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2010年5月

2010年5月31日 (月)

「桂雀々独演会」から「満腹全席」(文三、よね吉)へ

5月30日(日)、大丸心斎橋劇場へ。

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「桂雀々独演会」二日目を聴く。チケットは早々に完売。僕はキャンセル待ちで入手した。

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  • 桂  優々/普請ほめ
  • 桂  雀々/手水廻し
  • 桂まん我/野崎詣り
  • 桂  雀々/口入屋
  • 桂  雀々/一文笛(米朝 作)

雀々さんの一番弟子・優々さんは、明るい笑顔とはっきりした口跡がいい。将来が愉しみ。二番弟子・鈴々さんは今回お茶子。枝雀一門初の女性である。

手水廻し」は”手水(ちょうず)”という言葉の繰り返しが心地よいリズムを生み、JAZZのような高座。漫画チックな演出が愉しく、特に田舎から大阪にやって来た二人連れが、目の前に本物の手水を出された際のときめき感がお見事!若手が演り過ぎて一時期繁昌亭で禁止令が出されていた前座噺が、とても新鮮に聴けた。

今年50歳になる雀々さん。「地獄八景亡者戯」を口演し、全国50ヶ所をまわるという企画があるそう。初高座は33年前、16歳の時。途中で続きが思い出せず、頭が真っ白になった(逆にお客さんに「エッ、うそぉ」と緊張感が走った)エピソードなども語られた。

枝雀師匠の十八番だった「口入屋」は、「昼まま」の出囃子で雀々さん登場。女三人寄ればかしましいというマクラで、「言葉の暴走族」という表現が面白い。ある昼下がり、師匠と一対一で向き合い「ボウフラが水害に遭ぉたよぉな恰好」の稽古をした時のエピソードには場内爆笑。また番頭が女衆(おなごし)に向かって長々とひとり喋り続ける場面では、息継ぎ(ブレス)を極端に少なくしスピード感を出す。これぞ枝雀一門のお家芸!

桂米朝さんの新作落語「一文笛」の演出には以前から引っかかっている箇所があった。スリを稼業とする主人公の家に、その業界から足を洗った兄貴分が訪ねて来る。主人公はそれまで上座で喋っているのだが、兄貴が家に上がって座った時点で上下(かみしも)が逆になる。理屈から言えば兄貴の方が目上なので上座に座るのは正しい。しかし、客席から見ていると会話している人物の左右が突然入れ替わるので、とても違和感があるのだ。このネタを生で初めて見たのが米團治(当時、小米朝)さん。彼が途中から上下を間違えたのかと僕は勘違いしてしまった。実際、色々なブログで「一文笛」の感想を読むと、「途中で上下が逆転した。おかしい」と指摘している人が多い。雀々さんはこの場面で、人物の配置を替えることなく演じられた。僕にはその方がしっくりきた。

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「桂雀々独演会」の後、徒歩で心斎橋から難波へ移動。途中、「ペリーのいくら丼」に立ち寄り、”うに&いくら丼”に舌鼓を打つ。

そしてワッハ上方へ。桂文三さんの会。

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開場が18時半で僕が到着したのが17時半。その時既に数人並んでいたのだから、よね吉人気恐るべし。他所で適当に時間を潰し、再び会場へ。長蛇の列。常連客が「何、これ!?」「今日はよね吉がゲストだから」「ああ、それで…」と喋っている。約6割が女性客。

文三さんが書かれたプログラムの挨拶文が可笑しかった。

吉朝一門の色男・よね吉くんと、松枝一門の…松五くんに今日は助演いただいてます。

さて、演目は

  • 笑福亭松五/天狗さし
  • 桂文三/稽古屋
  • 桂よね吉/千早ふる
  • 桂文三/内助の富(くまざわあかね 作)

文三さんは、「別によね吉くんを人寄せに呼んだわけではありません」と断り、「男前ですよね。おってくれるだけでええ。もえ~という感じでしょう?」と持ち上げる、持ち上げる。

また、よね吉さんの弟弟子・しん吉さんの落語会に出たことに触れ、「しん吉くんが『兄さん、僕は生まれ変わったら阪急電車になりたいんです』と言うので『アホか』って答えたんです」と(しん吉さんは鉄ちゃん=鉄道ファン)。「『だったら兄さんは生まれ変わったら何になりたいんですか?』と訊かれ、『ウルトラセブン』と答えました」

ウルトラセブンをこよなく愛する文三さんは鞄にウルトラアイを入れて持ち歩いていて、あるお寺の落語会でそれをたまたま住職に見られたそう。するとモロボシ・ダンを演じていた役者さんがその寺の裏で喫茶店を経営されていたということが判明。そこで700円のハヤシライスを食べられたことを熱く語られた(ウルトラセブンだからメニューは全て00円らしい)。このエピソードに場内爆笑となったことは言うまでもない。落語家って本当に愛すべき人たちである。

この会にはネタ帳がなく、よね吉さんは「稽古屋」を演るつもりでこられたとか。急遽「千早ふる」に。知ったかぶりをする男が、百人一首の意味を問われて、イライラと右の指で見台を叩く演出がいい。

内助の富」は5/19京都府立文化芸術会館で開催された上方落語勉強会で「お題の名づけ親はあなたです」として初演されたもの。「高津の富」をベースに、少々「芝浜」のフレーバーをふりかけた印象。女性らしい生活感のある作品だった。文三さん演じる”長屋のおかみさん”が上手かった。

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上方落語新時代!

NHK朝ドラ「ちりとてちん」(2007年10月-2008年4月)放送以来、空前の上方落語ブームは続いている。

入門者も後を絶たない。例えば今年、2010年に入門した噺家で僕が知っている人を列挙すると……

桂吉弥さんに弟子入りした弥生さん、月亭八天さんに入門した天使さん(すごい名前だ)、桂雀々さんに入門した鈴々(りんりん)さん、桂米輔さんに入門した鞠輔(まりすけ)さん。5月末の時点で既に4人もいる(他にもいらっしゃるかも知れない)。そして注目すべきはこの全員が女性であること。

ここで、桂米朝さんが昭和五十年(1975年)に書かれた名著「落語と私」から引用してみよう。

 落語という芸は二百数十年の間、男がやるものであったので、あらゆる技巧が全部、男のための技巧であり、男がやる場合の研究としてのみなされてきたのです。男が女を表現してもさほど違和感を持たないのに、女の落語家が、男を演じたらおそらくお客はなかなか話の中に溶け込んでくれないでしょう。
 この違和感というやつが落語の場合、非常に困るものなのです。
(「女の落語家はなぜいない」)

この本が書かれてから35年。正に隔世の感がある。だが、米朝さんはこうも書かれている。

 しかし、わたしは女性の落語家を否定はしません。かならず、女がやるならそのやり方があるはずです。要はうんとうまい人がでてきたらよいのです。(中略)わたしはそんな日がくるのを歓迎します。

米朝さんが予言した、新しい時代がいま正にそこにやって来ている。そのダイナミズムを僕はひしひしと感じる。

朝ドラ「ちりとてちん」のヒロイン”喜代美”は古典落語でプロとしての壁にぶつかり、師匠から「お前は創作をやれ」と言われる。これは実際、桂あやめさんが文枝師匠から受けた助言の引用である。あやめさんの創作落語は女性らしい実感に基づく、男では絶対に書けない素晴らしい作品が並ぶ。

天使さんは入門前、落語の台本を書かれていたこともあるそうだ。また弥生さんは数年前「彦八まつり」のコンテストで【小ばなし部門】大賞を受賞されている。

増え続ける女性落語家。彼女たちの中からきっと、あやめさんの後に続く新作派の気鋭が育っていくに違いないと、僕は期待している。

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2010年5月29日 (土)

ブラームス探訪Ⅰ/大阪交響楽団 定期

ザ・シンフォニーホールへ。

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寺岡清高/大阪交響楽団の定期演奏会。

児玉宏さんが音楽監督に就任して以降、ここの定期は意欲的内容でとても面白くなった。それにしても来シーズンの「名曲コンサート」には度肝を抜かれた。なんとライネッケ/交響曲 第1番!「貴方にとって名曲とは何ですか?」という問いを突きつけられたようなもので、児玉さんからの大胆極まる挑戦状である。

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さて今回の曲目は、

  • ブラームス/セレナード 第1番
  • ブラームス/ピアノ協奏曲 第1番

独奏はウィーンやらやって来た若手、クリストファー・ヒンターフーバー

昨シーズンに聴いた寺岡さん指揮するベートーヴェンの解釈には疑問を感じた。大植英次さん同様、後期ロマン派以降の観点・価値観から捉えたベートーヴェン像だったからである。

でも今回のブラームスは中々良かった。寺岡さんの資質に向いていると想った。

滅多に演奏されない「セレナード」は生まれて初めて聴いた。のびやかに歌い、明朗。生き生きした青年ブラームスがそこにいた。

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一方、ほの暗い情熱を秘めて燻るコンチェルトを聴くと、ある映画のことを想い出す。

クララが弾くピアノ協奏曲第1番を、ブラームスが目に涙を浮かべながら聴いているラストシーンがとても印象的であった。

ヒンターフーバー
のピアノは達者で、ミス・タッチはなかったが、多くのピアニストが抱える技術的問題が些か気になった。親指や人差し指に比べると、薬指や小指の圧力(叩打力)が弱いので、音が均一に響かないのである。先日聴いたダン・タイ・ソンは全くそんなことがなかったので、これが実力の差というものかなと想った。

まあ、ピアノが主役でオケはあくまで添え物に過ぎないショパンのコンチェルトに対し、ブラームスはオケが大活躍し、むしろ交響曲に近いので、大した問題ではなかったのだが。

ヒンターフーバーについてはアンコール「シューベルト/4つの即興曲より第2番」の方が良かった。

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2010年5月28日 (金)

延原武春/大フィルのウィーン古典派シリーズ I

いずみホールへ。

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バロック音楽=古楽を専門とする指揮者・延原武春さん(日本テレマン協会主宰)と大阪フィルハーモニー交響楽団ががっぷり四つに組む演奏会。3年間に及ぶ大プロジェクトの幕開けである。この企画が立ち上げられた背景は日経の記事に詳しい→こちら。計8公演。各回ベートーヴェンのシンフォニーが1曲ずつ取り上げられる(最終回は2曲)。

全てはここから始まった。

延原さんはこのプロジェクトにあたり、プログラム編成(曲目)を大フィル側に一任されたそうである。ただ協奏曲のソリストは大フィルの楽員でお願いしますとリクエストされたとか。

客演コンサートマスターは崔 文洙(チェ・ムンス)さん。新日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・コンサートマスターで、延原さんのよき理解者である。

新日本フィルはフランス・ブリュッヘン(18世紀オーケストラ)の指揮でハイドンのシンフォニーに挑み、まだダニエル・ハーディングを招聘するなど、ピリオド奏法に積極的に取り組んでいるオケである。

さて、今回のプログラムは

  • ハイドン/交響曲 第94番「驚愕」
  • モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲 第4番「軍隊的」
  • ベートーヴェン/交響曲 第4番

