二日間、柳家喬太郎三昧+サントリー山崎蒸留所(2010年6月)
いま旬で面白い上方落語の噺家を20人選べと言われれば、すらすらと名前が出てくる。それを10人、あるいは5人に絞ることも容易い。では、トップランナー1人を挙げろと言われたら、ここではたと困ってしまう。十数年前なら可能だったろう。だが桂枝雀亡き後、上方に突出した才能、スーパースターが不在であることは否定しようのない事実である。
しかし、上方に限定せず「全ての落語家」に対象を広げれば、答えはひとつしかない。柳家喬太郎、THE ONE AND ONLY.問答無用、これで決まりだ。
喬太郎さんは文春MOOK「今おもしろい落語家ベスト50 -523人の大アンケートによる-」で第1位に選ばれた。アンケートはそれぞれ3人の噺家を選ぶ形式だったが、直木賞作家でデビュー作「空飛ぶ馬」に落語家探偵”春桜亭円紫”を登場させた北村薫は、柳家喬太郎ただ一人を記入した。
そんな喬太郎さんが久しぶりに大阪で落語会をされたので聴きに行った。
一日目、土曜日。難波のトリイホールで「柳亭市馬・柳家喬太郎 二人会」。昼・夜二回公演とも、チケットは早々に完売。
- 旭堂南青/荒大名の茶の湯(講談)
- 柳家喬太郎/夜の慣用句(喬太郎 作)
- 柳亭市馬/厩火事
- 柳亭市馬/二人旅
- 柳家喬太郎/井戸の茶碗
市馬さんという噺家は、そもそもオーソドックス(端正)な芸風で、その温厚な人柄が滲み出す高座に味がある。そして声がよく、歌が上手い。しかしそれ以上のものを求めるべきではないというのが僕の結論。そういう意味において、今回も市馬さんらしい内容だった。
喬太郎さんは新作も古典も抱腹絶倒、ただただ圧倒されるのみ。現代若者気質など、その観察眼の鋭さがキラリと光る。じいっと客席を見渡す、醒めた目。選ばれし者のみが与えられた孤高の雰囲気。これぞ至芸。また、しょーもない江戸の人情噺を決してされないという点も好感度大。
「井戸の茶碗」は宮崎アニメ「ルパン三世 カリオストロの城」の名台詞じゃないけれど、登場人物全てが「何と気持ちのよい連中だろう」という噺だが、この美談にはひとつの大きな穴がある。そこを喬太郎さんは「百五十両でお嬢さんを売り飛ばしちまうんですか!?」というギャグで見事にクリアしてしまった。いやはや、恐れ入った。
二日目、日曜日は喬太郎を聴く前に京都のサントリー山崎蒸留所へ。
仕込→発酵→蒸溜→貯蔵庫と見学し、最後は試飲。
さらにバーで「山崎 18年」や「響 21年」をショットで味わう。
芳醇な薫り、背徳の匂い。
山崎を後にして、大阪府・高槻市の亀屋旅館へ。
今度は喬太郎(文字通りの)独演会。二回公演で、どちらも予約で満席。東京の噺家が亀屋寄席に登場するのは、これが初めてだそう。
- 初音の鼓
- 寿司屋水滸伝・発端(喬太郎 作)
- 死神
「初音の鼓」は前回の「柳亭市馬・柳家喬太郎 二人会」でも演じられたが、何度聴いても新鮮で面白い。絶品。
「寿司屋水滸伝」は梁山泊に集まった108人の豪傑たちを描いた中国の古典小説「水滸伝」を基にしているが、「うなぎ屋(素人鰻)」のパスティーシュにもなっている。
「死神」のタイトルロールには凄みが感じられた。まるで怪談噺を聴いているような息詰まる緊張感。そして時折訪れる《緊張の緩和》(=笑い)。何とこの人は引き出しの多い噺家なんだろう。
今回聴いた喬太郎さんのシュールでナンセンスなギャグの数々は、赤塚不二夫の漫画を想い出させた。そこで帰宅し調べてみると、やはり彼が赤塚ファンであることが判明。日本列島落語化計画「三題噺の会」で赤塚不二夫のキャラクターをボードにたくさん描いたというのだ。→こちら。イラストの写真はこちら。滅茶苦茶絵が上手い!
柳家喬太郎という天才と同時代に生き、寄席というひとつの空間を共有出来ることの奇跡。「枝雀には間に合わなかったけれど、喬太郎にはめぐり会えた」という至福を、改めて噛み締めた二日間であった。
| 固定リンク | 0
「古典芸能に遊ぶ」カテゴリの記事
- 柳家喬太郎 なにわ独演会 2021(2021.10.01)
- 柳家喬太郎独演会@兵庫芸文 2021(2021.07.30)
- 「らくだ」笑福亭鶴瓶落語会 2021 @兵庫芸文(2021.02.07)
- 柳家喬太郎 なにわ独演会 〈第三回〉(2020.10.07)
- 新型コロナウィルスと”浮草稼業“(2020.02.28)
「旅への誘ひ」カテゴリの記事
- 「シシ神の森」屋久島旅行記(2019.08.26)
- 平成最後の吉野の桜(2019.04.17)
- 小豆島へ(2019.03.30)
- 再び法師温泉へ!(2019.01.08)
- 宮古島へ!(2018.08.18)
コメント
はじめまして。いつも読み逃げしてますが、コメントせずにはおれませんでした。
「枝雀には間に合わなかったけれど、喬太郎にはめぐり会えた」まさにその通りです!
枝雀さんは亡くなったあとに出会ってしまったのだけど、喬太郎さんは今の人・・どんどん落語会行きたいです・・でもめったに大阪には来ませんね・・
投稿: ぽんすけ | 2010年6月21日 (月) 22時05分
ぽんすけさんらしきtwitterを発見しましたが、もしかして岡山の方ですか?僕も岡山出身で、大阪は5年前に来ました。
市馬・喬太郎二人会は半年ごとにありますし、大阪でも大人気の喬太郎さんですから、これからどんどん落語会は増えるんじゃないでしょうか?一生追っかけていきたいと想います。
投稿: 雅哉 | 2010年6月21日 (月) 23時14分
はい、生まれも育ちも岡山・・岡山在住のぽんすけです。
落語は、大阪、兵庫あたりによく観に行ってます。
喬太郎さんは一度しか生で拝見したことがないので、また、チェックしておきます。今度BSTBSの落語研究会で、特集があるようなので、楽しみですわ。
いつも、読み逃げですが、映画やミュージカルのレビュー参考にさせてもらってますよ・・
吹奏楽の旅がまた始まるということもこちらで知りました。
投稿: ぽんすけ | 2010年6月22日 (火) 22時11分
ぽんすけさん、やはりそうでしたか。
拙ブログがお役に立っていると聞いてとても嬉しいです。またコメントお願いしますね!
亀屋の女将は、喬太郎さんに次回の交渉もしていたみたいですね。いずれ具体的な発表があることでしょう。
投稿: 雅哉 | 2010年6月23日 (水) 00時19分