映画「17歳の肖像」とジャクリーヌ・デュ・プレ
評価:B
イギリス映画で原題は"An Education"(教育)。1961年、ロンドン。主人公はオックスフォード大学を目指す16歳の女子高生(映画の半ばで17歳の誕生日を迎える)。学校ではチェロを弾いていて、発表会ではエルガーを演奏する。ある雨の日、彼女はユダヤ人の青年と出会う。その体験を通して、彼女が何を学ぶのかがテーマとなっている。公式サイトはこちら。
ヒロインは思春期の女の子らしく、精一杯背伸びして大人の世界に憧れている。同級生の男の子なんて、子供っぽくて相手にならない。彼女は教師に隠れてタバコを吸い、家ではジュリエット・グレコの歌うシャンソン「パリの空の下セーヌは流れる」を聴きながら、パリでの生活やシャネルの香水を夢見る。
彼女が青年に車で連れて行ってもらう、ウエストエンドの教会で演奏されているのがフランス印象派の作曲家モーリス・ラヴェル/序奏とアレグロ(ハープ、フルート、クラリネット、弦楽四重奏のための)。このあたり、洗練された選曲がニクイね。
米アカデミー賞では作品賞・主演女優賞(キャリー・マリガン)・脚色賞にノミネート(受賞なし)、英国アカデミー賞(BAFTA)では作品・監督など7部門ノミネートのうち、主演女優賞を受賞した。
キャリー・マリガンは現在、”オードリー・ヘプバーンの再来”と呼ばれているそうな。ファッショナブルな衣装に身を包んだ彼女はパリの風景によく似合う。実は撮影当時、彼女は22歳だった(現在24歳)。確かに好演しているが、ただティーンエイジャーにしては目じりの皺が少々気になったかな。
僕は映画を観ながら、夭折の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレのことを否応なく想い出した。彼女はオックスフォード生まれ。1961年にロンドンでデビューし、同年エルガー/チェロ協奏曲をレコーディングしセンセーションを巻き起こした。彼女が16歳のことである。そして1966年にユダヤ人の指揮者ダニエル・バレンボイムと結婚、その時ユダヤ教に改宗したため両親の逆鱗に触れる。1971年(26歳の時)にデュ・プレは指先などの感覚が鈍くなってきたことに気付き、難病の多発性硬化症と診断され引退を余儀なくされる。病気の進行で42歳で死去。彼女が亡くなる前、バレンボイムは既に別の女性とパリで同棲生活に入っており、二人の子をもうけていた(ジャッキーの死後、再婚)……余りにも符合が多すぎる。やはりこの映画を観た多くのイギリス人たちも、ジャッキーの不幸な生涯を連想したのではないだろうか?
しかしこの映画のヒロインが同様の悲劇に見舞われるわけではない。彼女はしっかりと立ち直り、前向きに生きてゆく。そして人生は続く……
なお、バレンボイムは2009年にウィーン・フィル「ニュー・イヤー・コンサート」の指揮台に立ち、同年ミラノ・スカラ座の来日公演を振った。
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