弦は対向配置。バロック・ティンパニが使用され、ヴィブラートを抑えたピリオド奏法。

延原さんは昨年9月に大フィルと共演した際、リハーサルが3日という短期間ということもあり、ヴィブラートをどうするかは奏者の自主性に任せられたそうだ。しかし2回目の顔合わせとなった今回は、ノン・ヴィブラートがさらに徹底されたという印象を受けた(幼少時からの習慣というのは中々抜けないもので、奏者によって多少のバラつきはあったが、気にならなかった)。

ここで断っておくが、「ピリオド奏法=ヴィブラートを全く掛けない」ということではない。音を伸ばす時、その中腹で装飾的に使用する。

目の覚めるようなハイドンだった。特に落雷のようにズシリと腹に響くバロック・ティンパニが絶大な効果を上げた。弦は小気味よく痛快。これぞ21世紀の解釈!延原武春、鈴木秀美、ゲルハルト・ボッセの3人こそ(日本在住の)ハイドン指揮者として最右翼だろう。

長原幸太さんをソリストに迎えたモーツァルトは、先日大フィル定期で聴いたルノー・カプソンより断然良かった。以前の長原さんは攻撃的で、些か突っ張った所があったが、最近はその演奏に落ち着いた、ふくよかな味わいが加わった。

事前に延原さんと長原さんによるトークもあり、モーツァルトの時代に弾かれたカデンツァが紹介された。そして本番の演奏はヤシャ・ハイフェッツによるもの。ハイフェッツは長原さんが一番尊敬するヴァイオリニストだそうだ。

休憩を挟み後半、定評ある延原さんのベートーヴェンに文句があろう筈がない。作曲家がスコアに記したメトロノーム記号(速度指示)に即した、溌剌とした演奏。無駄な贅肉をそぎ落とし、引き締まった響き。しかしモダン・オーケストラとしての柔らかい音色は失われていない。

一昨年のクラシカル(古)楽器によるベートーヴェン・チクルスではテレマン室内管弦楽団の技量に問題があり、延原さんの意図をオケが十分音として表現し切れていないもどかしさがあったが、さすが大フィルは違った。改めてここ(特に弦)の上手さに惚れ惚れした。特に超高速でかっ飛ばした4楽章の爽快感!疾走するベートーヴェン、疾風怒濤(Sturm und Drang)のシンフォニー。今まで聴いた大フィルの中でも、間違いなくトップクラスの名演であった。

陳腐な、いわゆる”名曲”が並ぶ、しょーもない定期のプログラムよりも、今年の大フィルはいずみホールのシリーズこそ絶対聴くべきである。……と、声を大にして言いたい。貴方はそこで、進化した大フィル(バージョン 2.0)を体感することになるだろう。

次回は9月16日(木)。チケットの発売は6月4日より。

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繁昌亭昼席(5/27)

天満天神繁昌亭へ。まずは窓口で「九雀の噺」(7/26)のチケットを購入。このユニークでエキサイティングな噺劇(しんげき)を見逃したら、上方落語ファンの名折れである。

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  • 笑福亭呂竹/たぬさい
  • 笑福亭右喬/時うどん
  • 桂かい枝/ハル子とカズ子(かい枝 作)
  • 伏見龍水/曲独楽
  • 笑福亭仁福/寝床
  • 林家染二/皿屋敷
  • 旭堂南陵/黒雲の辰(講談)
  • 笑福亭銀瓶/七段目
  • 桂わかば/片棒
  • 笑福亭仁智/川柳は心の憂さの吹きだまり(仁智 作)

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仁福さんは荒い芸。これではネタが可哀想。

銀瓶さんの「七段目」を聴くのは3回目くらい。このネタは芝居噺を得意とする吉朝一門(吉弥・よね吉)の至芸があるだけに、笑福亭が演じる意義を僕はさっぱり理解出来ない。

かい枝さんは最初、客の雰囲気を探りながらどのネタをするか迷っておられたよう。僕は前からどうしても聴きたかった「ハル子とカズ子」!と舞台に向けて念を送った。それが奏効したのかどうかは定かではないが、とても嬉しかった。いやぁ、面白かった!マクラの出来も秀逸。かい枝さん、もっともっと新作を発表してください。才能あるんだから。目指せ、繁昌亭創作賞。

サラリーマン川柳が矢継ぎ早に飛び出す仁智さんの噺もすごく良かった。実はかの有名な「源太と兄貴」シリーズを未だ聴いたことがない。これからしばらく仁智さんを追いかけてみよっと。

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2010年5月27日 (木)

ダン・タイ・ソンのショパン/ピアノ協奏曲(室内楽版)

兵庫県立芸術文化センターへ。

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1980年ショパン国際ピアノコンクールに優勝したヴェトナム出身のピアニスト、ダン・タイ・ソンのコンサート。彼は最近、ショパンが生きた時代にフランス「エラール社」が製作したピアノを弾き、ブリュッヘン/18世紀オーケストラとショパンの協奏曲をレコーディングしたことでも話題となった。今回はスタインウェイ(Steinway & Sons)を使用。

オール・ショパン・プログラムで、

  • ピアノ協奏曲 第2番(室内楽版)
  • アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
  • ピアノ協奏曲 第1番(室内楽版)

アンコールは

  • マズルカ 第13番

伴奏はクァルテット・エクセルシオ(日本の弦楽四重奏団)+赤池光治(コントラバス)

ショパンは生涯、ピアノ曲以外作曲しなかった。協奏曲のオーケストレーションも実は極めて単純である。例えばトランペット。時々想い出したかのように「プァー」「プァー」と和音を吹くだけで、見ていてやり甲斐がなさそうである。だからこの伴奏が、弦楽五重奏に置き換わっても何の不足もない。あくまで主役はピアノ。その他は添え物にすぎない。

ダン・タイ・ソンは何を遠慮することもなく、ガンガン弾きまくった。アンサンブルとしてのバランスとか、全体の調和のへったくれもない。でもショパンはそれで正しいのである。

強靱な指でミス・タッチは皆無。音の粒が揃っている。畳み掛ける疾走感が凄い。

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は力強さと、まるで子犬が鍵盤を駆け回っているような軽やかさとの対比が鮮烈だった。

協奏曲では一音一音がキラキラと宝石のように煌めく。硬質な抒情。そこには愛を語るロマンティックなショパンではなく、病弱で痩せ、青ざめた、ひとりの若者の肖像が浮かび上がるかのように感じられた(ショパンは結核だった)。

僕が大好きな小説、福永武彦「草の花」にこのピアノ協奏曲 第1番を聴きに行く場面があり、こんな一節が登場する。

ーショパンって本当に甘いんですわね、と尚もにこにこしながらとし子が言った。

もしこの「とし子」がダン・タイ・ソンの演奏を聴いたなら、同じ感想は決して抱かなかったろうなと想像しながら、僕は帰途に就いた。

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2010年5月26日 (水)

エマニュエル・パユ×トレヴァー・ピノック/J.S.バッハのフルート・ソナタ

いずみホール(大阪)へ。

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ベルリン・フィルの首席奏者でフルートの貴公子と呼ばれるエマニュエル・パユ、そして古楽演奏の先駆者として知られるチェンバリスト(兼指揮者)トレヴァー・ピノックの組み合わせ。さらに(トン・コープマンが創設した)アムステルダム・バロック管弦楽団の主席チェロ奏者、ジョナサン・マンソンが加わった。

実はこの演奏会、2008年暮れに同ホールで企画されたもの。僕もチケットを購入していたのだが、ピノックの急病でキャンセルになってしまった。漸く満を持しての開催となった。

パユは1989年に神戸国際フルートコンクール第1位となっており、関西に縁がある人である。

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さて今回のプログラムは、

  • J.S.バッハ/フルート・ソナタ ホ短調 BWV1034
  • ヘンデル/組曲 第2番よりシャコンヌと変奏(チェンバロ独奏)
  • テレマン/12の幻想曲より(フルート独奏)
  • J.S.バッハ/フルート・ソナタ ロ短調 BWV1030
  • J.S.バッハ/フルート・ソナタ 変ホ長調 BWV1031
  • J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲 第1番(チェロ独奏)
  • J.S.バッハ/フルート・ソナタ ホ長調 BWV1035

最初と最後のフルート・ソナタは通奏低音としてチェロも加わり、3人によるアンサンブル。エンドピンのないバロック・チェロ及びバロック弓が使用され、パユは当然モダン楽器。調律はA=442Hzのモダン・ピッチによる演奏だった。ちなみにバロック・フルート=フラウト・トラヴェルソの場合、バロック・ピッチA=415Hzが用いられることが多い(現代の音程より約半音低い)。

僕が以前、トラヴェルソで聴いたバッハ/フルート・ソナタの感想は下記。

だから今回、名手パユがバッハの音楽に対してモダン楽器でどんなアプローチをするのか(出来るのか)に注目して聴いた。

音の出だしと終わりはノン・ヴィブラート。音を伸ばす時は半ばくらいで装飾的に、ごく控えめなヴィブラートを掛ける。そして音尻は溜めず、スッと減衰。この手法(ピリオド奏法)により、しっかりと古楽らしい典雅な雰囲気を醸し出したのだからさすがである。

音色は柔らかく、ビロードのように滑らか。豊穣な響き。また抜いた音が美しく、絶妙なブレス・コントロールである。最弱音のppでも決して掠れない。アレグロの楽章では音符が軽やかに飛翔し、天衣無縫に駆け巡る。ただただ感服した。

マンソンの無伴奏チェロ組曲は弾むようなリズムで躍動感があり、この曲がダンス・ミュージックに他ならないことを実感した。朝日の差し込む林の中を散歩しているような爽やかさがあった。

ピノックは伴奏者として申し分なかったが、アンドレアス・シュタイアー、ピエール・アンタイ、中野振一郎ら気鋭のチェンバリストと比較すると、独奏者としては些か物足りない感は否めなかった。演奏に切れがない。やはり年齢的にテクニックが衰えつつあるのだろうか?枯れた味わいで聴かせるという感じだった。

アンコールは以下の通り。

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パユの才能に圧倒され、モダン楽器でも十分にバッハの精神性を表現できるのだということを思い知った一夜であった。

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2010年5月25日 (火)

マン・オン・ワイヤー

評価:A

2008年度米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門をはじめ、この年の映画賞を軒並み席巻した作品。僕は不覚にも劇場公開時に見逃したのでWOWOWで鑑賞。現在DVDが発売中である。映画公式サイトはこちら

Manonwire

1974年ニューヨーク。今はなき世界貿易センター(World Trade Center、WTC)ビルに不法侵入し、世界一の高さを誇る2つの塔に鋼鉄のワイヤーを渡して綱渡りをした男がいた。男は45分もの間空中に留まり、綱を8往復した。その場で男は逮捕され、マスコミが殺到し彼を質問攻めにした。「どうしてそんなことをしたのですか?」「目的は?」"Why?"

