京都の旅/桂離宮の謎と、桂枝雀の足跡を訪ねて
京都・桂離宮へ。
ここは17世紀に造られた八条宮家の別荘である。桂離宮には七つのキリシタン灯篭があるなど、謎めいたところが多い(創建した智仁親王の片腕でもあった本郷織部の一族七人はキリシタンゆえに処刑された。そしてその七年後、キリシタン灯篭が置かれた)。いわば日本版「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」みたいな雰囲気がある。
ルネッサンス時代ヨーロッパで確立された「パースペクティブ」(遠近法)の手法が用いられており、道は遠くに行く程徐々に幅が狭くなっている。目の錯覚を利用しているのである。
初代・智仁親王、二代・智忠親王はともに正室を一人だけ迎えた。側室を持たないというのは当時としては珍しく、二人とも隠れキリシタンだったのではないかと推察されている。
茶室・松琴亭 (しょうきんてい)。襖(ふすま)の青と白の市松模様はモダニズムに溢れている。
月波楼(げっぱろう)から池を望む。
写真中央に見えるのが三光灯篭。丸が太陽、その横に三日月、そして側面の四角が星を表している。
笑意軒(しょういけん)三の間は七畳半になっており、これは武士にとって「切腹の間」を意味した。武家に対する嫌がらせだったのかも知 れない。無言の抗議ーなんとも反骨精神に満ちた建築である。京都人らしいと言えるかもしれない。
桂離宮を後に嵯峨野へ。愛宕念仏寺(おたぎねんぶつじ)を訪ねた。
上田文世(著)「笑わせて笑わせて桂枝雀」は著者が愛宕念仏寺で枝雀さんに会う場面から始まる。うつ病で高座を休んでいた1998年のことである。その様子が次のように描写されている。
……そんな羅漢像の前で桂枝雀は、爽やかにほほ笑んでいた。何の屈託もなくほっこりとして、そこに並ぶ羅漢さん以上に、伸びやかな表情だった。(中略)自ら羅漢像の中に入っていって、カメラに向かってポーズを取った。
羅漢はそれぞれ、穏やかな表情を浮かべていた。それは枝雀さんの座右の銘、「萬事(ばんじ)気嫌よく」を彷彿とさせるものだった。
寺の出入り口には、ここの住職が西村公栄という名前で、シンセサイザーで作曲も手がけていると紹介されていた→詳細はこちら。この記述を見て、僕はふとあることを想い出した。(枝雀の弟子)桂 文我さんが出したDVD BOOK「落語でお伊勢参り」の音楽を担当したのがこの住職であった。そうか、そういう繋がりだったんだ……。それにしても寺の住職が神社に関係した音楽を作曲するというのも、考えてみればけったいな話である。まあ如何にも日本的な大らかさではあるが。
「笑わせて笑わせて桂枝雀」には次ような記述もある。
愛宕を出てからは南に下って、渡月橋に近い大堰川のほとりで休んだ。「ソフトクリームが欲しくなった」と言い出して、みんなと一緒に川面を眺めながら食べた。
この翌年、枝雀さんは自ら命を絶った。
さて、愛宕念仏寺から徒歩で平野屋の前を通った。
ここはテレビ映画の傑作中の傑作、「怪奇大作戦」第25話「京都買います」(1969年放送、実相寺昭雄 監督)に登場する、創業四百年の老舗。物語の中で名優・岸田森演じる”牧”がここでお茶を飲む(F.ソルが作曲した美しいギター独奏曲「モーツァルト『魔笛』の主題による変奏曲」が背景に流れる)。
さらに歩いて化野念仏寺(あだしのねんぶつじ)へ。ここも「京都買います」のロケ地である。
「賽の河原」の石仏は長い年月風雨にさらされ、表面は殆どツルツル。のっぺらぼうになっていた。
化野念仏寺の中にある竹林。木漏れ日が心地よかった。
なお、「怪奇大作戦」のロケ地を訪ねた別の旅の顛末は下記記事に書いた。
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