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2010年2月18日 (木)

大植英次のアルペン・シンフォニー!

ザ・シンフォニーホールで大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会を聴く。

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曲目は、

  • シューマン/ピアノ協奏曲 イ短調
  • R.シュトラウス/アルプス交響曲

ピアノ独奏はスイス生まれのフランチェスコ・ピエモンテーシ。このピアニストがお粗末でいただけなかった。なんだかナヨナヨした(女々しい)演奏だなと想って聴いていたのだが、タッチの力強さが足りないのだという結論に達した。特に小指が弱いので、音が均一に鳴らない。そしてそれを誤魔化すためにペダルを多用し、曖昧に響く。

これなら仲道郁代、上原彩子、河村尚子ら日本のピアニストの方がよっぽど上手いし、彼女たちならもっと逞しい演奏をするだろう。どうしてわざわざスイスからこんな実力のない人(エリザベート王妃国際音楽コンクール第3位)を呼び寄せたのか、全く意味不明だった(ソリスト・アンコールはシューベルト/ピアノソナタ第13番から第2楽章)。

一方、以前から大植さんは協奏曲の伴奏が巧い指揮者だと想っていたが、今回もソリストにぴったり寄り添い、繊細でニュアンスに富む演奏だった。

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プログラム後半のアルペン・シンフォニーは気宇壮大で、100点満点。溢れる歌心と、迫力に満ちたサウンドで聴衆を魅了した。R.シュトラウスによる華麗なオーケストレーションが名外科医の手で鮮やかに腑分けされ、各声部が明瞭に聴こえる。僕が常日頃、悪口を言っている大フィルの金管セクション(特にトランペット)も、今回は輝かしい響きで大健闘だった。

大植英次という人は、ベートーヴェンやブルックナーの交響曲など、音楽に精神性を求められる作品はからきし駄目な人である。しかし後期ロマン派の音楽、特に外連(ケレン)味たっぷりで、変化に富む標題音楽を振らせたら彼の右に出るものはいない。

R.シュトラウス作品の中でも、このアルペン・シンフォニーは外面的ド派手な効果だけをひたすら追求した作品であり、はっきり言って中身は空っぽ。だから大植さんの資質にピタリとはまった。

一人の登山者がアルプスを登り、下山時に嵐に遭うというプロットである。しかし、言及されているのは自然描写など事実のみで、主人公の感情は全く音楽で描かれない。

僕は久しぶりにアルペン・シンフォニー(交響詩と言うべきか)を聴きながら、「これは正しくスペクタクル映画だな」と想った。ウィンドマシーンやサンダーマシーンなど賑々しい「効果音」が駆使されているし、舞台脇のバンダ(副指揮者付き金管別働隊)なんか、ドルビー・サラウンド音響そのものである。

「山の動機」「太陽の動機」「岩壁の動機」「登り道の動機」など、この作品にはワーグナーが生み出したライトモティーフ(示導動機)が駆使され、有機的に絡み合っている。この手法はR.シュトラウスの後継者としてウィーンで活躍したオペラ作曲家エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトに受け継がれ、コルンゴルトがハリウッドに移ってからは「シー・ホーク」「風雲児アドヴァース」「ロビンフッドの冒険」など映画音楽に採り入れられた。

また、映画「風と共に去りぬ」「キング・コング」「カサブランカ」の作曲家として知られるマックス・スタイナーはウィーンで生まれで、彼の名付け親はR.シュトラウスであった(ちなみにスタイナーは幼少時にピアノの手ほどきをブラームスから受け、音楽学校ではマーラーから学んでいる)。

だから僕は今回、遠くアルプスの彼方にジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」やハワード・ショアの「ロード・オブ・ザ・リング」が鳴り響くのを聴いた。彼らは紛れもなく、R.シュトラウスの孫たちだったのである。

いつの日にか大植さんの指揮でコルンゴルトのシンフォニーやヴァイオリン協奏曲、あるいはその映画音楽を聴いてみたいと希う、今日この頃である。

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コメント

アルペンシンフォニーが中身の空っぽの曲とは良く言えたものですね。アルペンシンフォニーにはほぼ全ての作曲法、和声学が使われ、そして数々の名曲を形を変えオマージュした中で、アルペンという自然の荘厳さと、アンチクリストという、マーラー&ニーチェの極致、2つの標題を表裏一体で表現した、後期ロマン派の最高傑作であり最後のドイツ音楽と言われる名曲ですよ?
リヒャルトを語るなら、彼の人生をまず勉強しなくては。もう少し熟慮した批評をお願いします。

投稿: くらおた | 2011年11月18日 (金) 11時39分

くらおたさん、笑えるコメントをありがとうございます!

まずアルプス交響曲のどこがアンチクリストなのか、具体的に説明して下さい(作曲家がそう語ったというのでは根拠になりません)。

それから楽劇の継承やライトモティーフの使用という点でR.シュトラウスがワーグナーの影響を受けたのは明らかですが、マーラーの影響はどこにあるのでしょうか??

「最後のドイツ音楽」と仰りますが、では例えばヒンデミットの作品はドイツ音楽ではないと?貴方の認識こそ改められるべきでしょう。

さらに、芸術の価値は全て作品の中にある筈であり、作者の人生は単に補足的な意味しかないと僕は考えるのですが。

投稿: 雅哉 | 2011年11月20日 (日) 01時58分

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