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2010年5月14日 (金)

月なみ(^o^)九雀の日(5/12)/「立ち切れ線香」登場!

豊中市立伝統芸能館へ。

K01

桂九雀さんの会。自由料金制、お代は見てのお帰りで。入りは45-6人くらい。

K02

  • 桂弥太郎/子ほめ
  • 林家染二/住吉駕籠(半ば)
  • 桂   福車/代書屋
  • 桂   九雀/立ち切れ線香

開口一番は吉弥さんの一番弟子・弥太郎さん。「子ほめ」はつい先日、二番弟子の弥生さんでも聴いたばかり。面白いなと想ったのは、伊勢屋の番頭が登場する件(くだり)。ここで弥生さんは「いよぉ、どないした町内の人気者」と言っていたが、弥太郎さんも吉の丞さん(吉弥さんの弟弟子)も従来通り「いよぉ、どないした町内の色男」と。つまり人気者というフレーズは、弥生さんのために用意されたスペシャル・バージョンだったということが判明した。恐らく、女の子が「色男」という言い回しを使うのは似つかわしくないということなのだろう。吉弥さん、いい師匠だなぁ。

予定になかった染二さんは「通りすがりです」と飛び入り参加。「住吉駕籠」はネタおろし(初演)だそう。6/27に繁昌亭で開催される独演会にこれを掛けられるので、軽く腕慣らしといったところか。酔っ払いが絡んでくるところまで。前回染二さんが《通りすがり》で演った「らくだ」は50分を費やしたとか。「誰が主役の会なのか分からなくなってしまいました」

染二さんは現在、桂枝雀が初演した「貧乏神」(小佐田定雄 作)を持ちネタにされている。九雀さんによると、これを演じるに当たり染二さんは枝雀未亡人当てに、断わりの手紙を”巻紙”で出されたとか。「今時”巻紙”なんて何処で手に入るんでしょう?古風な人です」と九雀さん。

代書」は現在、大きく分けて3つのバージョンで口演されている。まずはこれを創作した四代目・桂米團治による、沢山の依頼者が登場する原典版(五代目米團治、宗助、千朝ら)。そしてこの客を一人に絞り、米團治の弟子・桂米朝が三代目・桂春團治に伝えた短縮(クライマックス)版。さらにそれを崩し、「セェ~ネンガッピ!」「ポンで~す」等のギャグを新たに加えた、桂枝雀によるJAZZ版(雀々、雀太ら)。

福車さんは春團治一門だから当然、短縮版。しかし最後、大食競争の件では「天満天神繁昌亭近くの中村屋のコロッケを76個食べて、三枝(上方落語協会)会長に表彰された」に変わっていたのがユニークだった。なお福車さんはマクラで眼鏡を掛けたまま喋り、本編に入る際に外された。

K03

プロの落語家でも「立ち切れ線香」のことを”人情噺”だと誤解している人が多い。しかし今まで何度も書いていることだが、このネタはあくまで純愛物語であって”人情噺”ではない。「冬のソナタ」や「世界の中心で、愛をさけぶ」のことを、誰も”人情噺”とは言わないでしょう?桂米朝さんも著書「落語と私」の中で、「立ち切れ線香」は人情噺ではないと明言されている。

僕は生(ライヴ)の「立ち切れ線香」を笑福亭鶴瓶笑福亭銀瓶桂春之輔林家染二桂 吉弥らの口演で聴いている。

今まで聴いた「立ち切れ線香」は特に後半、お茶屋の女将の語りの箇所で切々と、人情の機微に訴えるような”泣かせ”の演出がなされることが多かった。東京の人情噺に毒された、悪しき習慣である。

しかし今回聴いた九雀さんの場合、女将の語りになってもテンポが落ちることなくトントンと進み、湿っぽくなることが一瞬たりともなかったので驚いた。そして地唄の”雪”が流れる箇所に来ると、突然の長い沈黙。じっくりと若旦那が小糸の唄に聞き入る様子が描かれ、それが見事なアクセントとなっていた。実に新鮮で清々しい「立ち切れ線香」だった。

クラシック音楽の世界では、20世紀に入りハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンら古典派の音楽が、テンポを落とされ、ロマンティックに”溜めて”演奏されるようになった。そして20世紀後半に登場した古楽(ピリオド)奏法のムーブメントが原典の精神に立ち返り、速いテンポで颯爽と弾く新機軸を打ちたて、世間を驚かせた。

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今回の九雀さんの方法論は言ってみれば”落語のピリオド奏法”であり、人情噺の垢にまみれた「立ち切れ線香」を今一度洗い直し、本来の姿に戻す作業だったのではないか?と僕には想われた。明治や大正時代の「たちぎれ」も、これくらいのスピードで淡々と語られていたのかも知れない。ちなみに九雀さんは最初から眼鏡を外した、《クラシック型》での口演だった。

桂米朝さんは今年出版された著書「藝、これ一生 -米朝よもやま噺-」(朝日新聞出版)の中で次のように書かれている(枝雀が泣いた「たちぎれ」)。

兄弟子の枝雀のことをずっと見てきた小米は、枝雀にとっての最終目標は「たちぎれ線香」だったんやないかと考えている。どうも、酒を飲んだ時などに、弟弟子たちとあのネタのことを探るようにしゃべっていたらしいんや。確かに枝雀はいろんな噺をどんどん自分流に変えていったが、たちぎれはやってなかったんやないかな。

九雀さんは枝雀さんのお弟子さん。もし枝雀さんが「たちぎれ」をしたとしたら、やはりこれくらい快調なテンポになったのではなかろうか?と、想像の翼を広げながら愉しんだ。

なお、今度トリイホールで開催される「九月九日九雀の日」では「地獄八景亡者戯」をマリンバと三味線との共演(!?)で演じられるとか。いやぁ、面白そう。でも丁度その日は「大阪クラシック」が開催中なので、僕は残念ながら行けそうにないなぁ……。

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コメント

私も行っておりました。
九雀さんはコント的なものに個性を発揮されますので、気づいてない人が多いのですが
実は、古典そのままみたいなものに、解釈が行き届いてたりするんです。
意外にも…と言うと、ご本人は気を悪くされるでしょうが

投稿: おたべ | 2010年5月15日 (土) 09時30分

おたべさんもいらしてたんですね!

「立ち切れ線香」に登場する御茶屋の女将、若旦那に対して怒気を含んだ口調で喋る演出も凄く良かったです。

また、「月なみ九雀の日」でも「縄文さん」とか、超古典落語の会のネタなども聴きたいなぁと想う、今日この頃でございます(僕は土曜日も仕事があるので、超古典落語の会にはどうしても行けないんです)。

投稿: 雅哉 | 2010年5月15日 (土) 12時58分

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