エマニュエル・パユ×トレヴァー・ピノック/J.S.バッハのフルート・ソナタ
いずみホール(大阪)へ。
ベルリン・フィルの首席奏者でフルートの貴公子と呼ばれるエマニュエル・パユ、そして古楽演奏の先駆者として知られるチェンバリスト(兼指揮者)トレヴァー・ピノックの組み合わせ。さらに(トン・コープマンが創設した)アムステルダム・バロック管弦楽団の主席チェロ奏者、ジョナサン・マンソンが加わった。
実はこの演奏会、2008年暮れに同ホールで企画されたもの。僕もチケットを購入していたのだが、ピノックの急病でキャンセルになってしまった。漸く満を持しての開催となった。
パユは1989年に神戸国際フルートコンクール第1位となっており、関西に縁がある人である。
さて今回のプログラムは、
- J.S.バッハ/フルート・ソナタ ホ短調 BWV1034
- ヘンデル/組曲 第2番よりシャコンヌと変奏(チェンバロ独奏)
- テレマン/12の幻想曲より(フルート独奏)
- J.S.バッハ/フルート・ソナタ ロ短調 BWV1030
- J.S.バッハ/フルート・ソナタ 変ホ長調 BWV1031
- J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲 第1番(チェロ独奏)
- J.S.バッハ/フルート・ソナタ ホ長調 BWV1035
最初と最後のフルート・ソナタは通奏低音としてチェロも加わり、3人によるアンサンブル。エンドピンのないバロック・チェロ及びバロック弓が使用され、パユは当然モダン楽器。調律はA=442Hzのモダン・ピッチによる演奏だった。ちなみにバロック・フルート=フラウト・トラヴェルソの場合、バロック・ピッチA=415Hzが用いられることが多い(現代の音程より約半音低い)。
僕が以前、トラヴェルソで聴いたバッハ/フルート・ソナタの感想は下記。
だから今回、名手パユがバッハの音楽に対してモダン楽器でどんなアプローチをするのか(出来るのか)に注目して聴いた。
音の出だしと終わりはノン・ヴィブラート。音を伸ばす時は半ばくらいで装飾的に、ごく控えめなヴィブラートを掛ける。そして音尻は溜めず、スッと減衰。この手法(ピリオド奏法)により、しっかりと古楽らしい典雅な雰囲気を醸し出したのだからさすがである。
音色は柔らかく、ビロードのように滑らか。豊穣な響き。また抜いた音が美しく、絶妙なブレス・コントロールである。最弱音のppでも決して掠れない。アレグロの楽章では音符が軽やかに飛翔し、天衣無縫に駆け巡る。ただただ感服した。
マンソンの無伴奏チェロ組曲は弾むようなリズムで躍動感があり、この曲がダンス・ミュージックに他ならないことを実感した。朝日の差し込む林の中を散歩しているような爽やかさがあった。
ピノックは伴奏者として申し分なかったが、アンドレアス・シュタイアー、ピエール・アンタイ、中野振一郎ら気鋭のチェンバリストと比較すると、独奏者としては些か物足りない感は否めなかった。演奏に切れがない。やはり年齢的にテクニックが衰えつつあるのだろうか?枯れた味わいで聴かせるという感じだった。
アンコールは以下の通り。
パユの才能に圧倒され、モダン楽器でも十分にバッハの精神性を表現できるのだということを思い知った一夜であった。
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