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2010年4月11日 (日)

坂本龍一の箏協奏曲 世界初演!〜佐渡裕/PAC定期

兵庫県立芸術文化センターへ。

S02

佐渡裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)の定期演奏会を聴く。

  • 坂本龍一/箏とオーケストラのための協奏曲(世界初演)
  • グバイドゥーリナ/「樹影にて」アジアの箏とオーケストラのための
  • プロコフィエフ/バレエ音楽「ロミオとジュリエット」

箏の独奏は宮城道雄の最後の弟子、沢井一恵さん。

S01

プログラム前半の2曲は、いずれも沢井さんが演奏することを念頭に書かれたもの。

坂本龍一さんの協奏曲は4つの楽章から構成される。

  1. still (冬、静止、薄明、再生への胎動、etc.)
  2. return from the death (春、命、芽、上昇、etc)
  3. firmament (夏、天空、陽気、横溢、etc)
  4. autumn (秋、黄昏、予感、死、黄泉、闇、etc)

つまりこれは人間を含めた生命の一生、輪廻を描いていると考えられる。オーケストラの前面に箏が4つ並べて置かれ、楽章ごとに奏者が移動して弾いていくという趣向。

ミニマル・ミュージックの手法を基本としながら、そこにたおやかで日本的抒情を加味した美しい楽曲に仕上がっていた。現代音楽というイメージを裏切り、明快。これは傑作である。

上昇気流のような熱気を帯びた第3楽章では箏の絃が切れて、駒が飛ぶというハプニングも。実にスリリングな体験だった。

また、死のイメージに満ちた第4楽章は坂本さんがベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「シェルタリング・スカイ」のために書いた音楽(名曲!)を彷彿とさせた。

マイクが林立し、ライヴ・レコーディングされていた。さらに坂本龍一さんは佐渡/PACと共にテレビ朝日「題名のない音楽会」に出演される予定なので、いずれ耳にされる機会もあるだろう(4月15日東京オペラシティ コンサートホールで公開収録予定)。

グバイドゥーリナは弦が左右2群に分かれ、右側がチューニングのピッチ(音程)を1/4音低く設定し、音で光(左)と影(右)のコントラストを生み出すという手法が用いられ、すこぶる面白かった。ここでは十三絃箏、十七絃箏、そして21本の絃を持つ中国のツェン(箏)が並べられ演奏された。コップやヴァイオリンの弦を使って絃をこするという奏法もあり、実にユニークな作品であった。

沢井さんは一曲目は和服で登場し、2曲目は洋装で爪弾かれた。 成る程、east meets west(東洋と西洋の出会い)だなぁと感じ入った。

プログラム後半のプロコフィエフも見事な演奏だった。佐渡さんはリズム感の悪さが目立つことが多く、しばしばもっさりした(鈍重な)演奏になりがちだが、マーラーとかこういう近・現代音楽を振らせると巧みだなぁと見直した。

「モンタギュー家とキャピレット家」は弦楽セクションの粘り腰が素晴らしかった。一転、「少女ジュリエット」は軽やかに舞い、「仮面」はおどけて滑稽な雰囲気が上手く醸し出されていた。ロマンティックな「ロメオとジュリエット(バルコニー・シーン)」では英国ロイヤル・バレエによるケネス・マクミランの名振付を想い出し、陶然となった(映画「センターステージ」にもこのシーンは登場)。「ティボルトの死」で音楽は激昂、鬼気迫り、「ジュリエットの墓の前のロメオ」は慟哭し、重量級の行進をする。

今回のゲストコンサートマスターは大阪出身の高木和弘さん。2002-2006年の間、ドイツヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスターを務め、現在は東京交響楽団、山形交響楽団のコンサートマスターを兼任。また、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとしても指揮者の飯森範親さんと常に行動を共にし、その懐刀として大活躍されている。

ヴィオラのトップが宮川彬良/アンサンブル・ベガやいずみシンフォニエッタ大阪のメンバー、馬渕昌子さん。チェロのトップがソリストとして名高く、いずみシンフォニエッタ大阪のトップでもある林裕さん。

このあたりの優れた奏者が牽引し、若いPACオケの弦楽セクションが、今までにないくらい充実した響きを生み出していたことは特筆に価する。

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