男の名はフィリップ・プティ。フランスの大道芸人である。この男の狂気も物凄いが、彼の夢(強迫観念と言い換えてもいい)の実現に協力した人々が何人もいたという事実にも圧倒される。別に金儲けに繋がるわけではない。犯罪の幇助で捕まり、国外退去を命じられるだけである。

人間は時に理性では推し量れないことを成し遂げるものなのだということを、この映画は僕たちに語りかける。

全ての生物が与えられた使命、究極の目的は、外敵から身を守り、自分の生命を維持し、子孫を残すこと。つまりDNA(遺伝子)を次の世代に受け継ぐことである。

しかし人間だけは、しばしばこの規定路線から逸脱した行為をなす。

例えば音楽を聴くこと。はっきり言ってそんなことは生きていく上で何の役にも立たない。ブログを書くことだってそう。生活の糧になるわけではない。「どうしてブログを書くのですか?」と問われたら、「書きたいから書くのです」と答えるしかない。それは理屈を超えた、内的衝動なのである。ブログを読んでいるあなただってそう。こんなもの読んだって、全く時間の無駄です。

しかし僕は考える。無駄なことをするからこそ人間って愛しい。どうしようもなく愚かだからこそ、人は面白いのだと。

立川談志さんはこう語った。「落語とは人間の業(非常識)の肯定である」と。そういう意味において、フィリップ・プティは落語国の住人なのである(軽業師はしばしば上方落語に登場するキャラクターである)。

意味がないことが最高なんだ。

……そんなことを日々強く感じるようになった、今日この頃でございます。

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2010年5月24日 (月)

オーケストラ・アンサンブル金沢×兵庫芸文オケの「大渓谷」!

兵庫県立芸術文化センターへ。

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渡り廊下は佐渡裕×バーンスタインの「キャンディード」一色に。

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兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)合同による大演奏会の幕開けである。指揮はミッキーこと井上道義さん(愛称の由来は→公式サイトへ)。

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  • モーツァルト/交響曲 第38番「プラハ」(OEK)
  • ベートーヴェン/交響曲 第8番(PAC)
  • グローフェ/組曲「グランド・キャニオン」(OEK+PAC)

プログラム前半はそれぞれのオケが単独で演奏。モーツァルトは指揮台を挟んで第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが向かい合う対向配置。バロック・ティンパニが使用され、ヴィブラートを極力抑えたピリオド奏法だった。ティンパニは菅原淳さん。読売日本交響楽団を定年退職後、鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンとも共演されている名手である。

ベートーヴェンは人数が増え、今度は第1、第2ヴァイオリンが舞台下手に仲良く並ぶ通常配置。バロック・ティンパニはそのまま。今度はヴィブラートの比率を増した奏法となった。

速めのテンポで颯爽とした解釈。要所でパンチが効いており、快感。「プラハ」の終楽章、ミッキーは指揮をしながら軽やかに踊った。

僕は5年ほど前に井上道義/大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏でベートーヴェンの第九を聴いたが、あの時はバロック・ティンパニを使用したり、ピリオド奏法させたりしていなかった。つまりOEKの音楽監督になってから、ミッキーはスタイルを変えたということなのだろう。その柔軟性が素晴らしい(大植英次さんも見習って欲しいものだ)。ちなみにミッキーが就任する前からOEKは金聖響さんと共にピリオド奏法によるベートーヴェンに取り組んでいた。これはダニエル・ハーディングの後任としてドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンの音楽監督に就いた、パーヴォ・ヤルヴィのケースに似ていると言えるだろう。

最近になってピリオド・アプローチを積極的に取り入れ、スタイルをがらっと変えた指揮者として、チャールズ・マッケラスやクラウディオ・アバドの名前が挙げられる。アバドで特にびっくりしたのはモーツァルト管弦楽団とレコーディングした「ペルゴレージ/スターバト・マーテル」の新しいCD。小編成、古楽器によるノン・ビブラート奏法(ピュア・トーン)だった。24年前に同曲をロンドン交響楽団とレコーディングしたものは、モダン楽器でヴィブラートを掛けた演奏であり、全く印象が異なるものとなった。

こうした新しい潮流に取り残されることへの危機感を抱いた大フィルも、遂に重い腰を上げた。古楽奏法(ピリオド・アプローチ)の第一人者・延原武春さんと、いずみホールで3年間に及ぶプロジェクトを立ち上げたのである。5/27に開催される第一回目の詳細はこちら。大フィルを含め、生き残りを賭けた在坂オケの取り組みに関する日経の記事はこちら(センチュリーだけが意図的に外されているのが意味深である)。時代は動き始めた。風が強く吹いている。その躍動感が今回の演奏からも聴こえてきた。

OEKPACを続けて聴いた、両オーケストラの評価も書いておこう。弦楽器の音の美しさはOEKに軍配が上がる。木管は互角の勝負。しかしOEKのトランペットやホルンは大フィル並みに下手なので、金管に関してはPACの勝ち。PACのトランペットやホルンは外国人がトップ・プレーヤーなのが大きいだろう。もっと頑張れ、日本人!

ティンパニだが、さすがベテランの菅原さんは上手かった。それに対しPACの方はどうも頼りない。切れがなく、なんだか自身なさそうに叩いている印象を受けた。

さて、プログラム後半はいよいよ合同演奏。舞台上に所狭しと椅子が並べられ壮観。当然ティンパニはモダン楽器に。分厚いサウンド、スペクタクルな音の大パノラマがホール全体に展開した。

考えてみれば「グランド・キャニオン」を生で聴くのはこれが初体験。余りにも有名な作品だが、意外とコンサートでは取り上げられない曲なのかも。外面的効果を最大限に発揮し、精神性は皆無。でもそこが潔く、聴いていて清々しい。意味がないのが最高なんだ。音楽って所詮、束の間の快感にすぎないのだから。そういう観点から言うと、この曲はR.シュトラウス/アルプス交響曲に極めてよく似ている。あれもド派手で中身が空っぽの音楽だ。自然を描写していること、そして嵐の場面でウィンドマシーンやサンダーマシーンを使用するのも両者の共通項。ちなみにアルプス交響曲の初演が1915年、「グランド・キャニオン」は1931年である。

大音響が腹にズシリと応え、スカッとする演奏だった。OEKのアビゲイル・ヤングさんが見事なヴァイオリン・ソロを聴かせてくれた後、ミッキーが指揮台で最敬礼したのが可笑しかった。

聴衆は熱狂し、拍手喝さい。すると楽員が譜面をめくり始める。おっ、アンコールがあるのか!?これだけの大人数でしかも「グランド・キャニオン」の後。ということは……。ティンパニ奏者がスネアドラムに移動する。その瞬間、僕の脳裏に曲名が閃いた。そう、スーザ/星条旗よ永遠なれが演奏されたのである。客席は手拍子で参加し、大いに盛り上がる。奏者もノリノリ。最高に愉しいコンサートであった。ありがとう、ミッキー!

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2010年5月22日 (土)

クロッシング

評価:B

Crossing

2009年米アカデミー賞映画外国語映画部門に韓国代表として出品されるが、ノミネートには至らず(アカデミー賞ノミネートは韓国の悲願だが、今まで一度も実現していない)。なお、2009年は日本代表の「おくりびと」が外国語映画賞を受賞した。

公式サイトはこちら

北朝鮮からの脱北者をテーマにした作品。実際の脱北経路が撮影された。まず北朝鮮から川を渡って中国へ密入国し(見つかった者は射殺される)、そして北京駐在の外国大使館へ駆け込むルート(実際、2002年に脱北者25名がスペイン大使館に駆け込み、亡命に成功している)。そして映画のクライマックスでは中国に入った後モンゴル国境へ車で向かい、鉄条網を掻い潜ってモンゴル軍に保護を求めるルートが描かれる。

100人近い脱北者に取材し、北朝鮮の田舎の村を再現したオープン・セットや、強制収容所のリアルな描写も凄い。

それにしても北朝鮮の貧困は想像を絶するものがある。同じ人間の暮らしとは到底信じられない。その悲惨な実情を目の当たりにすると胃がキリキリする。エンド・クレジットに至っての僕の率直な感想は「日本に生まれて、本当に幸運だった」……見て、そして知っておくべき映画である。

哀しく絶望的な物語だが、雨のシーンや少年と少女が自転車に乗る情景など詩情溢れる場面もあり、心に残る作品であった。

僕の隣に座った男性が映画の半ばくらいで鞄からティッシュを何枚も取り出し、しきりに涙を拭っていた。また場内が明るくなり席を立つと、次のような女性たちの会話が耳に入った。

「それにしても(映画に)子供を使うなんてズルイよね。してやられた」「ほんとほんと。反則だわ」

僕も全く同感。ある意味ロベルト・ベニーニ監督・主演のイタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」(ナチス・ドイツの強制収容所送りになった親子を描く)に通じるものを感じた。

Beautiful

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2010年5月21日 (金)

イオン・マリン/大フィルのムソルグスキー&ラヴェル

ザ・シンフォニーホールにて大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を聴く。

指揮者はルーマニア出身のイオン・マリン。今年6月にベルリン・フィルのワルトビューネ(野外)コンサートを振ることが決まっており、2011年の定期演奏会も出演が予定されているとか(佐渡裕さんと同じ)。

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  • ムソルグスキー/交響詩「はげ山の一夜」(原典版)
  • ラヴェル/組曲「クープランの墓」
  • ムソルグスキー(ラヴェル編)/組曲「展覧会の絵」

禿山の一夜」は(原典版)と書いてあったからてっきり、(クラウディオ・アバドのレコーディングで知られるようになった)ムソルグスキー自身のオーケストレーションによるオリジナル版(作曲後100年以上を経た1968年に初演)が聴けるのかと愉しみにしていた。ところが、リムスキー=コルサコフの手で再構成され、洗練された華麗なオーケストレーションを施された改訂稿が演奏の大半を占めたのでがっかりした。結局、リムスキー=コルサコフが勝手に付け加えた終結部「夜明けの鐘と、魔女たちの退散」を省き、最後だけ土俗的で粗野なオリジナル版に戻すという中途半端な構成で、統一性に齟齬をきたし違和感が残った。

はっきり言ってムソルグスキー(原典版)のオーケストレーションは野暮で泥臭い。現在よく聴かれるリムスキー=コルサコフ版とは文字通り雲泥の差。到底同じ曲とは思えない。それでも滅多に触れることが出来ない、磨かれる前のごつごつした原石だからこそ、この機会に全曲生で聴きたかった。

しかし、イオン・マリンのシェフとしての采配は見事だった。歯切れが良くメリハリのある演奏で、ラヴェルも響きが曖昧模糊に沈むことなく明晰な解釈だった。「展覧会の絵」冒頭のプロムナードは淡々と始まるが、グロテスクな「小人」、颯爽とした「テュルリーの庭」、重々しく足を引きずるような「ビドロ」、そしてどっしりと構えて荘厳な「キエフの大門」に至るまで、各曲の個性の描き分けが非常に巧みであった。

