松たか子主演/映画「告白」
評価:AA
打ちのめされた。もの凄い映画だ。もうただただ、中島哲也監督にひれ伏すのみ。今年の日本映画ベストワンは早々にこれで決まり。
全編悪意に満ちた内容だから観るには相当の覚悟が必要だが、僕は来年の米アカデミー外国語映画賞の日本代表は絶対これにすべきだと声を大にして言いたい。いや、むしろ今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門にどうして本作が選ばれず、北野武の「アウトレイジ」なんかがエントリーされたのか?責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。
聞くところによるとハリウッドのメジャー・スタジオ3社から既にリメイクのオファーが殺到しているという。当然だろう。ちなみにリメイク版についての中島監督のご指名は、松たか子→ニコール・キッドマン、岡田将生→ダニエル・ラドクリフ、木村佳乃→サラ・ジェシカ・パーカーだそうだ。
映画公式サイトはこちら。
僕は湊かなえが書いたこの原作を、2009年に本屋大賞を受賞した時点で読んでいる。しかし、余り好きにはなれなかった。後味は悪いし、プロットのご都合主義と、整合性のなさを受け入れられなかったのである。
しかし、映画版はそんなことを微塵も感じさせなかった。映画が原作を超えるーそんな希有なことが、「告白」では起こったのである。上映時間106分。こんなコンパクトなサイズにあの小説をまとめ、しかも物足りなさは皆無なのだから、中島監督の脚色はお見事としか言いようがない。ラストの松たか子の台詞にも参った。
映画はブルーを主体とする寒色系に画質が統一され、正にこの世の地獄が描かれる(神も仏もあるものか)。しかし時折、想い出の場面などに暖色系の画面が紛れ込んだりする。その計算された色彩設定が素晴らしい。そして映画のエンド・クレジットでは次第に空が晴れてきて、救いの光が差し込んでくるのである。実にスタイリッシュ。
スローモーションの的確な使用、水が弾けるシーンの美しさ、そして鮮烈な俯瞰ショット。文句のつけようがない。選曲のセンスも光る。
中島監督が2004年に撮った「下妻物語」(キネマ旬報ベストテン第3位)はとても好きな映画だったが、「告白」は軽くそれを超えてしまった。
能面のように無表情で、淡々と台詞を(意図的に)棒読みする松たか子が怖ろしい。狂気を孕んだ木村佳乃の演技も凄みがある。また”北原美月"役を演じた橋本愛が本当に美少女で、時めいた……なーんてね。
- ヤンキーちゃんとロリータちゃん、キューティーハニーを撃退するの巻
(2004年6月に書いた、「下妻物語」のレビュー)
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コメント
後味の悪い作品を好まない雅哉さんがこんな高評価とは意外でした。これは見に行かねば。
投稿: ゴム | 2010年6月 7日 (月) 06時34分
ゴムさん、本文中にも書きましたが全編、悪意が漲った映画ですから、それなりの覚悟をして臨んで下さいね。映画が終わっても、客席が水を打ったように静まりかえっていました。それだけ衝撃が大きかったのでしょう。
投稿: 雅哉 | 2010年6月 7日 (月) 07時36分
「告白」は近いうちに行こうと思います
俺がぜひ見てほしい見応えのある力作は「ヒーローショー」です。井筒和幸がお得意の涙と笑いを封印して贈る「2010年版ガキ帝国」ともいえるすごい力作です。映画ファンなら劇場で御覧になったほうが吉です。
投稿: S | 2010年6月 7日 (月) 13時12分
Sさん、そもそも僕は「ガキ帝国」が好きじゃありません。「岸和田少年愚連隊」も詰まらなかった。自虐史観に基づく「パッチギ!」に至っては、呆れ果てました。
もうこれくらい付き合えば十分でしょう。井筒の映画は今後一生、観る気はありません。
投稿: 雅哉 | 2010年6月 7日 (月) 18時31分
告白が外国語映画賞で一次審査を突破しましたね。この映画一見、少年犯罪を主題にしたもののように見えますが、実は幼稚化する日本社会風刺映画なのですね。私には岡田将生が演じる空回りする教師が鳩山首相に見えてしまいました。
まだノミネートされるかわかりませんが、この今までの受賞傾向から大きく離れた復讐劇が評価されたのは意外でした。それだけこの映画に力があったということでしょうか?
投稿: 山本山 | 2011年1月22日 (土) 20時12分
映画を政治と絡めて語ることを僕は好みません。時の首相などは20年もすれば話題になることもありませんが、映画「告白」はいまから100年後でも人々に観られ、記憶される作品です。
「告白」の評価は当然です。それだけの傑出した作品ですから。だから公開当時に書いたこのレビューでもアカデミー賞のことに触れているのです。
投稿: 雅哉 | 2011年1月23日 (日) 11時04分