/大阪交響楽団は2011年3月の定期演奏会でニーノ・ロータ/交響曲 第4番「愛のカンツォーネに由来する交響曲」を取り上げる。これは第1楽章の主題がイギリス映画「魔の山」(The Glass Mountain,1948)のテーマ曲となり、第3,4楽章は映画「山猫」(1963)に転用された(試聴はこちら)。限りなく美しい旋律、浪漫的で芳醇な香りに満ちた名曲である。「魔の山」のクライマックス・シーンはこちら(「愛のカンツォーネ」という意味がこれを見れば分かる)。そしてピアノ協奏曲風にアレンジしたものはこちら。
関連記事:
| 固定リンク | 0
「Cinema Paradiso」カテゴリの記事
- 石原さとみの熱い叫びを聴け! 映画「ミッシング」(+上坂あゆ美の短歌)(2024.06.10)
- 映画「オッペンハイマー」と、湯川秀樹が詠んだ短歌(2024.06.15)
- デューン 砂の惑星PART2(2024.04.02)
- 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2024(「サウンド・オブ・ミュージック」「オペラ座の怪人」のおもひでぽろぽろ)(2024.04.01)
- 2024年 アカデミー賞総括(宴のあとで)(2024.03.15)
「クラシックの悦楽」カテゴリの記事
- 映画「マエストロ:その音楽と愛と」のディープな世界にようこそ!(劇中に演奏されるマーラー「復活」日本語訳付き)(2024.01.17)
- キリル・ペトレンコ/ベルリン・フィル in 姫路(2023.11.22)
- 原田慶太楼(指揮)/関西フィル:ファジル・サイ「ハーレムの千一夜」と吉松隆の交響曲第3番(2023.07.12)
- 藤岡幸夫(指揮)ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番 再び(2023.07.07)
- 山田和樹(指揮)ガラ・コンサート「神戸から未来へ」@神戸文化ホール〜何と演奏中に携帯電話が鳴るハプニング!(2023.06.16)
「Film Music」カテゴリの記事
- KANは「愛は勝つ」の一発屋にあらず。(2023.12.27)
- 三谷幸喜の舞台「大地」とフェリーニの映画「8 1/2」(2020.12.11)
- シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第8回/究極のエンニオ・モリコーネ!(2020.07.13)
- 望海風斗(主演)宝塚雪組「ONCE UPON A TIME IN AMERICA (ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ)」(2020.01.31)
コメント