ここ数年、大フィル定期に登場するソリストは「何でこんな人を起用するの?」と首を傾げたくなるケースが多い(次回なんか中村紘子だぜ!?)。

ただ、指揮者に関する限りしっかりと実力がある人が選ばれているように想われる。昨年のヤクブ・フルシャしかり、クリストフ・アーバンスキしかり。そして今回のイオン・マリンにも、確かな(本物の)手応えが感じられた。

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2010年5月20日 (木)

露の団四郎バースデー独演会

天満天神繁昌亭へ。

  • 露の団姫/時うどん
  • 露の団四郎/押し売り(みたら正 作)
  • 立山センター・オーバー/漫才 
  • 露の団四郎/長講一席・深山がくれ

この公演、チケットに記載されている整理番号順での入場なのだが、僕は発売日当日朝10時にチケットぴあで購入したにもかかわらず、整理番号が197番だった。つまり、それより前の番号は事前に主催者側が抑えており、最初からぴあには流通しなかったということなのだろう。ちょっと不愉快な気分を味わった。

深山隠れ」はどうやら故・露の五郎兵衛が復活させたものらしい。故・桂吉朝も得意としたネタだとか。泥丹坊堅丸(どろたんぼうかたまる)という落語家が登場する。彼が出てくる噺は「深山がくれ」と「べかこ」、そして「狼講釈」の三編あるようだ。

一時間くらいかかる大ネタで、噺の途中で主人公が代わるというのも「地獄八景亡者戯」に似ている。構成は緩い。しかし冒険譚というかお伽噺的でもあり、中々面白かった。

露の一門の十八番は怪談噺。このネタでは侍がバッサバッサと敵を斬りまくる場面があり、団四郎さんはその非情な演出に凄みが感じられた。

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2010年5月19日 (水)

鶴瓶と笑子と三四郎 落語会

天満天神繁昌亭へ。笑福亭鶴瓶さんがプロデュースする会。

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「鶴瓶と誰かと鶴瓶噺」は2007年にここ繁昌亭で開催されたが、その時クレームがつけられたそう。理由は「チケット代が高すぎる」から(ちなみに今回の料金は4,500円だった)。「分かりました。じゃあ他所でやります」ということになったのだが、やっぱり繁昌亭でもやって欲しいというリクエストが再び来て、今回の若手版が開催されるに至った。「落語会の値段を全体として引き上げたいという狙いが僕にはあるんです。下座さん(三味線など)を含めて、もっと潤うように」と。以前、鶴瓶さんが露の都さんとしていた落語会は和菓子付きでたった500円だったとか。「都は出演料として僕に1万円包んで渡そうとするんです。そんなの貰えますか!?」

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  • 鶴瓶噺
  • 笑福亭笑子/動物園
  • 笑福亭鶴瓶/私落語○○○(くまざわあかね 作)
  • 桂   三四郎/17歳(三四郎 作)
  • 笑福亭鶴瓶/死神

鶴瓶噺は三人が私服で舞台に立って。笑子さんと三四郎さんは2004年入門。たった二人っきりの同期だそうである(笑子さんが鶴笑師匠に弟子入りしたのはロンドンにて)。笑子さんは夫(オーストラリア人)の仕事の都合で現在シンガポール在住。あちらは好景気に沸いているが、その分物価は高いとか。

今回ネタおろしとなった私落語(わたくしらくご)○○○は3文字。でもここで具体的に書くことはちょっと憚られる。鶴瓶さんと高校の同級生だった主人公が、娘から鶴瓶さんのサインを貰って欲しいと頼まれるところから噺は始まる。後半、鶴瓶さん本人も登場。この同級生の髪の毛がちりちりパーマだったことから、高校時代に付けられたあだ名が○○○。鶴瓶さんが出演した「FNS27時間テレビ」(2003年)での”事故”に関連しているとだけ、ヒントを出しておく。鶴瓶さんは「春團治師匠も見はる、繁昌亭のネタ帳にこの演題は書き難い」と仰っていた。いやぁ、もう抱腹絶倒の爆笑篇だった。くまざわあかね(旦那は、同じく落語作家の小佐田定雄)さんの台本の出来が余りにも良かったので、殆ど変えずに演じられたとか。ちなみに鶴瓶さんが今まで高座に掛けたネタの数は42本で、うち9作品が私落語だそうである(本作以外は全て自作)。

三四郎さんは今回、鶴瓶さんと共演することを三枝師匠に報告すると、非常に御機嫌だったとか。彼は6月第1週に放送される「爆笑レッドカーペット」にも出演が決まっており、「入門以来、あんなに嬉しそうな師匠の顔を見たことがありません」と。

僕が「17歳」を聴くのはこれが2回目だが、今回はマクラの出来が抜群によく、初めて三四郎さんの高座を面白いと想った。鶴瓶さんとの共演で、張り切っていたのだろう。「楽屋であいつは稽古もせんと、鏡の前で髪の毛ばかり弄くっていました」と鶴瓶さん。

三四郎さんが客席によく受けていたので、鶴瓶さんの二席目はマクラを振らず、いきなり本編に突入。

死神」は初代・三遊亭圓朝(幕末~明治)がグリム童話「死神の名付け親」を基に翻案したもの。圓朝版では死神はヨボヨボの爺さんだが、鶴瓶版では夜鷹風情の若い女に変更されている。サゲもオリジナル。「このネタを演じる前に、必ず圓朝の墓参りをして『勝手に変えてすみません』と謝るんです」と鶴瓶さん。僕は2008年に鶴瓶版「死神」を兵庫芸文で聴いたことがある。其の時は余り感銘を受けなかったのだが、今回は何かが違った。ぐいぐいと物語の世界に引き込まれたのである。落語家・笑福亭鶴瓶は日々、進化を遂げている。

なお、鶴瓶さんが「死神」を大阪で初めて演じたのは桂三金さんが世話方を務める落語会で、なんと救急病院の2階(!)で開催されたものだとか。腕に点滴をした患者さんが大勢詰め掛けたそうで、なんともシュールな状況である。

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2010年5月18日 (火)

映画「17歳の肖像」とジャクリーヌ・デュ・プレ

評価:B

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イギリス映画で原題は"An Education"(教育)。1961年、ロンドン。主人公はオックスフォード大学を目指す16歳の女子高生(映画の半ばで17歳の誕生日を迎える)。学校ではチェロを弾いていて、発表会ではエルガーを演奏する。ある雨の日、彼女はユダヤ人の青年と出会う。その体験を通して、彼女が何を学ぶのかがテーマとなっている。公式サイトはこちら

ヒロインは思春期の女の子らしく、精一杯背伸びして大人の世界に憧れている。同級生の男の子なんて、子供っぽくて相手にならない。彼女は教師に隠れてタバコを吸い、家ではジュリエット・グレコの歌うシャンソン「パリの空の下セーヌは流れる」を聴きながら、パリでの生活やシャネルの香水を夢見る。

彼女が青年に車で連れて行ってもらう、ウエストエンドの教会で演奏されているのがフランス印象派の作曲家モーリス・ラヴェル/序奏とアレグロ(ハープ、フルート、クラリネット、弦楽四重奏のための)。このあたり、洗練された選曲がニクイね。

米アカデミー賞では作品賞・主演女優賞(キャリー・マリガン)・脚色賞にノミネート(受賞なし)、英国アカデミー賞(BAFTA)では作品・監督など7部門ノミネートのうち、主演女優賞を受賞した。

キャリー・マリガンは現在、”オードリー・ヘプバーンの再来”と呼ばれているそうな。ファッショナブルな衣装に身を包んだ彼女はパリの風景によく似合う。実は撮影当時、彼女は22歳だった(現在24歳)。確かに好演しているが、ただティーンエイジャーにしては目じりの皺が少々気になったかな。

僕は映画を観ながら、夭折の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレのことを否応なく想い出した。彼女はオックスフォード生まれ。1961年ロンドンでデビューし、同年エルガー/チェロ協奏曲をレコーディングしセンセーションを巻き起こした。彼女が16歳のことである。そして1966年にユダヤ人の指揮者ダニエル・バレンボイムと結婚、その時ユダヤ教に改宗したため両親の逆鱗に触れる。1971年(26歳の時)にデュ・プレは指先などの感覚が鈍くなってきたことに気付き、難病の多発性硬化症と診断され引退を余儀なくされる。病気の進行で42歳で死去。彼女が亡くなる前、バレンボイムは既に別の女性とパリで同棲生活に入っており、二人の子をもうけていた(ジャッキーの死後、再婚)……余りにも符合が多すぎる。やはりこの映画を観た多くのイギリス人たちも、ジャッキーの不幸な生涯を連想したのではないだろうか?

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しかしこの映画のヒロインが同様の悲劇に見舞われるわけではない。彼女はしっかりと立ち直り、前向きに生きてゆく。そして人生は続く……

なお、バレンボイムは2009年にウィーン・フィル「ニュー・イヤー・コンサート」の指揮台に立ち、同年ミラノ・スカラ座の来日公演を振った。

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林家笑丸独演会

繁昌亭へ。

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林家染丸さんの弟子、笑丸さん(平成10年入門)の独演会。

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  • 桂吉の丞/子ほめ
  • 林家笑丸/代書
  • 林   哲至/鳳笙演奏(雅楽)
  • 林家笑丸/片棒
  • 林家笑丸/鯉津栄之助(寄席の芸入り)

(しょう)は「越天楽」や、三味線との共演で「黒田節」などが演奏された。この楽器は呼気と吸気の両方で音が出るそうで、原理はアコーディオンに似ているとか。または天から差し込む光、篳篥(ひちりき)は地に在る声、そして龍笛は天と地の間を泳ぐ龍の声をそれぞれ表すという。勉強になった。

代書」は沢山の依頼者が登場する原典版ではなく、一人に絞った短縮(クライマックス)版。しかし独自の工夫(くすぐり)が満載で、サゲも笑丸さんのオリジナル。気概に富む高座だった。

鯉津栄之助」は大変珍しい噺。領主の嫡男が生まれ、鯉津栄之助(こいつええのすけ)と名付けられた。そこで「こいつぁええ」という言葉を使わぬよう警告するために関所が設けられるという、まことに馬鹿馬鹿しいネタ。「東の旅」シリーズの一篇で、故・露の五郎兵衛さんが復活されたものらしい。現在では演り手がなく、笑丸さんは関所を通るために様々な芸事を披露するという構成で愉しませてくれた。都都逸あり、紙切りあり、うしろ面(踊り)あり。ただ、笑丸さんが得意とするウクレレ漫談とか南京たますだれ等も見たかったな。それから紙切りのスピードが笑福亭鶴笑さんより随分遅いのが気になった。

これからも寄席の芸、頑張って下さい。さらなる進化を期待しています。

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2010年5月17日 (月)

映画「オーケストラ!」と、のだめカンタービレ

評価:C-

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フランス映画で原題は"Le Concert"。ロシアのボリショイから始まり、パリ・シャトレ座へ。かつては有名な指揮者だった中年清掃員が昔の楽団仲間を集め、オーケストラを再結成しようと奮闘する。公式サイトはこちら

