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2010年2月 4日 (木)

春風亭昇太独演会/オレスタイル

ワッハ上方へ。

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523人の大アンケートによる 「今おもしろい落語家ベスト50」(文春MOOK)で第8位にランクインした春風亭昇太さん、The One And Onlyの会。

開口一番「第13回目という、区切りの悪い会へようこそ!」で会場がドッと沸く。「僕の人生の目標は”いい気になること”なんです」

同じ日に、近くのトリイホールでは桂米朝さんのお孫さん(高校一年生)が高座に上がり、小噺を披露したそうで、「あちらには新聞社が4社、取材に駆けつけたそうです。こちらには1社も来てません」「落語家なんて、獣(ケモノ)がやる種の職業ですから、代々受け継ぐもんじゃないですよね」と舌好調♪

幼い頃、駄菓子屋でくじを引くのが大好きだった昇太さん「”ハズレ”じゃなくて”スカ”と書かれた、その響きが何とも言えませんでした」ある日、お年玉など貯めたお金を全てつぎ込み、くじを丸ごと買い占めたが、引いても引いても最後まで1等はおろか2等も出てこなかったそうである。「世の中、そういうもんなんだと僕は悟りました」

大学では落研に所属。もともとは応援団だったのが、内部分裂して落語研究部になったという変り種。その名残で対外的な活動も詰襟の学生服姿だったとか。夏休みに四国の老人ホームを落語で慰問しながら旅行していた時、その礼儀正しさで園長さんにとても気に入られた昇太さん。色々話を聞いてみると、その園長さんは元海軍で潜水艦に乗っていたそう。

日本敗戦の知らせを太平洋のど真ん中で受けた彼らは、「これから俺たちは、どうしたらいいのだろう」と途方にくれた。焦土と化した祖国に帰っても希望はない。すると誰かが突然「海賊になろう!」と言い出した。魚雷は6本残っている。「そうだ、そうだ!」「そうしよう!」と皆が一気に盛り上がった。そこで艦長は「よし、分かった。海賊になろう。しかしお前たち、その前に一度日本に戻って、家族にきちっと挨拶をして来い」と提案した。結局、潜水艦が帰港するまでにはみな冷静さを取り戻し、誰も何も言わず、とぼとぼとそれぞれの故郷に戻っていったとか。

「僕はこの話を聞いて、『人間、いざとなれば何にでもなれるんだ』と思いました」と昇太さん。いゃ~、心に残るエピソードだった。虚無感というか、極限状態に置かれた人間の業のもの凄さを感じた。

今回の演目は、

  • 短命
  • リストラの宴(昇太 作)
  • 寝床

一席目と二席目の間に、昇太さんは舞台上で着替えられた。いかにもオレスタイル。「間が空かないし僕はこれ、いいアイディアだと思うんですよね。でも他に誰もやる人がいないんです」いやいや昇太さん、上方にはいますよ。

昇太さんの高座は、何だかクネクネと体を左右に動かし、まるで軟体動物みたいである。

短命」が終わると、「聴いた後、何にも残らないでしょ?こんなのが好きなんです」

圧巻だったのは「寝床」。旦さんが三番蔵に鍵を掛けて閉じこもった番頭を追いかけ、汗でべっとりした手を吸盤のように壁にくっつけ、ペタペタと這い上がる。そして明かり取り窓から浄瑠璃を流し込み、蔵の中でそれが渦を巻くというホラー仕立て。

クライマックスでは旦さんがぶつけてくる浄瑠璃の固まりを避け、店子(たなこ)たちが戦場の如くはいつくばり、匍匐前進するという展開に。落語の狂気がそこにはあった。

昇太さんは大学生の時、古今亭志ん朝が演じる「寝床」を聴き、その美しさに感動されたそうである。しかし、あっけらかんと「全然違う方向に来てしまいました」

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コメント

上方では九雀さんがナマ着替えの元祖ですね。
6~7年前から一人だけで3席やる時には、舞台上で着替えてはりました。
それ用に舞台上に鏡(確かコーナンで購入)まで、置いてはりました。
毎度、九雀さん好きのおたべでした。

投稿: おたべ | 2010年2月 5日 (金) 14時15分

おたべさん、コメントありがとうございます。

「月なみ(^o^)九雀の日」には何度か足を運んでいるのですが、九雀さんが舞台上で着替えるのに遭遇したことはありません。

東京は昇太さんだけのようですが、上方には何人かそういうスタイルの噺家さんがいらっしゃるのですね。

投稿: 雅哉 | 2010年2月 5日 (金) 23時23分

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