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2010年3月

2010年3月31日 (水)

桂文我/はなしの世界(3/30)

ワッハ上方へ。

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  • 桂まん我/餅屋問答(別名「こんにゃく問答」)
  • 桂 文我/癪の合薬(別名「やかんなめ」)
  • 桂 平治/お血脈
  • 桂 文我/本能寺
  • 桂 文我/菜刀息子

師匠から習ったとおり(何の工夫もなく)再生するだけの、保守的な噺家/クローン人間では詰まらない。文我さんの落語会の面白さは今まで未体験の、《けったいな噺》が聴けること。レア・アイテム、珍味の愉しみ。

癪の合薬」(しゃくのあいぐすり)のマクラで文我さんは、顔のパーツが登場する小噺をいくつか披露され、それがすこぶる面白かった。

本能寺」はかつて桂米朝さんがされていたが、最近は余り演り手がいないようである。僕も初めて聴いた。文我さんの解説によると、六代目桂文治の構成も採り入れて演じられたとか。典型的な芝居噺であり、途中ハメモノ(お囃子)がふんだんに入り、賑やか。いつの日にか、吉朝一門による「本能寺」も聴いてみたいな。

菜刀(ながたん)とは、いわゆる菜切り庖丁のこと。「菜刀息子」は別名「弱法師」(よろぼし)とも呼ばれる。元々は能が原作のようである。四代目桂米團治(先代)が残した定本があるとか。

故・桂吉朝(吉弥、よね吉らの師匠)は2005年10月27日に国立文楽劇場「米朝・吉朝の会」で「弱法師」を演じ、これが最後の高座となったことでも知られている。

噺の半ばで表を通りすがる物売りたちの声が聴こえてきて、その中身が変化することにより春夏秋冬の移り変わりを表現する演出に感銘を受けた。これぞ落語の醍醐味、魅力の真髄である。もっと多くの噺家が高座に掛けてもいいのに、と口惜しい。

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2010年3月30日 (火)

マイレージ、マイライフ/そして、2009年アメリカ映画ベスト・テン

評価:B+

Up_in_the_air

原題"Up in the Air"は、「飛行機こそ我が家」と豪語する主人公の「バックパックに入らない荷物はいっさい背負わない」という、浮き草のような人生哲学を表現しているといえるだろう。ナショナル・ボード・オブ・レビュー(米国映画批評会議賞)で作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞を受賞。アカデミー賞では作品・監督・主演男優(ジョージ・クルーニー)・助演女優(ヴェラ・ファーミガ&アナ・ケンドリックの2人)・脚色賞にノミネートされた(受賞なし)。監督は「サンキュー・スモーキング」「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ライトマン。公式サイトはこちら

まず主人公が《リストラ宣告人》という着眼点が面白い。こんな職業が世の中にあるなんて初めて知った。訴訟社会のアメリカならではだろう。

彼に絡む女性2人のコントラストも鮮やかだ。妖艶で手練れの三十路過ぎの女、そして生真面目で融通のきかない二十代半ばの女。女優陣も好演。

すかしたジョージ・クルーニーが部屋で荷物を詰めて、飛行機に乗り込むまでの手際の良さを短いカットで積み重ね、畳み掛けるように編集した冒頭部は実に素晴らしかった。

しかし考えてみれば、物語の最初と最後で主人公の生活は結局、何も変わっていないんだよね。こういう映画も珍しい。そして人生は続く……。

最後に、2009年に(本国で)公開されたアメリカ映画ベスト10(雅哉セレクション)を下記に挙げておく。タイトルをクリックすれば各々のレビューに飛ぶ。なお、アカデミー作品賞候補になった「第9地区」「17歳の肖像」「プレシャス」"A Serious Man"の4作品は現時点で日本公開されておらず、未見である。

  1. スター・トレック
  2. ハート・ロッカー
  3. カールじいさんの空飛ぶ家
  4. アバター
  5. イングロリアス・バスターズ
  6. (500)日のサマー
  7. マイレージ・マイライフ
  8. インビクタス/負けざる者たち
  9. プリンセスと魔法のキス
  10. NINE

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2010年3月29日 (月)

新世界南光亭/師匠・枝雀の作品に挑む!

大阪・新世界にある動楽亭へ(席亭:桂ざこば)。定員100名、予約の時点で満席。

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  • 桂吉の丞/千早ふる
  • 桂   南光/算段の平兵衛
  • 桂   南光/夢たまご(桂枝雀 作)初演

吉の丞さんは兵庫県播磨町での仕事のエピソードをマクラに。これを聴くのはもう3回目。

南光さんは最近、碁を始められたそうで、9歳の女の子と対戦したとか。また、宝塚に住む96歳になるガール・フレンドの運転で、フレンチを食べに行ったことなどをマクラで。年齢は関係ない、これからも色々なことに挑戦していきたいとの決意を表明された。南光さんは現在58歳。考えてみれば師匠・枝雀さんの亡くなった年齢(59歳)に近づいておられる。

月亭八方さんの演じる「算段の平兵衛」は狡賢くて《悪い男》っぷりが魅力なのだが、南光さんの場合、好色な庄屋のいやらしさに何ともいえない可笑しみがあった。

仲入りを挟み、南光さんは枝雀さんが創られたSR(ショート落語、SF落語の意もあり)をいくつか紹介された。また梅田の太融寺で開催されていた「SRの会」を高校生の頃、手伝った想い出を語られた。その頃集っていた作者(投稿者)たちは現在、行方知れず・音信不通になっている人が多いとか。そのSRを具体的にご紹介しておこう。

《流れ星》

「あ、お母ちゃん、流れ星」
「さ、今のうちにお願いごとを言いなさい」
「一日も早く、お父さんに会えますように」
「そんなこと言うもんじゃありません。お父さんには私たちのぶんも長生きしていただかなくちゃ」

《犬》

「おっちゃん、そこどいてんか?」
「あっ、この犬もの言うてる……そんな訳ないわな。犬が人間の言葉喋るわけないわな」
「おっちゃん、そこにおると日陰になって寒いちゅうねん」
「あっ、やっぱりこの犬もの言うてるで!」
「お父さん、さっきから何ワンワンワンワン言うてんの?」

《定期券》

「あっ、こんな所に定期券が落ちてる。誰が落としたんやろ?…どこからどこ、と駅の名前も何も書いてへんがな。ああ、期限が切れてほかし(捨て)よったんやな……しかし、期限も何も書いてへんなあ……??わし、何でこれが定期券やと分かったんやろ……」

ちなみに立川談志さんは昨年11月に出版された「談志最後の落語論」の中で、「落語を突き詰め、自分を追い込む」という項にこの《定期券》を取り上げた。さらに、枝雀さんの芸風がある日突然オーバーアクションに変化したことについて触れ、

「受けるために演った」と枝雀は言っているが、ことによると、発狂しないために演っていたのかもしれない。

と書かれている。つまり、ここには落語の狂気があるということだ。

そういう意味では枝雀さんが創作した落語「夢たまご」にも静謐な狂気の凄みがあって、僕はとても好きだ。

それは自己完結した、閉じられた世界である。枝雀さんがポツリと、ひとり座っている。行き交う人との会話はあるが、それは水面に写った自分の姿、木霊として聴こえてくる己の声でしかない。《桂枝雀の内的宇宙》と言い換えてもいいだろう。不思議な味わいのある、心に残る作品である。

枝雀さんの新作を受け継いでいる噺家は今のところ他にいないので、南光さんにはこれからも色々期待したい。「いたりきたり」もいいが、僕が是非、生で聴きたいのは「春風屋」と「山のあなた」である。

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上の写真は、動楽亭に飾られた枝雀さんの色紙。「萬事(ばんじ)気嫌よく」と書かれている。

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師弟競演/染丸・染二 春爛漫

繁昌亭へ。

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  • 林家染太/犬の目
  • 林家染雀/二十四考
  • 林家染二/御神酒徳利
  • Wonderful佳恵/マジック
  • 林家染丸/胴乱の幸助

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御神酒徳利」は昭和天皇の時代に、三遊亭圓生が御前口演をしたことで有名。これを染丸さんが上方に移植したものを、一番弟子の染二さんが演じた。とてもネタおろし(初演)とは想えない位、自分のものとして咀嚼されており、お見事!お目出度い噺で愉しかった。

染丸さんの「胴乱の幸助」は浄瑠璃を語るところが絶妙な上手さ。さすがだなと感心しながらじっくりと味わった。NHK朝ドラ「ちりとてちん」にもこの噺が登場するが、考えてみればその落語指導を担当されていたのが染丸さんだった。

なお染丸さんはこの度、文化庁主催「平成21年度芸術選奨」大衆芸能部門で、坂本龍一さんと共に、文部科学大臣賞を受賞された。

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2010年3月28日 (日)

映画「時をかける少女」(2010年版)

いつも青春は時をかける

愛の予感のジュブナイル

……これらは原田知世主演(これが映画デビュー)、大林宣彦監督による不朽の名作「時をかける少女」のキャッチコピーである。僕はこれを高校生の時、満員の「岡山セントラル」で観た(薬師丸ひろ子・松田優作主演「探偵物語」との二本立て)。白黒で始まった画面が、次第に色付いてくる冒頭部を観ただけで胸が一杯になり、不覚にもボロボロ泣いてしまった。そして「この監督に一生付いて行こう」と映画館の暗闇の中で堅く心に誓った。「転校生」は既に日本テレビの放送で観ていたが、スクリーンでは本作が大林映画初体験となった。