ラデュ・ミヘイレアニュ監督はルーマニア出身のユダヤ系。ブレジネフ時代、ソ連共産党によるユダヤ人迫害が物語に暗い影を落とし、ロマ(ジプシー)も登場。さらに元KGBやガス成金、ロシア・マフィア、酔っ払いの楽員などが入り乱れ、バイタリティ溢れる展開に。確かに前半は面白かった。

ただ音楽映画としては大いに問題あり。《虚構の中のリアリティ》がこの作品には皆無なのである。

例えば爺さんがトランペットを吹く場面、ピストンの指使い(運指)が出鱈目なのだ(僕は中学校の時、吹奏楽部で金管楽器を吹いていたことがある)。1分にも満たないシーンだ。どうして正しい運指を覚えなかったのか?プロの仕事としては失格だろう。

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲をシャトレ座で演奏するクライマックス。ここで女優が本当に弾いているように見えない。鳴っている音とボウイング(弓の動き)が合っていないだ。致命的である。

映画「のだめカンタービレ最終楽章」後編には水川あさみがブラームス/ヴァイオリン協奏曲を弾く場面がある。ここで彼女のボウイングと音は完璧にシンクロ(同期)していた。上野樹里がショパン/ピアノ協奏曲 第1番を弾く場面もしかり。「のだめ」が音楽映画としていかに素晴らしかったか、スタッフ・キャストの並々ならぬ意気込みとその努力の成果を、今回改めて痛感した次第である。

それから「オーケストラ!」のクライマックスで、曲の初めはピッチ(音程)がバラバラなのだが、次第に全員の気持ちが一つになり、ピッチが合ってくる。これも現実にはあり得ないことだ。管楽器の場合、音程が違うことに途中で気が付けば管の抜き差しにより調整は可能。しかし弦楽器はそうはいかない。弦の音程は糸巻きで張力を変えることにより設定される。ヴァイオリンやチェロなどには4弦ある。つまりその一つ一つを調弦しなければならない。演奏中には絶対不可能である。

そういう意味で本作はお粗末な出来であり、観ている途中で気持ちが萎えた。クラシック音楽を全く知らない初心者向けと言えるだろう。

ただ今度、ベルリン・フィルを振ることが決まった佐渡裕さんのプロデュースによるレナード・バーンスタインのミュージカル「キャンディード」を観るのだが、この演出がパリ・シャトレ座版なのである。どんな劇場なのかその雰囲気が分かったことは収穫であった。

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月亭遊方のゴキゲン落語会(5/13)と、「とくとくレイトショー」(5/15)

ワッハ上方、小演芸場へ。

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月亭遊方、The One and Onlyの会。遊方さんはいま上方で一番勢いがあって乗っている、旬な噺家である。

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  • 開幕前戯噺(遊方の日常あれこれ)
  • カリスギ理容室(遊方 作)
  • スクールバスターズ(遊方 作)

開幕前戯噺では引越しや結婚に纏わるあれこれを。「結婚したらお客さんが減るで」と言われたことについて、「そんな、桂よね吉くんみたいな男前やないんやから……」と。やはりその名前が出るか!と、僕は密かにニヤニヤした。また、結婚発表をした4月4日繁昌亭の「レスキュー遊方!」にどれくらい来ていたか客席にアンケートすると、なんと7-8割の手が上がった。遊方ファンの結束は固い。

出版されたばかりの「よしもと落語の世界」で遊方さんは古典落語《百年目》に登場する桜之宮(桜の名所)を紹介するコーナーを担当。「なんで(新作派の)僕が《百年目》なんですか?」と訊くと、「いや、遊方さんは米朝一門だから」との答え。「僕、米朝一門ちゃいますし、そもそも花見が嫌いなんです」

また桂きん枝さんが選挙に出るため、その穴埋めで仕事が増えた”きん枝バブル”のことや、(弟弟子)八天さんに”天使”という弟子が出来たことに触れ「これで暫くの間、月亭一門が途絶えそうにないのでホッとしました」と。

カリスギ理容室》は散髪の場面で”紙切り”の手付きとなり、ハメモノ(お囃子)も入るという愉しい趣向あり。

いじめ問題を扱った《スクールバスターズ》は滋賀県教育委員会の先生方の前で披露し、ダメ出しがあった箇所を手直ししたもの。それでも相当ブラックなユーモアが溢れ、爆笑篇に。

さてその二日後(土)、鯨料理・徳家3Fで開催される「とくとくレイトショー」(第3回)へ。こちらも遊方さん唯ひとりの会。

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第1回、2回目は21時開演だったのが、第3回から急遽21時20分に変更となり、問い合わせの電話が数本あったとか。というわけで21時ちょうどに遊方さんが登場し、20分まで更にお客さんが来るかも知れないと、ゆるり雑談を。十数年前、遊方さんが書き込みをしたボロボロのネタ帳(プロになって一冊目)を持ち出し、その内容を紹介するコーナーとなった(実際その間に1人増え、客は12人となる)。貴重な話が聴けて、得した気分。創作の秘密を垣間見た想いがした。

  • 公園の幼児ん坊(遊方 作)
  • わすれうた(遊方 作)

落語というのは聴き手のイマジネーション(想像力)の助けを必要とする芸。《公園の幼児ん坊》は二人の父親が登場し、その会話により、さらに目の前で遊ぶ子供たちを思い描かなければならないという二重構造となっている。それがどうも落語に慣れてない人々には難しいようで、遊方さんがこれを繁昌亭昼席に掛けても反応が今ひとつだという。しかし十分面白い噺だし、完成度はきわめて高い。

わすれうた》は物忘れの激しい主人公が事態を混乱させ、それが雪だるま式に膨れ上がってゆく。ある意味《くっしゃみ講釈》に通じるものがある。また、遊方さんの顔芸がすこぶる可笑しい!

深夜の秘密倶楽部めいた、ディープな会を堪能した。次回は6月15日。

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2010年5月16日 (日)

「笑ってコラえて!」吹奏楽の旅/「淀工サマーコンサート」チケット発売中!

日テレ「笑ってコラえて!」(水曜日放送)で5年ぶりに「吹奏楽の旅」のコーナーが復活することになった。以前は大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部や柏市立柏高等学校(市柏)が取り上げられ、大いに話題になった。そして今年はどうやら、鹿児島情報高等学校が取材の対象となるらしい。

ここの吹奏楽部を率いる名将・屋比久勲(やびくいさお)先生については以前、下記記事で詳しく語った。

今年の全日本吹奏楽コンクール、鹿児島情報高が遂に創部4年目にして金賞を受賞出来るのか、非常に注目される。

さて、今年は吹奏楽コンクールに(大会規定により)三出休みとなる淀工サマーコンサートのチケットが現在発売中である。

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6月5日(土)と6日(日)に計4回公演。チケット代は1,000円ポッキリである。入手出来るのはアルト楽器社。

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入手方法(連絡先、行き方)は下記をご参照あれ。

サマコンがどんな雰囲気なのかは過去の記事をどうぞ。

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2010年5月15日 (土)

京都の旅/桂離宮の謎と、桂枝雀の足跡を訪ねて

京都・桂離宮へ。

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ここは17世紀に造られた八条宮家の別荘である。桂離宮には七つのキリシタン灯篭があるなど、謎めいたところが多い(創建した智仁親王の片腕でもあった本郷織部の一族七人はキリシタンゆえに処刑された。そしてその七年後、キリシタン灯篭が置かれた)。いわば日本版「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」みたいな雰囲気がある。

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ルネッサンス時代ヨーロッパで確立された「パースペクティブ」(遠近法)の手法が用いられており、道は遠くに行く程徐々に幅が狭くなっている。目の錯覚を利用しているのである。

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初代・智仁親王、二代・智忠親王はともに正室を一人だけ迎えた。側室を持たないというのは当時としては珍しく、二人とも隠れキリシタンだったのではないかと推察されている。

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茶室・松琴亭 (しょうきんてい)。襖(ふすま)の青と白の市松模様はモダニズムに溢れている。

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月波楼(げっぱろう)から池を望む。

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写真中央に見えるのが三光灯篭。丸が太陽、その横に三日月、そして側面の四角が星を表している。

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笑意軒(しょういけん)三の間は七畳半になっており、これは武士にとって「切腹の間」を意味した。武家に対する嫌がらせだったのかも知 れない。無言の抗議ーなんとも反骨精神に満ちた建築である。京都人らしいと言えるかもしれない。

桂離宮を後に嵯峨野へ。愛宕念仏寺(おたぎねんぶつじ)を訪ねた。

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上田文世(著)「笑わせて笑わせて桂枝雀」は著者が愛宕念仏寺で枝雀さんに会う場面から始まる。うつ病で高座を休んでいた1998年のことである。その様子が次のように描写されている。

……そんな羅漢像の前で桂枝雀は、爽やかにほほ笑んでいた。何の屈託もなくほっこりとして、そこに並ぶ羅漢さん以上に、伸びやかな表情だった。(中略)自ら羅漢像の中に入っていって、カメラに向かってポーズを取った。

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羅漢はそれぞれ、穏やかな表情を浮かべていた。それは枝雀さんの座右の銘、「萬事(ばんじ)気嫌よく」を彷彿とさせるものだった。

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寺の出入り口には、ここの住職が西村公栄という名前で、シンセサイザーで作曲も手がけていると紹介されていた→詳細はこちら。この記述を見て、僕はふとあることを想い出した。(枝雀の弟子)桂 文我さんが出したDVD BOOK「落語でお伊勢参り」の音楽を担当したのがこの住職であった。そうか、そういう繋がりだったんだ……。それにしてもの住職が神社に関係した音楽を作曲するというのも、考えてみればけったいな話である。まあ如何にも日本的な大らかさではあるが。

「笑わせて笑わせて桂枝雀」には次ような記述もある。

愛宕を出てからは南に下って、渡月橋に近い大堰川のほとりで休んだ。「ソフトクリームが欲しくなった」と言い出して、みんなと一緒に川面を眺めながら食べた。

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この翌年、枝雀さんは自ら命を絶った。

さて、愛宕念仏寺から徒歩で平野屋の前を通った。

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ここはテレビ映画の傑作中の傑作、「怪奇大作戦」第25話「京都買います」(1969年放送、実相寺昭雄 監督)に登場する、創業四百年の老舗。物語の中で名優・岸田森演じる”牧”がここでお茶を飲む(F.ソルが作曲した美しいギター独奏曲「モーツァルト『魔笛』の主題による変奏曲」が背景に流れる)。

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さらに歩いて化野念仏寺(あだしのねんぶつじ)へ。ここも「京都買います」のロケ地である。

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「賽の河原」の石仏は長い年月風雨にさらされ、表面は殆どツルツル。のっぺらぼうになっていた。

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化野念仏寺の中にある竹林。木漏れ日が心地よかった。

なお、「怪奇大作戦」のロケ地を訪ねた別の旅の顛末は下記記事に書いた。

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2010年5月14日 (金)

月なみ(^o^)九雀の日(5/12)/「立ち切れ線香」登場!

