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マン・オン・ワイヤー

評価:A

2008年度米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門をはじめ、この年の映画賞を軒並み席巻した作品。僕は不覚にも劇場公開時に見逃したのでWOWOWで鑑賞。現在DVDが発売中である。映画公式サイトはこちら

Manonwire

1974年ニューヨーク。今はなき世界貿易センター(World Trade Center、WTC)ビルに不法侵入し、世界一の高さを誇る2つの塔に鋼鉄のワイヤーを渡して綱渡りをした男がいた。男は45分もの間空中に留まり、綱を8往復した。その場で男は逮捕され、マスコミが殺到し彼を質問攻めにした。「どうしてそんなことをしたのですか?」「目的は?」"Why?"

男の名はフィリップ・プティ。フランスの大道芸人である。この男の狂気も物凄いが、彼の夢(強迫観念と言い換えてもいい)の実現に協力した人々が何人もいたという事実にも圧倒される。別に金儲けに繋がるわけではない。犯罪の幇助で捕まり、国外退去を命じられるだけである。

人間は時に理性では推し量れないことを成し遂げるものなのだということを、この映画は僕たちに語りかける。

全ての生物が与えられた使命、究極の目的は、外敵から身を守り、自分の生命を維持し、子孫を残すこと。つまりDNA(遺伝子)を次の世代に受け継ぐことである。

しかし人間だけは、しばしばこの規定路線から逸脱した行為をなす。

例えば音楽を聴くこと。はっきり言ってそんなことは生きていく上で何の役にも立たない。ブログを書くことだってそう。生活の糧になるわけではない。「どうしてブログを書くのですか?」と問われたら、「書きたいから書くのです」と答えるしかない。それは理屈を超えた、内的衝動なのである。ブログを読んでいるあなただってそう。こんなもの読んだって、全く時間の無駄です。

しかし僕は考える。無駄なことをするからこそ人間って愛しい。どうしようもなく愚かだからこそ、人は面白いのだと。

立川談志さんはこう語った。「落語とは人間の業(非常識)の肯定である」と。そういう意味において、フィリップ・プティは落語国の住人なのである(軽業師はしばしば上方落語に登場するキャラクターである)。

意味がないことが最高なんだ。

……そんなことを日々強く感じるようになった、今日この頃でございます。

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コメント

こんにちは。
これ面白かったです。綱渡りしている彼を、見つめる他の人物の視線が良かったですよね!
奥さん、警備員、親友、途中でやめた人、色んな人が協力して色んな事を考えて、でも共通するのはみんな夢を見てるような目をしてたというか…。私もその場にいて頼まれたら手助けしたかもなあって思わせる何かがありましたね。

投稿: ちかちか | 2010年5月25日 (火) 15時24分

ちかちかさん、コメントありがとうございます。

>共通するのはみんな夢を見てるような目をしてたというか…。

それはある意味、「狂気を共有していた」と言えるのかも知れませんね。人間の心というのは底知れないものだと改めて感じました。

投稿: 雅哉 | 2010年5月25日 (火) 23時16分

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