その後、2008年の最新作「その日のまえに」に至るまで、劇場公開された大林映画40本、さらに現存する8mmおよび16mmフィルム作品は全て観た。だから遠い少年の日の約束はきちっと守っているつもりである。映画のロケ地となった広島県尾道市および竹原市は何度も旅をし、物語の残像を追って彷徨した。

今回リメイク版を監督した谷口正晃もまた、高校生の時に映画館で大林版「時をかける少女」を観て感動したそうである。そういう意味で僕たちは「同士」と言えるだろう。

「大林映画はカルトである」と僕は常々想っている。残念なことだが一般の観客からは余り支持されない。しかし時に我々のような熱狂的ファンが付く。しかもその大半が男性であるという特徴を持つ。

2006年アニメーション版「時をかける少女」(文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞)を創った細田守監督(「サマーウォーズ」で「キネマ旬報」日本映画ベスト・テン第8位)もまた、大林映画フリークであり、金沢美術工芸大学在学中に「大林宣彦ピアノコンサート」を企画し、それが縁で映画の世界に入ったという。つまり大林映画を観て育った、かつての子供たちが現在第一線で活躍し、「大林宣彦リスペクト」の作品を世に問うているということなのだ。

さて、そろそろ2010年版の話をしよう。

評価:D+

Tokikake

映画公式サイトはこちら。2006年アニメーション版でもヒロインの声を担当した仲里依紗が”芳山あかり”を演じた。

彼女はかつて原田知世が演じた”芳山和子”(安田成美)の娘という設定。さらに和子の幼馴染”堀川吾朗”がやはり酒屋として近所に住んでおり、未来から来た青年”深町一夫”(石丸幹二)も再登場する。ちなみにアニメ版の主人公は”芳山和子”の姪である(和子は「魔女おばさん」と呼ばれている)。

映画の冒頭でアルコールランプが出てきた時は思わず、「土曜日の実験室」と呟いてしまった。その実験室は大林版そっくりに作られており、やはり大林版に登場するラベンダー温室で撮った写真も重要なガジェット(小道具)となる。

記憶を失った”あかり”が”深町”と廊下ですれ違う場面は、明らかに大林版ラストシーンへのオマージュであり、大林版がオープニング・クレジットの後、満開の桜の下で原田知世が学校に登校するシーンから始まるのに対し、2010年版は桜並木をヒロインが歩くラストシーンが用意されているという具合。

また、喫茶店の場面では2006年アニメ版で使用された、J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲が流れていた。

まあそんな風に、往年の「時をかける少女」ファンはニヤニヤしながら、そこそこ愉しめる作品に仕上がっている。しかし一方、現役の中・高校生がこの映画を観て、果たして面白いだろうか?という疑問も残った。実際映画館に観に来ていた女子高生たちは上映中に退屈そうに足踏みしたり、お喋りした挙げ句、途中で出て行ってしまった。

谷口正晃監督は日本大学芸術学部映画学科の卒業制作の短編「洋子の引越し」が、ぴあフィルムフェスティバルで最優秀16mm賞を受賞。その時の審査員が大林監督だったという。

2010年版で1974年にタイムスリップしたヒロインは大学の映研で8mmを撮っている青年に恋をする。なんて青臭い設定なんだ!と鼻白んだ(映画「虹の女神」を想い出した)。また「秋田行き深夜高速バス」という伏線も、もう最初からミエミエで、シナリオが稚拙。ノスタルジーも結構だが、商業映画という「商品」としては如何なものか。そうそう、それから大林版では最後に"和子”の記憶は消されるが、"深町”はタイムトラベルした時の自分の記憶も消去しなければならない、それがルールだと語っていた。何で2010年版の彼は全部覚えているの?

谷口監督は現在43歳。フェデリコ・フェリーニが「8 1/2」を撮った年だ。何やってんだ、と問いたい。

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2010年3月27日 (土)

日本テレマン協会/ヨハネ受難曲

カトリック夙川教会聖堂(兵庫県)へ。

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延原武春/テレマン室内オーケストラ&合唱団の演奏で、

  • J.S.バッハ/ヨハネ受難曲

を聴く。教会音楽シリーズの第162回目。この団体はクラシカル(古)楽器も弾くが、今回はモダン楽器で。

諦念と悲しみに満ちた「マタイ受難曲」と比べ、この「ヨハネ」は劇的であり、大バッハの怒りや絶望、その感情の起伏が激しい。より「人間的」であると言えるかも知れない。2時間弱を要する長い曲だが、飽くことなく最後まで愉しめた。

音楽の清冽なシャワーを全身に浴び、なんだか浄化されたような、生れ変わった気分で帰途についた。

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映画「渇き」

評価:D

人体実験によってヴァンパイアになった牧師と人妻との禁断の情事を描く。2009年カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。公式サイトはこちら

韓国のトップスターであるソン・ガンホ主演、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督作。

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ドラキュラ伯爵には独自の美学がある。彼は処女の生血しか吸わない。それはある意味、セックスのメタファー(暗喩)である。現在までにあまた創られたドラキュラ映画はその伝統に則って来たし、他のジャンル、例えば萩尾望都の漫画「ポーの一族」や、宝塚歌劇「蒼いくちづけ」(小池修一郎 作)にもその美意識は受け継がれている。

しかし「渇き」のヴァンパイアは男女の見境なく血を吸う。輸血パックでも構わない。またそれとは別に、ヒロインとセックスもする。つまり彼にとって「血を吸う」という行為は、「食事を取る」ことと同価なのだ。何なんだ、コイツ!?こんなのは吸血鬼ではない、ただのゾンビだ。あほらし。

血なまぐさく悪趣味なところは、同監督の駄作「親切なクムジャさん」を彷彿とさせる。僕は「オールド・ボーイ」(「キネマ旬報」外国映画ベストテン第6位)に惚れ込んだわけだが、どうもあの傑作を凌ぐものを創る力は、この人には残されていないようだ。残念。

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2010年3月26日 (金)

笑福亭小つる/シカク試験の会(第3次)

繁昌亭へ。

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今年10月22日に六代目「枝鶴」(しかく)を襲名する予定の小つるさんの会。五代目にまつわる一連の騒動についてはこちらをご覧あれ。「松鶴」襲名問題に絡み、笑福亭一門がバラバラになる一因ともなった。このエピソードはNHK朝ドラ「ちりとてちん」でも引用されている(徒然亭草若の死→その息子・小草若の失踪→筆頭弟子の「草若」襲名辞退)。なお、初代・二代目・四代目「枝鶴」は後に「松鶴」を襲名している。

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2階席に客を入れず、1階席のみで6~7割の入り。

  • 笑福亭  喬介/寄合酒
  • 笑福亭小つる/天神山
  • 桂       春若/はてなの茶碗
  • 桂     よね吉/ふぐ鍋
  • 笑福亭小つる/禁酒関所

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前座の喬介くんは可愛い笑顔と、高い声で陽気な一席。

よね吉さんは、噺の中で旦さんが「あんた鍋はどないなや?」「あぁそれかいな、そらあのぉ、テツ(ふぐ)やがな」と言う時に、右手の指先でトトトンと床を叩く。これにより、主人の”ストレス反応”を表現しているのだ(ジェフリー・ディーヴァー著「ウォッチメイカー」「スリーピング・ドール」に登場するキャサリン・ダンス捜査官のキネシクス分析を参照)。相変わらず洗練され、鮮やかな高座だった。

はてなの茶碗」は「天狗裁き」同様、桂米朝さんが色々な文献に当たり、長老たちの話を聴いたりして復活させた噺(Re-creation)。なにしろ骨格がしっかりしていて内容が完璧だけに、誰が演じてもそれなりに面白いが、それは逆に、演者の工夫を入れるのが困難な(アレンジを拒絶する)演目と言えるのかも知れない。つまり噺家による違い・特徴がはっきり出にくい。そんなことを今回、感じながら聴いた。

天神山」は噺自体が笑福亭の芸風に合っていない気がした(米朝・文枝一門の方が相応しい)。一方、「禁酒関所」は小つるさんの酔いっぷりが絶品。可笑しい。これぞ笑福亭のお家芸だと、膝を打った。

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2010年3月25日 (木)

LIC東西狂言

大阪府羽曳野市「LICはびきの」へ。

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  • 和泉流 狂言  魚説法(うおぜっぽう)」(野村萬斎)
  • 大蔵流 狂言栗焼(くりやき)」(茂山千作)
  • 大蔵流 狂言  船渡聟(ふなわたしむこ)」(茂山千之丞・あきら)

今回狂言を鑑賞して、内容的には滑稽噺であり、落語に近いなと改めて感じた。例えば「魚説法」の面白さは古典落語「世帯念仏」とか「こんにゃく問答」に通じるものがある。説法か念仏か、はたまた問答かの違いに過ぎない。