豊中市立伝統芸能館へ。

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桂九雀さんの会。自由料金制、お代は見てのお帰りで。入りは45-6人くらい。

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  • 桂弥太郎/子ほめ
  • 林家染二/住吉駕籠(半ば)
  • 桂   福車/代書屋
  • 桂   九雀/立ち切れ線香

開口一番は吉弥さんの一番弟子・弥太郎さん。「子ほめ」はつい先日、二番弟子の弥生さんでも聴いたばかり。面白いなと想ったのは、伊勢屋の番頭が登場する件(くだり)。ここで弥生さんは「いよぉ、どないした町内の人気者」と言っていたが、弥太郎さんも吉の丞さん(吉弥さんの弟弟子)も従来通り「いよぉ、どないした町内の色男」と。つまり人気者というフレーズは、弥生さんのために用意されたスペシャル・バージョンだったということが判明した。恐らく、女の子が「色男」という言い回しを使うのは似つかわしくないということなのだろう。吉弥さん、いい師匠だなぁ。

予定になかった染二さんは「通りすがりです」と飛び入り参加。「住吉駕籠」はネタおろし(初演)だそう。6/27に繁昌亭で開催される独演会にこれを掛けられるので、軽く腕慣らしといったところか。酔っ払いが絡んでくるところまで。前回染二さんが《通りすがり》で演った「らくだ」は50分を費やしたとか。「誰が主役の会なのか分からなくなってしまいました」

染二さんは現在、桂枝雀が初演した「貧乏神」(小佐田定雄 作)を持ちネタにされている。九雀さんによると、これを演じるに当たり染二さんは枝雀未亡人当てに、断わりの手紙を”巻紙”で出されたとか。「今時”巻紙”なんて何処で手に入るんでしょう?古風な人です」と九雀さん。

代書」は現在、大きく分けて3つのバージョンで口演されている。まずはこれを創作した四代目・桂米團治による、沢山の依頼者が登場する原典版(五代目米團治、宗助、千朝ら)。そしてこの客を一人に絞り、米團治の弟子・桂米朝が三代目・桂春團治に伝えた短縮(クライマックス)版。さらにそれを崩し、「セェ~ネンガッピ!」「ポンで~す」等のギャグを新たに加えた、桂枝雀によるJAZZ版(雀々、雀太ら)。

福車さんは春團治一門だから当然、短縮版。しかし最後、大食競争の件では「天満天神繁昌亭近くの中村屋のコロッケを76個食べて、三枝(上方落語協会)会長に表彰された」に変わっていたのがユニークだった。なお福車さんはマクラで眼鏡を掛けたまま喋り、本編に入る際に外された。

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プロの落語家でも「立ち切れ線香」のことを”人情噺”だと誤解している人が多い。しかし今まで何度も書いていることだが、このネタはあくまで純愛物語であって”人情噺”ではない。「冬のソナタ」や「世界の中心で、愛をさけぶ」のことを、誰も”人情噺”とは言わないでしょう?桂米朝さんも著書「落語と私」の中で、「立ち切れ線香」は人情噺ではないと明言されている。

僕は生(ライヴ)の「立ち切れ線香」を笑福亭鶴瓶笑福亭銀瓶桂春之輔林家染二桂 吉弥らの口演で聴いている。

今まで聴いた「立ち切れ線香」は特に後半、お茶屋の女将の語りの箇所で切々と、人情の機微に訴えるような”泣かせ”の演出がなされることが多かった。東京の人情噺に毒された、悪しき習慣である。

しかし今回聴いた九雀さんの場合、女将の語りになってもテンポが落ちることなくトントンと進み、湿っぽくなることが一瞬たりともなかったので驚いた。そして地唄の”雪”が流れる箇所に来ると、突然の長い沈黙。じっくりと若旦那が小糸の唄に聞き入る様子が描かれ、それが見事なアクセントとなっていた。実に新鮮で清々しい「立ち切れ線香」だった。

クラシック音楽の世界では、20世紀に入りハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンら古典派の音楽が、テンポを落とされ、ロマンティックに”溜めて”演奏されるようになった。そして20世紀後半に登場した古楽(ピリオド)奏法のムーブメントが原典の精神に立ち返り、速いテンポで颯爽と弾く新機軸を打ちたて、世間を驚かせた。

 関連記事: 知られざるヴィブラートの歴史

今回の九雀さんの方法論は言ってみれば”落語のピリオド奏法”であり、人情噺の垢にまみれた「立ち切れ線香」を今一度洗い直し、本来の姿に戻す作業だったのではないか?と僕には想われた。明治や大正時代の「たちぎれ」も、これくらいのスピードで淡々と語られていたのかも知れない。ちなみに九雀さんは最初から眼鏡を外した、《クラシック型》での口演だった。

桂米朝さんは今年出版された著書「藝、これ一生 -米朝よもやま噺-」(朝日新聞出版)の中で次のように書かれている(枝雀が泣いた「たちぎれ」)。

兄弟子の枝雀のことをずっと見てきた小米は、枝雀にとっての最終目標は「たちぎれ線香」だったんやないかと考えている。どうも、酒を飲んだ時などに、弟弟子たちとあのネタのことを探るようにしゃべっていたらしいんや。確かに枝雀はいろんな噺をどんどん自分流に変えていったが、たちぎれはやってなかったんやないかな。

九雀さんは枝雀さんのお弟子さん。もし枝雀さんが「たちぎれ」をしたとしたら、やはりこれくらい快調なテンポになったのではなかろうか?と、想像の翼を広げながら愉しんだ。

なお、今度トリイホールで開催される「九月九日九雀の日」では「地獄八景亡者戯」をマリンバと三味線との共演(!?)で演じられるとか。いやぁ、面白そう。でも丁度その日は「大阪クラシック」が開催中なので、僕は残念ながら行けそうにないなぁ……。

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2010年5月12日 (水)

桂吉弥「地獄八景亡者戯」「高津の富」@サンケイホールブリーゼ

サンケイホールブリーゼへ。

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桂吉弥さんの独演会。

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旧サンケイホールは桂米朝さんや桂枝雀さんの独演会が開催された、米朝一門のホームグラウンドである。「枝雀十八番」という六日間連続公演は、チケット発売初日に全日程完売したことが今でも語り草となっている。

  • 桂吉の丞/子ほめ
  • 桂歌之助/佐々木裁き
  • 桂   吉弥/高津の富
  • 桂   吉弥/地獄八景亡者戯

吉の丞さんは威勢よくトントンと。

歌之助さんは相変わらず使いまわしのマクラ。

吉弥さんの「高津の富」(こうづのとみ)は一度聴いたことがあるが、今回も絶品だった。このネタに関しては現在、彼の右に出る者はいないだろう。からっと明るく、晴れ渡った空のような高座。実に華やかで清々しい。

地獄八景亡者戯」(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)は殆ど、桂米朝さんが再創造(Re-create)された、1時間を越える上方落語屈指の大作。「これを演じるにあたり、『しょーもないところを省いたら?』と人から言われたこともあるのですが、そうすると後に何も残りません」とは吉弥さんの弁。「落語によくある、仕込み・伏線といった類も皆無です」

僕も吉弥さんの意見に全く同感である。確かに大ネタではあるが、構成は緩い。ユルユルである。群像劇ともいうべき地獄巡りの”旅ネタ”であり、主人公が途中でコロコロ代わる。ある意味散漫で、どういう時事ネタを盛り込み聴衆を笑わせるか、演者のセンスが問われる。つまり自由度が高い。これについては笑福亭たまさんが面白い分析をされているので、ご紹介しておく→たまさんのブログ

だから「地獄八景」は完成度が高い優れた作品では決してない。しかしある意味、上方落語の集大成であるとは言えるだろう。ふぐに当たって死ぬというエピソードは「らくだ」だし、「東の旅・発端」「軽業」「三十石」「野崎詣り」「愛宕山」「夏の医者」といった古典落語のエッセンスが、これでもかっ!というくらい詰め込まれている。たっぷり聴き応えはある。

吉弥さんは噺の前半、舞妓さんのびらびら簪(かんざし)を表現する場面で、しきりに瞬きをする演出で大いに笑わせてくれた。何とも愛嬌がある。

ソーラン節や民謡「会津磐梯山」を歌ったり、時事ネタでは「事業仕分け(蓮舫議員)」や「沢尻エリカ」などが登場。また突然舞台が暗転、ミラーボールが廻りだし、スポットライトを浴びた吉弥さんが森繁久弥の「知床旅情」を朗々と歌い上げる場面も。マイケル・ジャクソンのムーンウォークも飛び出した!中々愉しい趣向であった。

ただやはり非常に長丁場なので、終演時には疲労感に襲われ、ぐったりしたのも事実である(18時半開演で、終わったのは21時半くらい)。

1984年3月28日、桂枝雀さんは東京・歌舞伎座で「第一回桂枝雀独演会」を開催、仲入り後にこの「地獄八景」を高座に掛けた。会が終わり緞帳が下りても、興奮した観客の拍手が鳴り止まず、歌舞伎座としては異例のカーテンコールになったという。

正直今回、拍手をし続けるほどの気力・体力が僕には残っていなかった(他の聴衆もあっさり席を立った)。

やっぱり桂枝雀という人は桁外れの才能を持った、恐るべき噺家だったのだなと感慨を新たにした、今日この頃でございます。

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2010年5月10日 (月)

これは画期的!/林家花丸の落語JAZZ

DVDで初めて桂枝雀さんの落語を聴いた時、下記記事のタイトルが瞬時に閃いた。

そして、故・笑福亭松鶴(六代目)も「落語はJAZZや」と言っていたという事実を知った→鶴志さんの証言へ!

落語とJAZZのコラボレーション。ありそうでなかったイヴェントを体験するために、天満天神繁昌亭へ。補助席も一杯の大盛況。全席自由でチケットに記載されている整理番号順での入場。

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実はこの公演、僕はチケット発売日の朝10時きっかりにチケットぴあで購入したのだが、なんと整理番号が102番だった(繁昌亭主催公演なら同じやり方で必ず一桁台を購入出来る)。想像するに花丸さんサイドが整理番号の1-100までを事前に押さえていたということなのでは?こういうやり方は些か理不尽(アンフェア)に感じられた。

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  • 笑福亭生寿/米揚げ笊
  • 桂三金/奥野君のコンパ(三金 作)
  • 林家花丸/電話の散財
  • 唐口ジャズカルテット/♪ジャズライブ
  • 林家花丸/JAZZ落語・七度狐

三金さんのネタは何度か聴いたことがあるが、半ばに登場するバルーンショーで、手術用ゴム手袋を膨らませてニワトリを擬態するという趣向は今回初体験。益々面白くなった。

電話の散在」は大正時代の作品。途中、ハメモノ(お囃子)がふんだんに盛り込まれ、賑やかで愉しい。

仲入りをはさんでジャズライブ。カルテット(トランペット、ギター、ドラム、ベース)で演奏されたのは下記。

  1. TAKE THE 'A' TRAIN(A列車で行こう)
  2. STARDUST(スターダスト)
  3. BLUE BOSSA(ブルー・ボッサ)

そして待望のJAZZ落語。高座の下手にカルテットが陣取る。花丸さんの出囃子が何とクルト・ワイル/「三文オペラ」より”マック・ザ・ナイフ”!イカしてる。もうこれだけで痺れた。

落語のハメモノの代わりにJAZZが響き、カラスや鳩、山羊の擬音あり。調子に乗った花丸さん、「アルマジロ」「バクが夢を食べる音!」などと言って、唐口一之さんを困らせる一幕も。客席が大いに沸く。話の後半では骸骨がラインダンス(ロケット)を踊り、「彼岸の花咲く頃」を歌うなど宝塚歌劇のパロディも(宝塚のテーマ曲は「すみれの花咲く頃」)。宝塚雪組バウホール公演「雪景色」の監修をされ、すっかり宝塚ファンになった花丸さんの面目躍如である。

いやぁ、斬新でエキサイティングな会だった。客席を立った人々が口々に「今日は本当に面白かったね!」と言い合う光景が印象的だった。

今回、花丸さんは21世紀の落語に新たな地平を拓いたと言っても過言ではないだろう。是非これからもJAZZ落語を続けて下さい。次回も絶対行きます。

ところで花丸さんによるとこの日、桂九雀さんが楽屋に手伝いに来られていたそうだ。趣味でクラリネットを吹く九雀さん、JAZZ落語の成果をその目で確かめに来たという側面もあったのかも?

