ロッシーニとロイド=ウェバー/歌劇「ランスへの旅」
開館20周年を迎えたいずみホールへ。
ロッシーニの最高傑作、歌劇「ランスへの旅」を観る。
絶賛を博したプロダクションの再演である。2年前に初演を観た時のレビューはこ ちら。作品の詳しい背景などについても語っている。
ロッシーニは76年の生涯で39のオペラを書いた。有名な「セビリアの理髪師」は23歳の作品であり、「ウイリアム・テル」を発表した37歳で彼は作曲家を引退、後半生は悠々自適の生活を送った。美食家であった彼は、「ロッシーニ風」と呼ばれるたくさんの料理のレシピを残した(詳しくは→こちら)。
詩人ハインリッヒ・ハイネは次のように賞賛した。
白鳥は死期が迫ると歌いますが、ロッシーニは人生の半ばにして歌うのをやめてしまいました。彼は天才ゆえにそうしたのです。(中略)天才は最高の仕事をやり遂げて満足し、世間やつまらない功名心を軽蔑するものなのです。
(「フィレンツェの夜」より)
ロッシーニのことを考えるとき、僕の脳裏に浮かぶのは「ジーザス・クライスト・スーパースター」「エビータ」「キャッツ」等で知られるミュージカルの巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーである。「オペラ座の怪人」が初演されたのが1986年、ウェバー38歳の時。作曲家としてのピークであったと言えるだろう。そして93年に「サンセット大通り」(日本未上演)がロンドンで初演され(ウェバー45歳)、これが彼にとって最後の傑作となった。
「サンセット・ブルーバード」で筆を折っていれば、ロイド=ウェバーは後世まで「モーツァルトの再来」「20世紀最高の天才作曲家」としての評価を失うことはなかったであろう。少なくとも現在の彼のように生き恥を晒すことはなかった筈だ。
2010年、ロンドンの劇場街ウエストエンドで「オペラ座の怪人」の続編、"Love Never Dies"が幕を上げた。僕はストーリーの概要を聞いて笑ってしまった(以下ネタバレあり)。舞台はニューヨークのコニーアイランド。最後はメグ・ジリーがクリスティーヌをピストルで撃ち、瀕死の重傷を負ったクリスティーヌは自分の息子を呼び「あなたの本当の父親はラウルではなくファントムなのよ」と告白して息絶えるとか……なんじゃ、そりゃ!?評判は推して知るべし。タワーレコードでこの「オペラ座の怪人2」のCDを試聴してみたが、音楽も惨憺たるもの。印象に残るメロディは全くない。
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さて、「ランスへの旅」の話に戻ろう。岩田達宗の演出は初演と大きな変更はない。いずみホールという空間を最大限駆使した完成度の高いものだけに、いじる必要がなかったのだろう。
ロッシーニ・クレッシェンドの悦楽。こんなに愉しいオペラが他にあるだろうか?10人にも及ぶ優れた歌手たちの饗宴、華やかな歌合戦を堪能した。特にソプラノの石橋栄実(容姿や演技もチャーミング!)、メゾ・ソプラノの福原寿美枝、テノールの清水徹太郎、松本薫平、バリトンの井原秀人らが素晴らしかった。佐藤正浩/ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団も好演。
大阪名物たこ焼きと、指揮棒を手にするロッシーニ。右肩に「ようこその おはこびで」の文字が。
ロッシーニの音楽に心地よく身をゆだねながら、フェデリコ・フェリーニ監督の映画「8 1/2」の名台詞、「人生はお祭りだ!一緒に過ごそう」を想い出した。フェリーニとロッシーニはどちらもイタリア人、やはり気質が似ているのだろう……と帰宅して2年前の僕の感想を読んでみると、同じことが書いてあったので笑ってしまった。
Viva Opera!!
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