狂言というのは舞台に正座したまま演じる狂言のこと。これも落語に近い。人間国宝である茂山千作さんは現在90歳。その足腰に不安があるため、考案された様式だそう。

今回一番印象深かったのは「船渡聟」。舟を漕ぐ時の船頭と、乗客(婿)の動きが観ていて愉しい。

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2010年3月24日 (水)

シャネル&ストラヴィンスキー

評価:B+

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いや~面白かった!音楽映画の傑作。製作国はフランスで、監督はオランダ生まれのヤン・クーネン。映画公式サイトはこちら

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ストラヴィンスキーが作曲したバレエ音楽「春の祭典」は1913年初演時のスキャンダルが余りにも有名である。僕は小学生の頃からその伝説的エピソードは知っていたが、それが今回初めて具体的な映像として描かれ、ワクワクした。

演奏中に立ち上がり叫び出す聴衆。「静かに聴け!」と応酬する人々。慌てた裏方が会場の明かりを点灯し、それに対し「照明を消せ!」という怒号。そんな騒動は我関せずとダンサーに指示を送り続ける振付のニジンスキー。会場に乱入する警官隊。想像を絶する大混乱に絶句した。

バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の興行主・ディアギレフが同性愛者でニジンスキーが恋人だったという事実はこの映画を通して初めて知った(後にニジンスキーは同団のバレリーナと結婚、これに激怒したディアギレフは二人を解雇する)。また、ストラヴィンスキーが「春の祭典」を何度も改訂していたことも今回初めて知った。

ストラヴィンスキーがシャネルの館に招かれてからの二人の不倫関係は大して興味がそそれられるものではないが、シャネルの洗練されたファッションは見ていて愉しい。彼女が恋をしている時は白い服を着て、そうでない時は黒に替わるという趣向は何だか可笑しかった。

本作で感心したのはシャネルらはフランス語を喋るが、ストラヴィンスキー家の人々やバレエ・リュスの連中はロシア語で会話する。それが実にリアルだった。つい先日観た映画「NINE」はイタリアが舞台なのに、出演者全員が英語で喋るので鼻白んだ。

急性骨髄性白血病で若くして亡くなった僕の親友・山本君は「春の祭典」が大好きだった。彼は「春の祭典」のCDをコレクションしていた。「一番好きな演奏は?」と僕が聴くと「シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団」という答えが即座に返ってきたことを今でも懐かしく想い出す。彼とこの映画について、酒でも飲みながらとことん語り合いたかった!そのことが返す返すも残念である。

クラシック音楽ファンは必見。

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2010年3月23日 (火)

東西三人会(第三十九回)

繁昌亭へ。

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この三人会は今年で十三年目だそう。

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  • 笑福亭遊喬/牛ほめ
  • 笑福亭三喬/首の仕替え
  • 古今亭志ん橋/野ざらし
  • 笑福亭松喬/おごろもち盗人
  • 柳家小里ん/山崎屋

志ん橋さんは途中、歌が沢山挟み込まれていて愉しかった。上方でも「野ざらし」を演じる噺家は何人かいるが、サゲまで聴いたのは初めて。

「おごろもち」とはモグラのことで、明治時代には「おごろもち女」という言葉もあったとか。松喬さんの高座はユーモアと愛嬌があって素晴らしかった!

小里んさんは(それが良いことか、そうでないかは置いておいて)語り口が師匠の小さん(故人)そっくり。時々言葉が詰まり、稽古不足なんじゃないかと想った。地味な人。

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2010年3月22日 (月)

ミュージカル映画「NINE」と冬季オリンピック

今年の冬季オリンピック、フィギュアスケート日本代表・高橋大輔選手はフリーの演技でイタリア映画「道」のテーマ曲”ジェルソミーナ”を使用し、話題となった。この「道」を監督したのがフェデリコ・フェリーニ、作曲がニーノ・ロータ。そして、そのフェリーニ&ロータの最高傑作と呼ばれるのが米アカデミー外国語映画賞および衣装デザイン賞を受賞した「8 1/2(はっか にぶんのいち)」(1963)である。

8 1/2」は英国映画協会(British Film Institute)が2002年に選定した映画史上のベスト10で評論家選出の第9位(1位は「市民ケーン」、5位に「東京物語」)、監督選出では第3位にランク・インしている(1位は「市民ケーン」、9位に「羅生門」「七人の侍」)→詳しくはこちら

物語の主人公はフェリーニをモデルにした映画監督グイド・コンティーニ。タイトルはこれがフェリーニにとって8 1/2本目の作品という意味である(共同監督作品、オムニバス映画は分数で計算)。

映画の終盤、グイドは言う。「人生はお祭りだ、一緒に過ごそう」……この台詞こそ作品の核であり、全てのフェリーニ映画を貫くテーマとなっている。そしてサーカス(=お祭り)が大好きだったフェリーニに寄り添うように、ロータは祝祭的で、どこか物寂しいサーカスの音楽を書いた。

で、これをブロードウェイ・ミュージカルにしたのが「ナイン」。1/2増えたのは歌の要素だという説がある。作詞・作曲はモーリー・イェストン。大沢たかお主演ミュージカル「ファントム」の作曲家でもある。僕はこの舞台「ナイン THE MUSICAL」をトニー賞でベスト・ リバイバル・ミュージカル賞に輝いたデヴィッド・ルヴォー演出版で観た(出演は別所哲也、大浦みずき、池田有希子、純名りさ ほか)。ちなみにロータの楽曲は一切使われていない。

そして今回、そのミュージカル版が映画になった。「映画」→「舞台ミュージカル」→「ミュージカル映画」という経緯を経た作品は他に「プロデューサーズ」「オペラ座の怪人」「ヘアスプレー」、そして日本未公開の「フェーム」などがある。そうそう、フェリーニの映画「カビリアの夜」もブロードウェイで「スイート・チャリティ」というミュージカルとなり、ボブ・フォッシー監督で映画化された。

NINE」は映画のためにケイト・ハドソンが歌う"Cinema Italiano"と、マリオン・コティヤールによる"Take It All"が新たに書き下ろされ、後者はアカデミー歌曲賞にノミネートされた。

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評価:B (公式サイトはこちら

ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ、ニコール・キッドマン、ソフィア・ローレンとオスカー受賞俳優が6人、さらにアカデミー助演女優賞にノミネートされたことのあるケイト・ハドソンも出演。もう、これ以上ないという豪華キャストである。

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映画の脚色を担当したのが「イングリッシュ・ペイシェント」でアカデミー監督賞を受賞したアンソニー・ミンゲラ(2008年没)。主人公がパパラッチに追いかけられたり、愛人が自殺未遂するエピソードなどはフェリーニの映画「甘い生活」(1960)からの引用と推察される。ちなみに”パパラッチ”という言葉は「甘い生活」に登場する報道カメラマンの名前”パパラッツォ”が由来である。

映画「NINE」は「8 1/2」とも、舞台ミュージカル版ともかなり印象が異なる。正直、ミンゲラの脚色が成功しているとは言いがたい。グイドの人物描写が薄っぺらで、これではただの女たらしにしか見えない。「夢の女」を演じるニコール・キッドマンが何故涙を流すのか、その台詞も意味不明。またミュージカル・シーンを全て登場人物の妄想(あるいは幻影)として封じ込める方法論は、ロブ・マーシャル監督「シカゴ」(アカデミー作品賞受賞)の二番煎じに過ぎない。

ただ、そのミュージカル・シーンはさすがロブ・マーシャル(振付も兼任)、華麗で目を瞠る。特にグイドの愛人を演じたペネロペ・クルスのダンスはセクシーで完全にノック・アウトされた。また娼婦サラギーナ役のファーギーが砂を撒きながら歌う場面はド迫力で圧巻だった。イタリア・ロケの映像が美しく、アカデミー賞にノミネートされた美術装置・衣装デザインも洗練されており、素晴らしい。

結局、物語とかフェリーニのオリジナルのことは忘れて(目を瞑って)細部を愉しむことが、本作の正しい鑑賞法なのかも知れない。

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2010年3月21日 (日)

フランク&フレンズ/musical”MITSUKO(ミツコ)〜愛は国境を越えて〜”

ブロードウェイの作曲家フランク・ワイルドホーンを讃えるコンサートを聴きに梅田芸術劇場へ。

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構成・演出は宝塚歌劇団が誇る鬼才、小池修一郎。元宝塚トップ・スター、安蘭けい主演ということで、水夏希、柚希礼音ら現役宝塚トップ男役から胡蝶蘭が届いていた。

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まずプログラム前半はmusical”MITSUKO(ミツコ)〜愛は国境を越えて〜”コンサート・バージョン。これは2005年日本・EU市民交流年を記念して、ウィーンで1日だけ上演された幻のミュージカル。「EUの父」と呼ばれ、1923年に汎ヨーロッパ主義を提唱したリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーと、その母クーデンホーフ=カレルギー光子(旧名:青山みつ)の数奇な人生を描く。

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キャストは光子役を安蘭けい、その夫ハインリッヒをマテ・カマラス(ウィーン版「エリザベート」のトート役)、そしてリヒャルトをルカス・ペルマン(ウィーン版「エリザベート」の皇太子ルドルフ役)が演じた。