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2010年5月 9日 (日)

桂吉弥と、その新弟子たち/岡町落語ランド

豊中市立伝統芸能館へ。

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師匠・吉朝から引継ぎ、現在は桂吉弥さんが世話方を務める「岡町落語ランド」、約100名程度の入り。

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  • 桂   弥生/子ほめ
  • 桂弥太郎/軽業
  • 桂   紅雀/くしゃみ講釈
  • 桂吉の丞/桃太郎
  • 桂   吉弥/鴻池の犬

桂弥生さんは吉弥さんの二番弟子。入門は今年の1月22日。

正にNHK朝ドラ「ちりとてちん」の申し子とでも言うべき、女性噺家である。繁昌亭/落語家名鑑のプロフィール欄に「趣味:吹奏楽」とあるのだが、何か楽器を吹かれるのだろうか?

明るくはきはきとした高座で、聴いてきて心地いい。声もよく通る。「子ほめ」は従来聴くものと異なり、「いよぉ、どないした町内の人気者」(通常は色男)とか、知らないフレーズがそこかしこにあり、これが吉朝一門の型なのかと大変興味深かった。

続く弥太郎さんは吉弥さんの一番弟子。初舞台が2009年11月8日(吉朝の命日)、ここ「岡町落語ランド」にて。今回の「軽業」はネタおろしだそうで、そのせいか些か単調な喋り方だった。

紅雀さんは開口一番「pure部門が終わりまして、これからは”汚れ”部門です。いやぁ、初々しいですね」と。枝雀師匠の名言「笑いとは緊張緩和である」に絡め、「講釈にはこの緩和がなく、適当な緊張を心地よく愉しむものなんです」闊達で軽妙なリズム感がお見事!

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仲入り後、登場した吉の丞さんはトリに繋ぐ《モタレ》の役割について解説。「(トリの邪魔にならないよう)あんまり受けたらアカンのです。断っときますが、力はあるんですよ(ここで場内爆笑)。でも全力投球出来ない。天婦羅みたいにパラパラ程度の笑いでいいんです」そして「桃太郎」へ。途中、「繁昌亭大賞」(吉弥さん受賞)や「輝き賞」(吉の丞受賞)等のくすぐりを入れ、中々面白かった。

吉弥さんはNHK「ちりとてちん」にキャスティングされた経緯をマクラに「鴻池の犬」へ。つまり両者に共通するのは《世の中、才能だけではなく時の運がその人の運命を左右する》ということ。実に巧い構成だ。気っ風(きっぷ)がいい台詞回しで、くっきりと落語の世界を描出した。充実した落語会だった。

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2010年5月 8日 (土)

プレシャス

評価:B+

Precious

黒人(今は《アフリカ系アメリカ人》と呼ばなければいけないらしい)映画に興味はない。それに肥満体の女は好みじゃない。しかし前評判が極めて高い作品なので、重い腰を上げた。

わざわざTOHOシネマズ梅田まで足を運んで良かった。これは傑作。

サンダンス映画祭でグランプリを受賞。アカデミー賞では6部門(作品賞/監督賞/主演女優賞/助演女優賞/編集賞/脚色賞)にノミネートされ、助演女優(モニーク)と脚色賞を受賞。リー・ダニエルズは黒人として2度目の監督賞候補である(初回は「ボーイズ'ン・ザ・フッド」のジョン・シングルトン)。それにしてもこれだけの話題作なのに、大阪府で2館だけの上映とは何たること!

映画公式サイトはこちら

ニューヨーク市、ハーレムに生きる主人公の少女(16歳)の生活環境は苛酷である。映画の前半は観ていて胃がヒリヒリして、居たたまれない。しかし色々な人々との出会いが彼女に希望の光をもたらし、自分の意思で生きる道を次第に見出してゆく。モーレツな母親を演じたモニークが凄い。

ソーシャルワーカー役のマライア・キャリー、看護師役のレニー・クラヴィッツらも好演。それからフリースクールの教諭を演じたポーラ・パットンがなんとも美しく、見惚れた。

リー・ダニエルズの演出は、現実と少女の妄想が渾然一体となった不思議な空間を生み出しており、フェデリコ・フェリーニ(やボブ・フォッシーの「オール・ザット・ジャズ」)を彷彿とさせる、感性豊かな監督だと想った。

女性監督のオスカー受賞は今年実現したので、残る課題は黒人(アフリカ系アメリカ人)監督の受賞だな。

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2010年5月 7日 (金)

桂よね吉、九雀/動楽亭昼席(5/6)

新世界・動楽亭へ。

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  • 桂 そうば/十徳
  • 桂   吉坊/蛇含草
  • 桂   九雀/寄合酒
  • 桂   米二/口入屋
  • 桂よね吉/稽古屋
  • 桂   都丸/読書の時間(三枝 作)

5月5日は吉弥さんが出演するということもあって、定員100名を遥かに超える聴衆が詰め掛けたという動楽亭。その翌日は平日ということもあり、入りは45-6人程度。しかしよね吉さんが出演されるので、女性率は軽く5割を超えた。

そうばさんはカラオケでしくじり、ざこば師匠から「お前は破門や!今すぐ(故郷の)九州へ帰れ!往復の新幹線代はワシが出してやるから」と言われたという爆笑エピソードを披露。ちなみにざこばさんは「娘よ」「兄弟船」などカラオケのレパートリーが3曲しかなく、歌うと必ず泣くそうな。

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吉坊さんは20代の若手ながら、語り口が上手く、手(指先)の動きがしなやかで美しい。きめ細やかな芸風。つい先月聴いたばかりの(兄弟子)吉弥版「蛇含草」は汗をダラダラ流しながらの暑苦しい高座だったが、吉坊さんは涼やかに。僕は吉坊さんの方が好みだな。

番組表では三つ目によね吉さんの名前が書かれていたが、登場したのは九雀さん!よね吉さんは着物を忘れ、現在家に取りに帰っているそう。だから番組後半に出演予定だった九雀さんと入れ替わることに。「今日彼が出ることになった順番は、仲入り後の《カブリ》という役割と、トリに繋ぐ《モタレ》という役割を兼ね備えなければなりません。トリの噺家がよい芸が出来るように、場を盛り上げなければなりませんし、かといって長く演り過ぎてもいけないという難しい役どころです」とプレッシャーをかける、かける。

寄合酒」は眼鏡なしの《クラシック型》ではなく、眼鏡を掛けた《JAZZ型》での口演。噺の中に、新しく教会に赴任してきた”パトリックさん”が登場するというユニークな工夫あり。

仲入り後、よね吉さんが高座に上がっただけで客席から笑いがこぼれる。京都在住の彼は朝、電車に乗った瞬間に「しまった!衣装を忘れてきた」ことに気が付いたそうである。しかしこの日はNHKテレビ「ぐるっと関西おひるまえ」の生放送があり、取りに帰っていたのでは番組に穴を開けてしまう……そういう事情だったそう。「今日の放送をご覧になった方は、僕の顔が始終引きつっていた事に気付かれたことでしょう」放送終了後、スタジオ見学に来ていたおばちゃんから「この後、動楽亭にも行くからね!」と声を掛けられたそう。「何と答えたらいいか、途方にくれました」と。

まあこういうハプニングも、ライヴならではの愉しさだろう。

都丸さんは最近、三枝さんのネタを掛け過ぎ。もう飽いた。

帰り際、「九雀月報」を貰う。九雀さんが懇意にしている奈良の吹奏楽団・セントシンディアンサンブルの「超御機嫌音楽会」での出来事を例に、プロとアマの違いについて考察されており、非常に面白い読み物だった。

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2010年5月 6日 (木)

待ってました!なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2010

ザ・シンフォニーホールへ。

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年1回、プロのオーケストラ楽員(オケメン)による吹奏楽の祭典、なにわオーケストラルウィンズ(NOW)を聴く。過去の感想は下記。

指揮は淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部顧問の丸谷明夫先生(丸ちゃん)と、今年のゲストとして光ヶ丘女子高校の日野謙太郎先生。

「なにわ」といっても現在では東京のオケ奏者がなんと20人も参加している。2003年に始まった頃は殆どが関西在住のプロの音楽家で構成されていたが、評判が評判を呼び、丸谷先生の指揮で演奏したいという人々が東方からも多数、手を挙げたという次第。

16時開場、17時開演だが、16時前から長蛇の列。JR福島駅から走ってくる高校生たちも。

入場すると既に階段前で(告知のない)ロビーコンサートが始まっていた。

まずは榎田さんのフラウト・トラヴェルソ(バロック・フルート)、内藤さんのヴィオラ・ダ・ガンバ、松村さんのハープでトリオ。昨年の吹奏楽コンクール課題曲「16世紀のシャンソンによる変奏曲」の主題も演奏された。

さらにトランペット六重奏、12人のクラリネットで「花の謝肉祭」、ホルン四重奏で「ディスコ・キッド」、ベートーヴェンのオーボエ三重奏曲(オーボエ2,イングリッシュホルン1)と続く。

ロビーが撤収され、いよいよ客席へ。メイン・プログラムは下記。なお各々の指揮者は(M)=丸谷、(H)=日野を示す。

  • ライニキー/鷲の舞うところ(M)
  • C.ウィリアムズ/献呈序曲(M)
  • 長野雄行/吹奏楽のための民謡「うちなーのてぃだ」
    (課題曲III)(H)
  • 高橋宏樹/オーディナリー・マーチ
    (課題曲 II)(M)
  • 広瀬正憲/迷走するサラバンド
    (課題曲 I )(H)
  • オリヴァドーティ/薔薇の謝肉祭(M)
  • マッキー/翡翠(かわせみ)(H)
    《休憩》
  • リード/音楽祭のプレリュード(M)
  • 田嶋 勉/潮風のマーチ
    (課題曲IV)
    (M)
  • 鹿野草平/吹奏楽のためのスケルツォ第2番《夏》
    (課題曲V)(指揮者なし)
  • チャンス/朝鮮民謡の主題による変奏曲(H)
  • レスピーギ/ハンティングタワー(M)
  • マー/ノーブル・エレメント(H)

ライニキーは冒頭のファンファーレが格好いい!リズムが小気味よく、爽やかに一陣の風が吹き抜けるよう。

C.ウィリアムズは一言で言うと"noble"(高貴)。コラール風のメロディに、力強いマーチが続く。

課題曲IIIは沖縄らしい旋律で軽快。陽光が燦々と降り注ぐような音楽。ここで恒例の実験。まず曲の受け渡しがしやすい配置に変えての演奏。下手側、クラの中にサックスが混じっている。またファゴット、バスクラやチューバが1列目(上手)に!

