玉木宏・上野樹里 主演/映画「のだめカンタービレ最終楽章」後編
評価:B+
前編について僕が書いたレビューはこちら!
今回はテレビ・シリーズの回想場面が何度も出てくる。だからそれを未見の人にとって、この映画が愉しめるかといえば甚だ疑問ではある。
しかし音楽映画として実に良く出来た作品である。武内英樹の演出も相変わらず冴えている。エンターテイメントとしての面白さに徹しながらも、クラシック音楽をしっかり聴かせようという姿勢には好感が持てる。
特に”のだめ”がラヴェル/ピアノ協奏曲を初めて聴き、彼女の妄想へと突入する場面はイマジネーションに富み、鮮烈だった。
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映画公式サイトはこちら。
物語は”のだめ”がマンションの別の部屋から聞こえてくるテルミンの音にうなされ、悪夢を見る場面から始まる。これにリアリティを感じた。
電子楽器テルミンは手をアンテナに近づけたり離したりすることにより音程が決まるので、鍵盤みたいに音階のみで旋律を奏でることが出来ない。つまり音の高低がスライド式に(切れ目なく連続して)移行する。
多くの音楽家がそうであるように、恐らく”のだめ”も絶対音感を持っているのであろう。そういう人にとって、正確なドレミを弾けない楽器は不快でしかない。
以前、大阪フィルハーモニー交響楽団の楽員が、バロック音楽を当時の楽器を用いて演奏しようとして出来なかったことがあった。現在の調律A音=440Hzと異なり、バロック・ピッチ(音程)は415Hzで約半音低い。幼少時の音楽教育により440Hzで絶対音感を身につけた弦楽奏者たちは、自分たちが弾いている指使いと、奏でる音のズレがどうしても違和感があって弾き辛かったという。
また、映画の中でヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」より「冬」第2楽章が流れた時、超高速でかっ飛ばしたピリオド奏法(ノン・ヴィブラート)だったので、さすが飯森範親さんの指揮だと快哉を叫んだ。アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによる(古楽器の)「四季」を初めて聴いた時の、天地がひっくり返るような衝撃を想い出した。
”のだめ”を演じる上野樹里の弾くピアノは全て世界的ピアニスト、ラン・ラン(中国出身)の吹き替えである。その演奏自体も研ぎ澄まされていて素晴らしいのだが、今回特に感心したのはショパン/ピアノ協奏曲 第1番の場面。ここで鍵盤上の上野の指の動きが、ピッタリとラン・ランの音に合っているのである!撮影の前に相当ピアノの特訓を受けたのだろう、彼女の女優魂を見せつけられ、圧巻だった(大林宣彦監督の映画「ふたり」で石田ひかりが弾いたシューマン/ノヴェレッテ 第1番の場面が脳裏をよぎった)。映画終盤、玉木宏演じる"千秋”とモーツァルト/2台のピアノのためのソナタを連弾する場面では彼女の顔が夕日に映え、神々しいまでに美しかった。
さて、その連弾の場面でシュトレーゼマン(竹中直人)のマネージャーから電話が掛かるのだが、彼らがその時滞在しているのがザルツブルク。よくよく考えてみたら、ザルツブルクはモーツァルトの生まれた街。してやられた!と唸った。
本作はとびきりロマンティックなラスト・シーンが用意されているので、こちらもお楽しみに。いやぁ、大満足でした。
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コメント
ラベルのピアノ協奏曲の妄想場面で、もう泣けてきそうでした。
ストーリーに、というより『音楽ってやはり素晴らしい!』そんな思いで泣けて来そうでした。
樹里さんの指の動きも圧巻でしたが、水川あさみさんのヴァイオリンの演奏場面もかっこよかったですよね!?
本当に皆さん頑張って研究するのですね、プロ根性を感じました。
ショパンのシーンは芸文で聴いたランランの演奏を思い出し、感動も2倍でした。
投稿: jupiter | 2010年4月19日 (月) 17時28分
jupiterさん、コメントありがとうございます。
仰るようにブラームス/ヴァイオリン協奏曲の場面もリアルで良かったですね。ただ、水川あさみはテレビ・シリーズの頃と比較すると容色が衰えたなと思いました。
それからラン・ランですが、例えばのだめのオリジナル楽曲「もじゃもじゃ組曲」とか「アヴィニヨンの橋の上で」も彼が弾いているのですね。モーツァルト/2台のピアノのためのソナタなんか、一人で多重録音してるみたいですよ!並々ならぬ意気込みを感じます。
投稿: 雅哉 | 2010年4月20日 (火) 01時07分