オーケストラの前で衣装を身に着けた役者が歌う。日本語、英語、ドイツ語が入り乱れ、舞台中央に字幕スーパーが出る。”西と東”、”Ich Liebe Dich”、”愛は国境を越えて”(ルカスが日本語で熱唱)など美しいソロ、甘美なデュエットの数々に陶酔。また光子がドイツ語の男性・女性・中性名詞に悩む”勉強”はコミカルでユーモラスな楽曲で、実に愉快。

僕は今まで、ワイルドホーンの舞台作品を「ジキル&ハイド」、"NEVER SAY GOODBYE"、「スカーレット・ピンパーネル」(スカピン)など観てきたが、音楽はこの"MITSUKO"が最高傑作かも知れない。安蘭さんの歌唱力も見事で、マテに決して引けを取っていなかった。そして「音楽に国境はない」という真実を、心から実感した。

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プログラム後半はワイルドホーン・ソングブック。

まず「ジキル&ハイド」からマルシア鹿賀丈史で。鹿賀さんの"This Is The Moment"は久しぶりで、懐かしかった。

お次は、イケメンで日本の女性たちにも大人気のルカスが「ルドルフ」から”私という人間”をドイツ語で。すっくと立つ貴公子ぶり、さすが王子。そしてデュエット”それ以上の”(with 池谷京子)を披露。ロマンティックでいい曲だ。このミュージカルも是非一度、観てみたい(東京公演はあったが大阪は未上演)。

宝塚大劇場で日本初演されたブロードウェイ・ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」からは宝塚版オリジナル・キャストの安蘭けいが久々の男装で”炎の中へ”。勇壮でカッコいい。そしてマテが英語で”君はどこに”。

ここでフランク・ワイルドホーン本人が登場し、彼のピアノ伴奏で同じく「スカピン」より安蘭けいが宝塚版のために書かれた新曲”ひとかけらの勇気”を歌った。

そして田代万里生が来シーズンにブロードウェイで初演されるという「ボニー&クライド」(俺たちに明日はない)から"You Can Do Better Than Me"。JAZZYで味わい深い名曲。田代くんは東京藝術大学声楽家出身の声楽家(テノール)だけに、高い声はどこまでも伸び、聴衆を圧倒。

続いてマルシアが再び登場し「ジキル&ハイド」の”あんなひとが”、そして鹿賀丈史で「シラノ」の"Alone"。

さらにマテ安蘭で"NEVER SAY GOODBYE"(宝塚宙組で初演。読売演劇大賞優秀作品賞、月刊「ミュージカル」誌2006年ミュージカル・ベストテン第1位)からタイトル曲(日本語)など。そして最後は全員で同ミュージカルより"One Heart"が歌われ、感動のフィナーレとなった。

綺羅星の如き大スターたちの饗宴はもう、息を呑むような豪華さ。近年希に見る、贅沢で愉しいコンサートを全身で体感。正に至福の時であった。

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2010年3月20日 (土)

宝塚花組/ミュージカル「虞美人」 -新たなる伝説-

宝塚大劇場へ。

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ュージカル「虞美人」 -新たなる伝説- を観劇。

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台本・演出は木村信司(キムシン)。キムシン作で、宝塚星組が初演した「王家に捧ぐ歌」は2003年度の芸術祭演劇部門で優秀賞を受賞、さらに月刊「ミュージカル」誌の年間ベスト・ミュージカルで第1位に輝いた。

「虞美人」は元々、戯曲「項羽と劉邦」を原作に1951年に宝塚で初演された。それが今回、台本・振付・衣装・装置・音楽を一新。ただしオリジナル版の主題歌「赤いけしの花」(白井作詞、河崎一朗作曲)は残された。

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出演は真飛聖、壮一帆、桜乃彩音 ほか。

内容的には中々良い出来だったのではないだろうか。豪華な衣装や、音楽も悪くない。美しい群舞が特に印象的。少なくとも劇団四季のオリジナル作品より面白いし、エンターテイメント性が高い。キムシン作品がしばしば陥りがちなイデオロギー(歴史観)の声高な主張、押し付けは今回、影を潜めている。

ただ、主人公に魅力がないというか、共感・感情移入は余り出来なかった。全体の評価としては「王家に捧ぐ歌」をAとするなら、本作はB-くらいかな?少なくとも、一度は劇場に足を運ぶ価値のある作品であることは確かである。

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2010年3月19日 (金)

下野竜也/大フィルのブルックナー

下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会をザ・シンフォニーホールで聴く。

  • ベートーヴェン/劇音楽「アテネの廃墟」序曲
  • モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲 第3番
  • ブルックナー/交響曲 第1番(ウィーン版)

ヴァイオリン独奏はルノー・カプソン。表面的には美しく、フランス菓子のように甘くて口当たりが良いが、それだけという気がした。

88歳の現役指揮者で、かつてはヴァイオリニストとしてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターを務めていたゲルハルト・ボッセはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなど古典派の音楽を演奏するときの注意点として次のようなことを指摘する。

  • 大切なことはテンポ設定とアーティキュレーションであり、それによって曲の性格が決まる。
  • フルトヴェングラーワルタークナッパーツブッシュら20世紀の巨匠たちが指揮するベートーヴェンは、マーラーやブルックナーの音楽を踏まえ、19世紀末・後期ロマン派の観点から捉えた解釈であった。テンポもベートーヴェンが指定したメトロノーム記号と比べると遅すぎる(ボッセはフルトヴェングラーの指揮下で演奏した経験を持つ)。
  • 18世紀の考え方として、音が伸びるときには減衰しないといけない。「タター」という音を「タターァ」とべったり伸ばしてほしいと要求する指揮者がいるが、たまらなくなることがある。

プログラム前半のベートーヴェンモーツァルトを聴きながら感じたのは、指揮者もそしてソリストも、上記のことが分かっていないのではないかという気がした(時代遅れの演奏スタイル)。逆に、このことを十分理解し、実践している指揮者として大阪シンフォニカーの児玉宏、日本テレマン協会の延原武春、そして鈴木秀美飯森範親らを挙げておく。

というわけで前半は実に退屈で、全く時間の無駄であった。

しかしプログラム後半のブルックナーは打って変わり、さすが故・朝比奈隆の薫陶を受けた指揮者とオーケストラのコンビだけに、素晴らしいパフォーマンスであった。

第1,2楽章は滔々と流れる大河の如く、ゆったりとしたスケールの大きな音楽が展開される。ブルックナーらしい荘厳な響きも魅力的。そして前半の「静」に対し、第3,4楽章は精気に満ちた「動」の音楽に変貌する。速めのテンポで激しくうねり、パンチが効いて、聴き手に鮮烈なインパクトを与える名演であった。

第1,2楽章が朝比奈の伝統を受け継ぐものとするならば、第3,4楽章は下野さんの個性を十二分に打ち出した解釈と言えるだろう。

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2010年3月18日 (木)

今度はグラズノフ!児玉宏/大阪シンフォニカー 定期

大阪シンフォニカーは今年4月1日より、大阪交響楽団(Osaka Symphony Orchestra)に改称することが発表された。sinfoniker はそもそもドイツ語で、「交響楽団」という意味。die Wiener Sinfoniker = ウィーン交響楽団となる。だから「大阪シンフォニカー交響楽団」という名称は、同じ意味の単語を重ねており、そもそも変だったのだ。大阪交響楽団、シンプルでいい響きだ。

Kodama

さて、児玉宏(音楽監督・首席指揮者)/大阪シンフォニカーの定期演奏会を聴いた。大阪フィルハーモニー交響楽団の定期を翌日に控えた下野竜也さんと、大フィル事務局の方も聴きに来られていた。

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プログラム前半の2曲はいずれもバレエ音楽として書かれた。

  • ウォルトン/バレエ音楽「賢い乙女たち」
  • R.シュトラウス/クープランのクラヴサン曲による
    小管弦楽のためのディヴェルティメント
  • グラズノフ/交響曲 第5番

ウォルトンはバッハのカンタータやオルガン・コラールを編曲したもの。バッハの厳しさが失われることなく、対位法も明確に浮かび上がってくる巧みなオーケストレーションであった。音尻はスッと減衰し、歯切れがいい。

R.シュトラウスは弦が刈り込まれ1st.Vn-2nd.Vn-Va-Vc-Cbが6-6-4-4-2という小編成。それに管・打楽器、チェレスタ、クラヴサンが加わる。機知に富みユーモア溢れる演奏。そこに仄かなロマンの芳香が香る。

グラズノフの第1楽章の序奏はユニゾンで始まり、まるでショスタコーヴィチみたいだなと想った。そしてはた、と気が付いた。グラズノフはペテルブルク音楽院の院長としてショスタコを教えているのである。また第1主題はワーグナーの楽劇「ジークフリート」のライトモティーフ(示導動機)を彷彿とさせる(グラズノフはバイロイト音楽祭で「パルジファル」上演を観ている)。各々の音楽は繋がり、一つの大きな流れの中にある、と実感された。

第2楽章の才気煥発なスケルツォはあたかもメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」の如く、第3楽章の叙情溢れる歌はチャイコフスキー的とも言えるだろう。そして第4楽章はロシア民謡やコサック・ダンスを彷彿とさせる民族的パワーが炸裂する!躍動するリズム。児玉さんのタクトから紡ぎ出される音楽は生き生きと弾み、エネルギッシュに疾走する。圧巻だった。

