映画「オーケストラ!」と、のだめカンタービレ
評価:C-
フランス映画で原題は"Le Concert"。ロシアのボリショイから始まり、パリ・シャトレ座へ。かつては有名な指揮者だった中年清掃員が昔の楽団仲間を集め、オーケストラを再結成しようと奮闘する。公式サイトはこちら。
ラデュ・ミヘイレアニュ監督はルーマニア出身のユダヤ系。ブレジネフ時代、ソ連共産党によるユダヤ人迫害が物語に暗い影を落とし、ロマ(ジプシー)も登場。さらに元KGBやガス成金、ロシア・マフィア、酔っ払いの楽員などが入り乱れ、バイタリティ溢れる展開に。確かに前半は面白かった。
ただ音楽映画としては大いに問題あり。《虚構の中のリアリティ》がこの作品には皆無なのである。
例えば爺さんがトランペットを吹く場面、ピストンの指使い(運指)が出鱈目なのだ(僕は中学校の時、吹奏楽部で金管楽器を吹いていたことがある)。1分にも満たないシーンだ。どうして正しい運指を覚えなかったのか?プロの仕事としては失格だろう。
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲をシャトレ座で演奏するクライマックス。ここで女優が本当に弾いているように見えない。鳴っている音とボウイング(弓の動き)が合っていないだ。致命的である。
映画「のだめカンタービレ最終楽章」後編には水川あさみがブラームス/ヴァイオリン協奏曲を弾く場面がある。ここで彼女のボウイングと音は完璧にシンクロ(同期)していた。上野樹里がショパン/ピアノ協奏曲 第1番を弾く場面もしかり。「のだめ」が音楽映画としていかに素晴らしかったか、スタッフ・キャストの並々ならぬ意気込みとその努力の成果を、今回改めて痛感した次第である。
それから「オーケストラ!」のクライマックスで、曲の初めはピッチ(音程)がバラバラなのだが、次第に全員の気持ちが一つになり、ピッチが合ってくる。これも現実にはあり得ないことだ。管楽器の場合、音程が違うことに途中で気が付けば管の抜き差しにより調整は可能。しかし弦楽器はそうはいかない。弦の音程は糸巻きで張力を変えることにより設定される。ヴァイオリンやチェロなどには4弦ある。つまりその一つ一つを調弦しなければならない。演奏中には絶対不可能である。
そういう意味で本作はお粗末な出来であり、観ている途中で気持ちが萎えた。クラシック音楽を全く知らない初心者向けと言えるだろう。
ただ今度、ベルリン・フィルを振ることが決まった佐渡裕さんのプロデュースによるレナード・バーンスタインのミュージカル「キャンディード」を観るのだが、この演出がパリ・シャトレ座版なのである。どんな劇場なのかその雰囲気が分かったことは収穫であった。
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