課題曲 IIは丸ちゃんらしい引き締まったマーチ。作品自体は曲想の変化に乏しく平板な印象。コンクールで正当な評価を得られにくい鬼門の曲と見た。実験は少子化に伴い13人の演奏に挑戦。クラリネット1人、フルート(ピッコロのみ)1人。これはこれですっきりした響きがして、中々いい。

課題曲 I は変拍子の難しい曲。でも聴いていて面白い。

バラの謝肉祭」は僕も中学生の頃に吹いたことがある曲。当時、部内では通称「バラニク」と呼ばれていた。柔らかく美しいハーモニー、シンプルだが優しい旋律が魅力的。聴いていると学校の教室、開いた窓、風にゆれる白いカーテンなど懐かしい情景が瞬時に目の前に蘇ってくるようだ。

翡翠」はマッキーの「レッドライン・タンゴ」を聴いて感動した日野先生ら、日本の吹奏楽指導者7人がニューヨークに於いて本人に委嘱した作品だそう。都会的で洗練された響き、躍動するリズム。僕も大好きな作曲家である(ただし現時点で、マッキーを自由曲に選び、全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞した団体はない)。指揮者の熱い想いが奏者にも伝播し、極めつけの名演が生まれた。

休憩時間中にも金管七重奏のパフォーマンスが。何というサービス精神!

さて、プログラム後半である。「音楽祭のプレリュード」は金管の輝かしい響きが素晴らしい。

課題曲IVは颯爽として、ある一面では可愛らしい曲。こちらは大人数、メンバー全員(約60名)で吹くという実験。厚みのある音。

課題曲Vはおもちゃ箱をひっくり返したような、ごちゃごちゃした、けったいな曲。指揮者なしでの演奏。途中ドラムセットのソロがあり、アドリブではなく譜面通りに叩かないといけないのが厄介なのだそう。東京都交響楽団パーカッション奏者の安藤さん、終わっての感想は「あーもうこれで、(二度と)演らなくていいんだな!」と。前日の東京公演で「この曲を書いた奴がムカツク!」と言っていた安藤さん、実は作曲者が聴きに来ていて、丸ちゃんがステージに招くと「いい曲ですねぇ」と手のひらを返したそう。そのエピソードに客席大受け。

続いてローマ三部作や「シバの女王ベルキス」で有名なレスピーギが書いた唯一の吹奏楽オリジナル作品。「ハンティングタワー」とは15世紀に建てられたスコットランドの古城の名前だそう。調べてみると、詳細な写真を見つけた →こちら。暗い影が差し込む、重々しく荘厳な曲だった。へぇ、レスピーギにはこういう曲もあったんだ!

ノーブル・エレメント」はリズムの面白さ、ハーモニーの美しさが光った。

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アンコールはまず、NOWに初回から参加しながらも、今回出番がなかったハープの松村さんをフィーチャーし、丸ちゃんの指揮でJ.S.バッハ(リード編曲)のコラールを。

日野先生の指揮で2曲目が演奏された後、ウルトラセブンの被り物をした下野竜也さん(読売日本交響楽団正指揮者)が登場し、「ウルトラセブン」や「帰ってきたウルトラマン」を振った……というか、指揮台で踊りまくり、ホール全体が爆笑の渦に巻き込まれた。

最後に丸ちゃんが「指揮者の仕事とは何ですか?」と下野さんにふると、きっぱりと「こういうことです!」

実に愉快で充実した3時間であった。最後にNOW代表、金井さんに伏してお願いする。来年こそは是非とも丸ちゃんの指揮でジェイムズ・バーンズ/アルヴァマー序曲の決定版を!

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2010年5月 5日 (水)

動楽亭昼席→繁昌亭/ゴールデンウィーク特別興行(5/4)

大阪・新世界へ。

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定員100人の動楽亭が、大入り満員で札止め。これまでにない盛況とのこと。やはり吉弥人気か。女性客が約5割。そしてゴールデンウイークということもあり、動楽亭に来るのが初めてという人も半数くらい(団朝さんが挙手でアンケート実施)。

  • 桂 とま都/強情灸
  • 桂雀五郎/青菜
  • 桂   吉弥/七段目
  • 桂米團治/天狗裁き
  • 桂   団朝/秘伝書
  • 桂 ざこば/天災

吉弥さんはマクラで大阪で開催されたフィギュアスケートのショーを観に行ったエピソードを。浅田真央、高橋大輔、イナバウアー(荒川静香)らが出演したが、なんと特等席は2万8千円だったとか!吉弥さんらは子供連れだったので、スケートリンクから遠い安価な席。オリンピックではないのでトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)など難易度の高い技はなく「こんなんだったらテレビの方が良かった」

吉弥さんの十八番「七段目」は、瞬きや眉毛の動かし方が面白い。

米團治さんの「天狗裁き」は、表情や仕草など米朝さんを彷彿とさせるところがちらほら。やはり血は争えない。

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仲入りを挟み登場した団朝さん、開口一番「後半戦は武闘派でお愉しみ頂きます」と。動楽亭周辺の飲食店案内から本編へ。

続いて登場したざこばさん、楽屋で「今日は何でこんなに(動楽亭に)入っとるねん!?」と尋ねると、「いやぁ、お客さんたちはざこば師匠を見に来てはるんでしょう」との答え。「でも昨日もワシは出とったけれど、57人やったで(吉弥の出演なし)」「今日は天気がいいからでしょう」「昨日も良かったがな」「今日はゴールデンウィークですし……」「昨日もや!!」

そして一時期、サンケイホール建替のため米朝一門会をヒルトンホテルに移していた時のエピソードを披露。米朝師匠と懇意にしている某会社社長が吉弥さんの高座を聴いた直後に楽屋の米朝さんの所にやって来て、「師匠!久しぶりに本格的な噺家が現れましたな」それを目の前で聞かされたざこばさん、「ワシは本格派やないんかい!むかつく」と。

「天災」は血の気が多くて短気な主人公が、ざこばさんのニンに合っていた。

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動楽亭を後に、夕刻から天満天神繁昌亭へ。

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  • 笑福亭由瓶/手水廻し
  • 桂       文華/二人癖
  • 林家    染二/いらち俥(半ば)
  • ナオユキ     /漫談
  • 桂    米團治/稽古屋
  • 春野    恵子/浪曲「番町皿屋敷」
  • 笑福亭仁福/粗忽長屋
  • 笑福亭松喬/佐々木裁き

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由瓶さんは独特の長い間で笑いを起爆した。

米團治さんは明るく華やかに。これは生まれ持った資質、育ちの良さなのだろう。

松喬さんは子供の可愛らしさが光る。子供だけ吃音というのが笑福亭の秘伝。春團治さんの稽古を受け、今年の秋には「いかけや」にも挑みたいと。

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2010年5月 4日 (火)

TORII寄席/桂文珍を聴く会

トリイホールへ。

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ゴールデンウィーク特別企画を聴く。

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  • 桂 二乗/阿弥陀池
  • 桂 楽珍/半分垢(半分雪)
  • 桂 文珍/茶漬間男(二階借り)
  • 桂 文珍/胴乱の幸助

文珍さんがTORII HALLに出演されるのは平成4年以来、実に18年ぶり。事務所の関係で中々実現しなかったそう(文珍さんは吉本興業、TORII寄席の世話人は米朝事務所に所属する米團治さん)。しかし今年はその垣根を越えた「上方落語まつり」が盛況のうちに開催され、雪解けが起こったという経緯のよう。

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18年前に文珍さんが書かれたサイン色紙も掲示されていた。

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文珍さんは何よりマクラが面白い。自身の老いのことや時事ネタを交え、小咄を連ねてゆく。各々しっかりオチがついているのだからさすが。「上方落語まつり IN ミナミ」の米朝さんのエピソード、米團治さんや楽珍さんの失敗談など腹を抱えて笑った。

さらりとして、すっとぼけた味わいの「茶漬間男」の粋、浄瑠璃の語り口の巧さが光る「胴乱の幸助」も良かった。

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2010年5月 3日 (月)

笑福亭鶴瓶登場!/繁昌亭昼席(5/2)

天満天神繁昌亭へ。

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  • 林家市楼/犬の目
  • 笑福亭瓶二/親子酒
  • 林家うさぎ/手水廻し
  • サンデー西村/バイオリン漫談
  • 桂 蝶六/豊竹屋
  • 笑福亭鶴志/野崎詣り
  • 桂朝太郎/マジカル落語
  • 笑福亭岐代松/時うどん
  • 月亭八天/饅頭こわい
  • 笑福亭鶴瓶/転宅

大入り満席で、立ち見客もいた。

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時うどん」、「動物園」、「手水廻し」という三つのネタについて、繁昌亭では一時期、(昼席に掛けることの)禁止令が出たそうだ。客席から「いつ行ってもこればっかり」という声があがったらしい。それをベテランが演るというのは如何なものだろう?特に工夫もなく、退屈だった。

瓶二さんは酒で(鶴瓶)師匠をしくじったエピソードをマクラに。

蝶六さんは狂言の基本の言い回し「二字上がり」を客席参加型で練習して本編へ。滑らかな口調が音楽的で、心地よい。

鶴志さんは豪快な高座。

八天さんは淀みなくトントンと。沢山の登場人物の演じ分けが上手い。中間部の怪談噺はカットした、東京の型で(多分時間の関係だろう)。

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滅多に繁昌亭に登場されない鶴瓶さん。マクラでは立川談志さんのお見舞いに行った時の爆笑エピソードを(その詳細は下記記事に書いた)。

そして古典落語「転宅」へ。ニセ医者の噺から、泥棒を騙る本編へ。見事な流れだ。

純情で間抜けな男の、そこはかとない可笑しさ。余分な贅肉は削ぎ落とされ、「子泣き爺」や「エイの裏」など以前聴いた時はなかったくすぐりもあり、一層進化していた。さすがである。鶴瓶さんは湿っぽい「たちぎれ」や「子は鎹」よりも、こういうカラッとした噺の方が似合っている。

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終演後、繁昌亭の前でお客さんに気さくにサインする鶴瓶さん。

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T04

このボリュームでチケット代2,000円ポッキリ。行って良かった。

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