かつてリヒテルのピアノ、カルロス・クライバー/バイエルン国立管弦楽団の演奏でドヴォルザーク/ピアノ協奏曲のLPレコードが日本で発売された折、「レコード芸術」誌において「演奏によって曲が輝く」と評された。これを僕が読んだのは小学生の頃だったが、今でもその言葉は鮮烈に記憶に刻み込まれている。

児玉宏/大阪シンフォニカーの演奏を聴く時、僕が何時も想い出すのはこの「演奏によって曲が輝く」という一節である。《魔術師》児玉宏、恐るべし。

同じプログラムで3月20日(土)にすみだトリフォニーホールで東京公演も行われる。また今回の演奏はローム ミュージック ファンデーションによりライヴ・レコーディングされ、CDが発売される予定である。

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2010年3月16日 (火)

月亭遊方/とくとくレイトショー

なんばの徳家・徳徳亭へ。

21時開演、月亭遊方さんの会(第一回目)。客の入りは12人くらい。

同じ場所で19時から桂米左さんの落語会があり、しかも「宿屋仇」「百年目」という大ネタ2席だったので、時間が押して予定時刻を過ぎての開始となった。

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  • ちりとてちん
  • オオサカ・シネマロケンロール(遊方 作)

地方に行き、講演の後で「先生!」などと呼ばれながら、お酒を勧められたときの爆笑エピソードなどをマクラに(遊方さんは下戸で、甘いものが好きなのだそう)。「ちりとてちん」は七転八倒、汗をかきながらの大熱演。聴き応え、見応えあり。

オオサカ・シネマロケンロール」を聴くのはこれで3回目。しかし、映画のロケを見学する野次馬が《冷凍のサバ》を繰り返し叫ぶくすぐり(ギャグ)は以前なかった。どんどん工夫が加えられ、さらに面白くなっている。さすが笑いに貪欲な遊方さんだ。

よく見かける常連客が多く、遊方さんも最初はやりにくそうだったが、次第にノッてきた。終わってみれば22時10分。あっという間の濃縮された1時間。このご機嫌な会は今後も、毎月15日に徳徳亭で開催される予定。また古典+新作の組み合わせで聴きたいな。

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2010年3月15日 (月)

映画「プリンセスと魔法のキス」/そして、ディズニー・アニメ現代史

評価:B

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今年のアカデミー賞では、長編アニメーション部門と、歌曲賞に2曲ノミネートされた。監督は「リトル・マーメイド」「アラジン」のジョン・マスカーとロン・クレメンツのコンビ。映画公式サイトはこちら。なお、歌曲賞にノミネートされた"Almost There"の視聴はこちら、"Down in New Orleans"はこちら

JAZZのメッカ=ニューオーリンズを舞台に、ディズニー・アニメ初となるアフリカ系アメリカ人をヒロインに据えた。

ここ10年間のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの混乱については、下記記事に詳しく語った。

要約すれば、アニメーション製作部門最高責任者であったジェフリー・カッツェンバーグがマイケル・アイズナー会長と仲たがいして、1994年にスタジオを飛び出し、ドリームワークスを設立したことが事の発端である。同時期にピクサー・アニメーション・スタジオの台頭でCGアニメーションが世間を席巻し、アイズナーがセル画アニメーションを捨てると宣言、優秀なアニメーターを大量解雇するという暴挙に出てディズニーの力は急速に衰退した。

その窮状を救ったのが、古巣ディズニーに帰ってきたジョン・ラセター(ピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、「トイ・ストーリー」「カーズ」の監督でもある)なのだから、実に皮肉な話である(現在はディズニーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼任)。なお、アイズナーは2004年3月の株主総会において業績悪化などを理由に不信任投票が43%で可決され、退陣に追い込まれた。

宮崎駿監督の大ファンであるラセターはディズニーに乗り込むと直ちにセル画アニメーション復活を決断。漸くこの「プリンセスと魔法のキス」の登場となるのである。

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TOHOシネマズなんばで字幕版を鑑賞。

映画冒頭、ミッキー・マウスがパラパラ漫画風に登場し、それが短編アニメ「蒸気船ウィリー」(1928年、白黒。ミッキーのデビュー作)の動画となる。ここに製作者たちの「初心忘るべからず」という並々ならぬ決意表明が感じられ、感動した。

「美女と野獣」のベルを彷彿とさせる、前向きな生き方をするヒロイン像、愛らしい動物たち、そして音楽に満ちた正真正銘のミュージカル・アニメーション(ランディ・ニューマンが作曲したディキシーランド・ジャズは圧巻)。これぞディズニー・ブランドの真骨頂!なんという心地よさだろう。改めて「絵が動くことの愉しさ」を満喫。原点回帰(Back To The Basics)、手書きアニメ復活のセレブレーションに相応しい作品であった。

Miya

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2010年3月13日 (土)

フローズン・リバー

評価:B

Frozenriver

2008年サンダス映画祭でグランプリに輝き、審査委員長のクエンティン・タランティーノから「今年観た中で最高にエキサイティング!息を呑むほど素晴らしい」と激賞された映画。アカデミー賞では主演女優賞(メリッサ・レオ)とオリジナル脚本賞にノミネート。公式サイトはこちら

主人公の2人は「ギリギリの女たち」である。貧乏のどん底で、ピストルをぶっ放して夫には逃げられて……。そして不法移民の密入国という犯罪に手を染めることになる。

どう考えたって2人の前途に明るい未来はない。ひたすら堕ちて、結末は悲劇以外にありえないのではないか?と不安を胸に抱きながら、ヒリヒリするような、背筋が凍りつく想いで映画を観た。

しかし、そうはならなかった。勿論、ハッピー・エンドなんかではない。しかし雪解けの来ない冬がないように、遠く微かに希望の光が見える、そんな終わり方だった。

大好きとは言えないかも知れない。でも、いい映画だった。

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五代目 桂文枝一門会@繁昌亭(3/12)

五代目 桂文枝の命日に繁昌亭で落語会。

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直弟子20人のうち、15人が集結した。

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くじ引きで5人の演者とその順番、1人のお茶子が選ばれた。お茶子に当たったのが20番目(最後)の弟子、阿か枝さん。女装してお色気たっぷりに。演者は必ず、師匠の持ちネタをするというのがルールであった。

  • 文太/小倉船
  • 文華/はてなの茶碗
  • かい枝/お玉牛
  • きん枝/孝行糖
  • 文喬/天神山

名人・文太さんが前座とは、なんと贅沢な!

文華さんは”油屋さん”の啖呵の切り方が、如何にも下賤な雰囲気が醸し出されており、さすがだなと想った。

かい枝さんは濃厚な一席。ちょっと、くどいというか、too much感も。

文枝一門会にはこれで3年連続通ったことになるが、くじ引きで演者が決まるという今回の企画は、正直いまいちだった(なんだか消化不良)。僕は20人の直弟子が2日間で全員演じた、一昨年の落語会が一番愉しかったな。

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2010年3月12日 (金)

高田泰治 フォルテピアノ・リサイタル/C.P.E.とクリスティアン・バッハからモーツァルトへ

大阪倶楽部へ。

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現在も定期的にドイツに赴き、クリスティーネ・ショルンスハイムの許で研鑽を積む、高田泰治さんのコンサート。C.ショルンスハイムはフォルテピアノの世界的第一人者、アンドレアス・シュタイアーの弟子。つまり高田さんはシュタイアーの孫弟子ということになる。

さて、今回は大バッハの次男エマヌエル(C.P.E.)と末息子クリスティアンを経て、モーツァルトに至るという音楽史に沿ったプログラムとなっている。

  • C.P.E.バッハ/ソナタ ホ長調
  • C.P.E.バッハ/幻想曲 ハ長調
  • クリスティアン・バッハ/ソナタ 変ホ長調
  • モーツァルト/デュポールのメヌエットによる九つの変奏曲
  • モーツァルト/幻想曲 ハ短調 K.475
  • モーツァルト/ソナタ ハ短調 K.457

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余り知られていない事実だが、モーツァルトはクリスティアン・バッハから多大な影響を受けている。クリスティアンの音楽を聴けば誰しも、「モーツァルトそっくりだ!」と吃驚するであろう(一方、ハイドンやベートーヴェンはC.P.E.からの流れを受け継いでいる)。8歳のモーツァルトは父親に連れられイギリスを訪れ、そこで「ロンドンのバッハ」と呼ばれたクリスティアンと出会っている。彼が初めての交響曲に着手するのも、クリスティアンの管弦楽曲に魅了されたからだと言われている。

最後の2曲はプログラムノートによると、両者を組み合わせた形で出版され、「フォルテピアノのための幻想曲とソナタ」というタイトルで一連の作品にされているそうだ。どちらもハ短調という特異な調性であり、これを連続して聴けて良かった。

フォルテピアノという楽器は、全ての音が均一に響くモダン・ピアノと異なり、音域によって音質が異なり、膝レバー使用によっても、がらっと音が変化する。そこが最大の魅力である(「膝レバー」の詳しい解説、写真はこちら!)。高田さんの冷静沈着で正確なタッチも安心して聴くことが出来、大変豊かな時間を過ごすことが出来た。

