この胸に深々と突き刺さる矢を抜け
2010年「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞した、白石一文が2009年に山本周五郎賞を受賞した小説、「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」を読んだ。
大体、最近の直木賞は山本周五郎賞の後追いが多すぎる。今年、白石と直木賞を同時受賞した佐々木譲も、「エトロフ発緊急電」で既に山本周五郎賞を受賞している。しかも1989年、何と21年前のことである!遅きに失したと言わざるを得まい。実に情けない……。
閑話休題。「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」に、僕はとても共感した。特に気に入ったのが、次の一文である。
僕たちは自分が過去から未来へと連綿と生き長らえる何物かの一部だと感じた瞬間に自分自身を見失う。そして無責任で怠惰になる。
是非この言葉を、師匠に教えられた通り一言一句再生し、古典落語さえやっていれば「本格派」だと信じている噺家や演芸ライターたちも聞いてほしい。
僕たちは今の中にしか生きられない。歴史の中に僕たちはもうどこにもいないのだ。過去の中にもこれからの過去の中にも僕たちはどこにもいない。今、この瞬間の中にしかいない。この瞬間だけが僕たちなのだ。時間に欺かれてはならない。
(中略)
この胸に深々と突き刺さる時間という長く鋭い矢、偽りの神の名が刻まれた矢をいまこそこの胸から引き抜かねばならない。その矢を抜くことで、僕たちは初めてこの胸に宿る真実の誇りを取り戻すことができるのだから……。
立川談志さんの言う「伝統を現代に」の意味も、正にこのことなのであろう。
僕も常に「今を生きる」という姿勢を貫きたいと想う。
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