なお、この大阪倶楽部で収録された、高田さんと延原武春/テレマン室内管弦楽団によるモーツァルトの演奏はNHK BS-hiで3月17日、24日(水)に放送される予定である→詳しくはこちら

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桂吉坊、吉弥、文三/瓦林寄席(3/9)

兵庫県の西宮北口から歩いて15分、極楽寺へ。「瓦林(かわらばやし)寄席」、桂吉坊さんの会。途中、道に迷って焦る。地図を眺め、眺め、ようやく到着。

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演目は、

  • 桂  弥太郎/東の旅 野辺
  • 笑福亭喬介/寄合酒
  • 桂      吉坊/質屋芝居
  • 桂      吉弥/短命
  • 桂      文三/井戸の茶碗

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弥太郎さんは吉弥さんの一番弟子。

喬介さんは声が高くhigh tensionで、明るい高座。

吉坊さんは吉朝一門の十八番、芝居噺を掛けた。所作が柔らかく、美しい。「塀外・喧嘩場」における下座との掛け合いは、袖から吉弥さんの声。なんて贅沢な趣向だろう。

吉弥さんは大師匠の桂米朝さんが人間国宝に認定された時、米朝宅に内弟子修行中で、お祝いで胡蝶蘭が60鉢送られてきたそう。次から次へと鯛の浜焼きも届き、毎日食べる羽目になって、3日目には飽き飽きした話などをマクラで。またバンクーバー・オリンピックでの浅田真央ちゃんの演技(振付)が彼女の可愛らしいキャラクターに合っておらず、使用された楽曲「鐘」(ラフマニノフ作曲)については、「何ですか、あの辛気臭い曲は」とバッサリ。これには僕も全く同感で、腹を抱えて笑った。

ネタに入る前「美人薄命と申しますが、見渡すところ、今日お越しの皆様は長命の相がある方ばかりのようで」と客をいじると、「それはちょっと言い過ぎや」と会場のおばちゃんから突っ込みが入り、吉弥さんもタジタジに。大爆笑となった。

井戸の茶碗」は古今亭志ん朝が得意とした、(多分)江戸落語。主人公の紙屑屋以外は武士ばかり登場する。とにかく登場人物全員の心根が清々しく、宮崎駿監督《ルパン三世カリオストロの城》の名台詞じゃないけれど、「なんと気持ちのいい連中だろう」と感じた。文三さんのニンに合った、見事な高座であった。なお、文三さんの「井戸の茶碗」はDVD「よしもと上方落語をよろしく!!」にも収録されているが、受ける印象は全然違った。やはり落語は生ものであり、高座と客席のほのぼのとした交流、その空気感・化学反応(chemistry)こそが大切なのだと想う。

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2010年3月11日 (木)

できちゃったらくご!(3/8)

動楽亭へ。新作ネタおろしの会。第50回記念(茶臼山舞台→繁昌亭レイト→動楽亭)。50人くらい入り、盛況。

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  • 桂      三金/日米相撲場風景
  • 桂   あやめ/大奥出世物語(仮題)半ば
  • 笑福亭たま/美女と野獣
  • 笑福亭福笑/素人(しろうと)板場
  • 旭堂    南湖/透視メガネ(エロ講談)
  • 月亭    遊方/ルーキーズ・スリル
  • 桂       三風/ジェネレーション・エレジー

三金さんは、「三遊亭円丈一門VS.桂三枝一門」落語会で三題噺を披露。その時のお題が「朝青龍」「JAL」「米軍基地」だったそう。「”JAL”は”じゃるそば”とくだらないので省き、その時のネタをします」と。即興で作ったものとはいえ、中々まとまっていた。ただ時事ネタなので、作品生命は短いかも。

あやめさんは「ルンルン大奥絵巻」の姉妹篇。面白い!もっと続きが聴きたかった。

最近絶好調というたまさんの新作の出来も良かった。某劇団の某演出家が主人公。ミュージカル「美女と野獣」の冒頭に登場する老婆はその後どうなったのか気になるという意見も、考えてみればその通りだなと共感。「オペラ座の怪人」が出てきたり、シャンデリアが落ちたりと実に愉しい。

ゲストの福笑さんは、相変わらずエキセントリックなやり取りに爆笑。得意の駄洒落連発あり。還暦を過ぎて、益々「過剰な人」だ。

南湖さんは間もなく、お遍路の旅に出発されるそう。四国では辻講釈もしてみたいとか。また土産話が愉しみだ。「談志最後の落語論」に刺激を受けたと、エロ講談を。

遊方さんはスリ見習いの噺、三風さんは古典落語「寝床」を下敷きに、上司の熱意(ハッスル!)が部下に伝わらない悲哀を描いた。

全員初演ながら全体としてレベルが高く、さすがだなと感心することしきり。

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2010年3月10日 (水)

文太の会@高津の富亭(3/7)

日曜日、落語「崇徳院」の舞台となった高津神社へ。

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  • 桂   文太/厩火事
  • 桂   文太/崇徳院
  • 林家染左/隣の桜(別名「鼻ねじ」)
  • 桂  文太/鰻の幇間(贋作)

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鰻の幇間(たいこ)」は主に江戸の噺家が演るネタ。太鼓持ち(男芸者)の哀感が漂う。決して後味の良い噺ではないが、文太さんはあくまで飄々と、軽やかに演じられた。人間の業を感じさせる、味わい深い一席であった。名人芸を堪能。

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仲道郁代/ショパン 鍵盤のミステリー 第2回「鍵盤の白と黒」

兵庫県立芸術文化センターへ。

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日本を代表するピアニスト、仲道郁代さんのコンサート。2001席のキャパを誇る大ホールは満席。

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オール・ショパン・プログラムで、曲目は、

  • ポロネーズ第3番「軍隊」
  • バラード第2番
  • 24のプレリュード(前奏曲)より
    第1、2、3、4、7、15「雨だれ」、24番
  • ポロネーズ第5番
  • 2つのノクターンより 第11番
  • バラード第3番
  • ポロネーズ第6番「英雄」(アンコール)

途中、仲道さんのお話、手紙の朗読、クイズコーナー、スライドなどを交え、愉しく進行した。

その中で特に興味を惹かれたのは、次のエピソードであった。

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ドラクロアが描いた有名なショパンの肖像画である。今はルーブル美術館に保管されている。しかしこれは元々、さらに大きな作品の一部を切り取ったものであった。本来の作品は下のような構図であったという。

Chopin

ショパンの演奏に耳を傾けているのは、当時の恋人ジョルジュ・サンド。そして切り離された左側、サンドの絵は現在デンマーク・コペンハーゲン郊外のオードロップゴー美術館にあるそうだ。現実の二人も、やがて破局を迎えることになる。

仲道さんのピアニズムの特徴は「洗練された、温かい客観性」と言うことが出来るだろう。多くのピアニストたちがショパンの音楽を弾くときに陥りがちな、甘ったるい感傷、「溜め」た表現、思い入れ過多な解釈から一線を画し、冷静な目で楽譜に書かれていることだけを抽出し、聴衆に提供するのである。しかし決して機械的な演奏ではなく、虚飾を排した青年ショパンの素顔がそこから立ち上がってくるのだ。

全4回シリーズであと2回残されている。必聴。

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2010年3月 9日 (火)

オスカー・ナイト/宴のあと 2010

第82回アカデミー賞授賞式が終わった。

僕の予想は18部門的中だった。「ハート・ロッカー」が6部門、「アバター」が3部門受賞という数も正鵠を射ていた。

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さて、上の写真はミシュランのロゴ=ビバンダム(ミシュランマン)である。これは今回、短編アニメーション部門を制した"Logorama"(ロゴラマ)に登場する。ミシュランマンが警察で、逃走犯のドナルド・マクドナルドを追いかけるといった具合。

今年の授賞式で印象的だったのは、監督賞のプレゼンターにバーブラ・ストライザンドが登場したこと。彼女には何本も監督作品があり、特に製作・監督・脚本・主演を兼任した「愛のイエントル」(1983)はゴールデン・グローブ賞で監督賞を受賞したにもかかわらず、アカデミー賞にはノミネートすらされなかったので、当時、物議を醸した。

だから授賞式開場に居合わせた映画人たちは、バーブラが登場した瞬間、キャスリン・ビグロー(「ハート・ロッカー」)の勝利を確信した筈である。そしてバーブラは受賞者の書かれた封筒を開封し、呟いた。“Well,the time has come."(「ようやく、この時が来たのね」)正に歴史的瞬間、これぞ記憶に残る名台詞と言えるだろう。

それから今年の特徴として、プレゼンター全員が"And the winner is..."と言っていたことが挙げられる。賞というのは勝ち負けではないので"the winner"という表現は相応しくないとされ、近年は"And the Oscar goes to..."と言うのが普通だった。それを従来に戻したことに、プロデューサーの深遠な意図が感じられる。つまり、今年は「女が男に勝利した年」という印象を視聴者に与えたかったということなのだろう。

また、「プレシャス」で助演女優賞を受賞したモニークが、ハティ・マクダニエルについて言及していたのが心に残った。ハティは映画「風と共に去りぬ」(1939)のマミー役でアカデミー助演女優賞に輝き、これが黒人俳優として初の受賞となった。つまりハリウッドは、人種問題に関しては比較的早い段階から寛容だったのである。しかしジェンダー(性)については、それから70年も掛かってしまった。思えば遠くに来たもんだ。

「しあわせの隠れ場所」で主演女優賞を受賞したサンドラ・ブロックは、オスカーの前日にはゴールデン・ラズベリー(ラジー)賞の最低主演女優賞(こちらの対象となった作品は"All About Steve")も同時受賞した。サンドラはラジー賞の授賞式にも出席し、トロフィーを受け取った(最低の映画を選ぶ祭典なので、本人が現われることは滅多にない。過去に登場したことで有名なのは「ショーガール」のポール・バーホーベン監督や「キャット・ウーマン」のハル・ベリーなど)。サンドラは「私のキャリアを台無しにしてくれてありがとう」とスピーチし、喝采を浴びたとか。洒落の分かる、いい人だ。今までは余り好きな女優ではなかったけれど、見直した。

ただ今回のアカデミー賞授賞式、司会のスティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンが些か地味な印象を受けた。去年は司会のヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイらが、歌って踊ったりしてくれ、華やかでまるで夢のようだったのになぁ……。

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2010年3月 8日 (月)

ハート・ロッカー

評価:A

日本人が邦題の字面だけ見ると、「君のハート(心)にロックオン!」とか「心に滲みるロック・ミュージック」みたいなことを連想するかもしれないが、原題はheartではなくhurt、アメリカ兵の俗語でhurt=損傷(被害)をlocker=閉じ込めるもの、つまり「棺桶」を意味する言葉だそうである。

イラク・バグダッドに駐留するアメリカ軍・危険物処理班を描く映画。本作でアカデミー監督賞を受賞する(予定の)キャスリン・ビグローがメガホンを取った。

Thehurtlocker

映画公式サイトはこちら

映画冒頭、“War is a drug”(戦争は麻薬だ)というテロップが流れる(ジャーナリスト:クリス・ヘッジズの言葉)。これが本作の核を成すキーワードとなる。

爆弾処理という魔物に魅入られたジェームズ二等軍曹は、もうそこにしか生の実感を見出せない。それはまるで性交にも似た、エクスタシーを感じさせる行為である(そういえば、”エクスタシー”という通称を持つ合成麻薬もあった)。映画後半でアメリカに一時帰国した彼は、まるで廃人のようだ。

そういう意味において、これは”変態映画”と呼ぶことも出来るだろう。戦場という「男の世界」にエロティシズムを見出したところに、この女性監督の非凡な才能が感じられる。

生と死の狭間に立つ、戦場の張り詰めた緊迫感。誰が敵で、誰が一般市民なのか区別が付かない恐怖、閉塞感が凄い。じりじりと身を焦がされるようだ。

小気味よく、シャープな編集(モンタージュ)、ドキュメンタリー・タッチで、ザラザラした質感の映像も素晴らしい。

必見。

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2010年3月 7日 (日)

第1回 あしたの箱 おたのしみ会/月亭遊方 落語2席 Plus One

ギャラリー「あしたの箱」へ。月亭遊方さんの会。

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今回の企画は、昨年12月「糸川燿史写真展」を観に、遊方さんがこのギャラリーを訪ねたところ、その糸川さんが「ここで落語会開いたらええやん」と提案され、オーナーに「この人はロックな高座で、絶対面白いから」と強力に推薦してくれたそう。

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ぎゅうぎゅうの満席。演目は、

  • たとえばこんな誕生日(遊方 作)
  • 飯店エキサイティング(遊方 作)
  • おまけのじかん

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おまけのじかん」はオーナーからワクワクするようなことをしたいという提案で実現。遊方さんへの質問コーナー、そして福引きあり。

古典落語に対する姿勢について問われた遊方さんは、「古典はコピーするのではなくカヴァーするという考え方でやっています」

もし落語家にならなかったら何をしていましたか?という質問には、「音楽関係の仕事に就くのが高校の頃からの夢で、東京の大学を選びました。あ、あと”道楽息子”もええですね!僕の知り合いで48歳になるまで全然仕事をせずに遊び暮らしている人がいるんです。まあ、直ぐに飽きてしまうかも知れませんが」

場内大爆笑となったのが、「遊方さんは八方さんのお弟子さんですか?もしそうなら、八方さんは落語をされるのですか?」というものだった。また「遊方」という芸名の由来は、師匠の八方さんがラジオで公募したところ、このアイディアが葉書で届いたそう。「遊」の字は「三遊亭」など東京には多いが、上方の噺家にはないので、「それは、ええんちゃうか」ということで決まったとのこと。これについてウィキペディアには、

UFOのように客を遥かな笑いの世界に連れてゆくように、との願いが込められている。

と書かれているが、「全然ちゃいます。僕、ウィキのこの項を師匠と一緒に読んで、笑いましたもん」と。

お菓子や飲み物が無料というサービスも嬉しく、カジュアルで実に愉快な会だった。

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第82回アカデミー賞大予想!

いよいよ3月8日(月)は米アカデミー賞授賞式である。そこで、恒例となった受賞予想をしよう。

昨年は自己最高記録の20部門的中だった。しかし毎年このような幸運が続くわけではない。今年の目標は一応、15部門以上としておく。

作品賞:ハート・ロッカー
監督賞:キャスリン・ビグロー
    「
ハート・ロッカー
主演女優賞:サンドラ・ブロック
   「
しあわせの隠れ場所
主演男優賞:ジェフ・ブリッジス
   「
Crazy Heart 
助演女優賞:モニーク
   「プレシャス」

助演男優賞:クリストフ・ヴァルツ
   「イングロリアス・バスターズ
脚本賞:ハート・ロッカー
脚色賞:マイレージ、マイライフ
撮影賞:ハート・ロッカー
編集賞:「ハート・ロッカー
美術賞:「アバター」
衣装デザイン賞:「ヴィクトリア女王 世紀の愛」
メイクアップ賞:「スター・トレック」
作曲賞:カールじいさんの空飛ぶ家
歌曲賞:「Crazy Heart 」から
   “The Weary Kind

録音賞(Sound Mixing):ハート・ロッカー」 
音響編集賞(Sound Editing):「アバター 
視覚効果賞:「アバター」
外国語映画賞:「瞳の奥の秘密(アルゼンチン)
長編アニメーション映画賞:「カールじいさんの空飛ぶ家」
短編アニメーション賞:「ウォレスとグルミット/ベーカリー街の悪夢
長編ドキュメンタリー賞:"The Cove"
短編実写賞:"The Door"
短編ドキュメンタリー部門に関しては全く分からないので、棄権する。

監督賞は120%、キャスリン・ビグローで間違いなし。他はあり得ない。その理由は2月2日(ノミネート発表前日)の記事で既に考察した。

授賞式翌日の新聞には「アカデミー賞史上初!女性監督受賞」の文字が躍るであろう。

ただし、「ハート・ロッカー」のプロデューサーの1人がアカデミー会員に向け、メールで規定違反行為(「アバター」に対するネガティブ・キャンペーン)をしたということもあり(彼は授賞式に出席禁止となった)、作品賞が「アバター」という可能性も、まだまだ捨て切れない。こればかりは蓋を開けてみないと分からない。

他の主要部門に大きな波乱はないと考えるが、もし大どんでん返しがあるとすれば、主演女優賞のメリル・ストリープくらいかな?これは昨年、彼女がとった勇気ある行動と関係がある。

今年一番期待しているのが、マイケル・ジアッチーノ(「カールじいさんの空飛ぶ家」)の作曲賞受賞。僕はこの人のJAZZYな曲調が、同じピクサーの「Mr.インクレディブル」の頃から大好きだった。2009年は「スター・トレック」の音楽も最高だったし、GO!GO!マイケル。

最終的には「ハート・ロッカー」が6部門前後で最多受賞、続く「アバター」が3-4部門程度と予想する。

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2010年3月 6日 (土)

ボッセのハイドンは音楽の世界遺産だ!/神戸市室内合奏団 定期

3月5日(金)、神戸文化ホールへ。

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ゲルハルト・ボッセ/神戸市室内合奏団の定期演奏会を聴く。

ボッセは御年88歳。それでも矍鑠(かくしゃく)とした指揮ぶりである。1955年から定年までライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターを務め、現在は指揮者として主に日本で活躍し、2000年から大阪府高槻市に在住。

今回の曲目は、

  • J.S.バッハ/ブランデンブルク協奏曲 第4番
  • ハイドン/交響曲 第49番「ラ・パッショーネ」
  • ベートーヴェン/交響曲 第2番

なお、ヴァイオリン独奏:吉村知子、ブロックフレーテ(リコーダー)独奏:太田光子、宇治川朝政 であった。

同じ内容で、3月7日(日)に紀尾井ホールにおいて東京公演も予定されている。

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ボッセが嘗て所属していたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、大バッハがカントル(音楽監督)を務めていた聖トーマス教会で毎週末のミサ演奏を、19世紀からしているオーケストラである。だからブランデンブルク協奏曲は自家薬籠中のもの。

比較的ゆったりとしたテンポで始まり、歯切れがよい。「18世紀以前の考え方として、音が伸びるときには減衰しないといけない」というボッセの信念が、楽員一人一人に徹底されていることが窺える。また、ブロックフレーテの音色が爽やか。瑞々しい演奏だった。

基本的にボッセのハイドンに対する姿勢は、以前僕が書いた記事と同様のことが言える。

全楽章がヘ短調という暗い調性の「ラ・パッショーネ」(受難)は力強く、教会音楽的な厳しさの中に、温もりも感じられる。嘗てのアーノンクールがそうだったような、「攻撃的な演奏」はそこにない。緊迫した哀しみ。ピンと張った糸は終始切れることはない。

モダン楽器を使用し、ピリオド奏法ではなく、バロック・ティンパニも用いない。しかし、紛れもなく疾風怒濤(Sturm und Drang)の雰囲気が醸し出され、ハイドン固有の響きがする。これは凄いことである。今、日本でハイドンのシンフォニーを聴くなら、鈴木秀美(オリジナル楽器)かボッセに止めをさす。これに異論を唱える人は恐らく、誰もいないであろう。

プログラム後半のベートーヴェンは気迫に満ち、若々しい。揺るぎない推進力があり、充実した響きに満ちている。こんなに「気高い」ベートーヴェンは滅多にお目にかかれるものではない。

ボッセという桁外れの才能を持つ指揮者が日本にいる。しかも関西で演奏してくれることの悦びを、噛み締めた一夜であった。

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2010年3月 5日 (金)

しあわせの隠れ場所

評価:C

サンドラ・ブロックがアカデミー主演女優賞を獲る(予定の)映画。公式サイトはこちら。アカデミー賞では作品賞にもノミネートされている。なお、話題の映画「ハート・ロッカー」については授賞式当日、3月8日(月)に僕のレビューをアップするつもり。

The_blind_side

予備知識なしに鑑賞。主人公はホームレス同様の生活を送っている黒人青年。サンドラ・ブロックとその家族がひょんなことから彼の面倒をみることになるのだが、この白人親子4人が善人ばかりで、ひねくれものの僕は「胡散臭い連中だなぁ(赤の他人を自宅に住まわせることに、心の葛藤が何もないのだろうか?)」と斜めに観ていた。ところが!映画の最後に、本物の彼らの写真や映像が登場したので、ひっくり返った。なんと、これは実話だったのである。アメリカン・フットボールのプロ選手マイケル・オーアの半生を綴ったノン・フィクションが原作だそうだ。ぐうの音も出ない。恐れ入りました。

でも映画の出来としては上質とは想わない。これが作品賞の10本に入るなら、ノミネートされていない「インビクタス/負けざる者たち」や、「スター・トレック」「(500)日のサマー」の方がよっぽど優れているのに……。

本作最大の収穫はサンドラ・ブロックの娘を演じたリリー・コリンズがめっちゃ可愛かったこと→写真はこちら

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2010年3月 3日 (水)

らくご道(3/2)〜笑福亭生喬と桂こごろうの落語会〜

ワッハ上方4F、「上方亭」へ。

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  • 笑福亭生喬/ごあいさつ
  • 桂こごろう/植木屋娘
  • 笑福亭生喬/尿瓶の花活
  • こごろう・生喬/対談「夕焼け日記」

生喬さんは開口一番、宝塚歌劇を最近観に行くようになったという話をされた。林家花丸さんが昨年、落語を題材にした雪組バウホール公演「雪景色」の監修をされ、それいらいハマってしまったとか。花丸さんに誘われ、夫婦で大劇場公演「ソルフェリーノの夜明け」も観劇されたそう。

しびんの花活け」は珍しいネタ。上方落語で武士が主人公になる話は、極めて稀(江戸落語に多い)。生喬さんは先代の桂歌之助(米朝の直弟子)に稽古をつけてもらったそう。現在、米朝一門でこのネタを演る人は殆どなく、文我さんくらいだとか。

また生喬さんは高座の最後に「なすかぼ」を踊られた。これは茄子と南瓜が喧嘩して、その仲裁に夕顔が入るという、けったいな歌詞。

こごろうさんは南光さんのお弟子さん(1991年入門)。だから桂枝雀('99年没)の孫弟子になる。間の取り方、緩急の使い分けなど枝雀さんを彷彿とさせる高座だった。後の対談によると、枝雀さんの「植木屋娘」を聴き、独学で稽古されたとのこと。また、その「夕焼け日記」では、以前、当ブログでも取り上げた「植木屋娘」と「崇徳院」におけるサゲの問題が話題となった。

こごろうさんは、枝雀DVD版の「サゲない終わり方」("And They Lived Happily Ever After"という、ファンタジーへの転化)ではなく、「接ぎ木も根分けも、うちの秘伝でおますがな」という米朝さんが作ったサゲを使われた。これはこごろうさんが考え抜いた上での選択なのかも知れないし、もしかしたら稽古した枝雀さんの音源が、米朝さんのサゲを使っていた頃のものなのかも知れないなと想った(例えば有名な「代書」でも、「ポンで~す!」が登場するのは後年のことで、枝雀さんはある時期からサゲを変更されている)。

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2010年3月 2日 (火)

映画「パレード」

評価:B

なんばパークスシネマで鑑賞。

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ベルリン国際映画祭において国際批評家連盟賞を受賞。公式サイトはこちら

原作は第15回山本周五郎賞を受賞した吉田修一の小説。脚本・監督は「世界の中心で、愛をさけぶ」や、キネマ旬報ベストワンに輝いた「GO」の行定勲。

藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり、小出恵介、林遣都らがそれぞれ良い持ち味を出し、その演技が織り成す綾がお見事。全米映画俳優組合賞(Screen Actors Guild Awards)には「アンサンブル演技賞」というカテゴリーがあるが(今回は「イングロリアス・バスターズ」が受賞)、もし日本にあれば、是非彼らにあげたい。

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青春群像という意味では、同じ行定監督の「きょうのできごと」(妻夫木聡、田中麗奈 主演)の系譜に連なる作品と言えるかも知れない。

都内のマンションで共同生活を送る若者たちの日々をカメラが冷徹な眼差しで見つめながら、現代人が持つ心の闇、不安・焦燥感を描く。そしてそのもろもろの感情が映画冒頭のヘリコプターが羽ばたく音、あるいはどこからともなく聴こえてくる工事現場の音などに象徴される。

universe(ひとつの宇宙)ではなくmultiverse(多元宇宙)。一緒に住んでいても、他人の心は計り知れない。その不可解さ、不気味さが本作の核心部分である。

アカデミー作品賞を受賞したミュージカル映画「シカゴ」(ロブ・マーシャル監督)は大変な傑作だと僕は想う。しかし世の中には、この映画の倫理観を絶対に認められないという人々が少なからずいる。彼らの意見を色々と聞いてみると、「犯罪者が罰せられない結末が許せない」ということに集約出来るだろう。つまり勧善懲悪の物語になっていないことが問題だというのだ。

そういう《健全な精神を持つ》方々にとって、この「パレード」は無縁の存在であり、観たら不快になるだけであろう。連続暴行犯は捕まらないし、もやもやとした不安定な終わり方をする。実にamoral=反道徳的な映画である。しかし、そこがこの作品最大の魅力なのである。

全ての心が病んだ人々に、自信を持ってお勧めする。

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2010年3月 1日 (月)

get's 待っツ 動楽亭(2/28)

動楽亭へ。月末、19時開演の落語会。

出演者の名前に桂吉弥とあったので来たのだが、受付を済ませ入場した後、「今日、吉弥は出演しません」と。チラシに「出演者が変更となる場合があります」と断り書きはあるものの、そりゃないぜ!>米朝事務所。まあ折角、労力と電車代を払っているのでそのまま聴くことに。客の入りは50人程度。

ちなみにこの日、吉弥さんは14時開演の福岡県・小郡市文化会館における落語会に出演されていたようだ。

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  • 桂ひろば/道具屋
  • 桂佐ん吉/いらち俥
  • 桂紅雀/花色木綿
  • 出演者全員/うだうだトーク(仲入り中)
  • 桂吉の丞/千早ふる
  • 桂佐ん吉/花筏

ひろばさんは小春團治さんに付いて、ニューヨーク・国連での落語会のお手伝い(太鼓)をされたことをマクラに。

佐ん吉さんの「いらち俥」は「反省してま~す」と、オリンピック・バージョンで。

吉の丞さんは落語の入りを「米揚げ笊」と間違えて、やり直すことに。

続く佐ん吉さんは、「(土俵)入りのところも間違えんと…」と、吉の丞さんをからかう場面も。しかし、佐ん吉さんのような若手(2001年入門)にとって、「花筏」のようなトリネタは、まだまだ荷が重いかな。

今回、一番笑ったのが紅雀さん。歯切れがよく、軽妙。さすが故・桂枝雀のお弟子さんだ。

ただ、若手だけで何度も聴いたネタばかりというのは、少々キツイなぁと想った。創作落語に取り組むとか、珍しいネタを発掘してくるとか、三題噺や大喜利をするとか、もっと聴衆を飽きさせない「何か(サムシング)」が欲しい気がした。

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