« 京都でハプスブルク気分! | トップページ | 桂よね吉、文三 IN ちょっと”はんなり”染二です! »

大植英次と佐渡裕/「キャンディード」をめぐって

これは以前書いた「大植英次、佐渡裕~バーンスタインの弟子たち」という記事と併せてお読み下さい。

大植さんと佐渡さん、どちらがよりレナード・バーンスタインに愛されていたのだろう?と、僕は時々考える。

大植さんは遺族から、レニーが最後のコンサートで使用した指揮棒とジャケットを形見分けされたそうだ。一方で佐渡さんは、レニーのベストを譲られている(こちらに写真あり)。

山田真一著「指揮者 大植英次」(アルファベータ刊)より大植さんの発言を引用してみよう。

「バーンスタイン先生は、正式に弟子というものを取ったことがなかった。世界に、バーンスタインの弟子、と言って喧伝しているものは少なくないが、セミナーやリハーサルなどで一緒に時間を過ごしただけの者が多い」

「もし、一人あげるならば、それはマイケル・ティルソン=トーマス」

これはある特定の人物を念頭に置いた、牽制球のようにも受け取れなくはない。

大植さんが「青少年のためのコンサート」や大阪城「星空コンサート」を始めた当初は、その冒頭で必ずミュージカル「キャンディード」序曲を演奏していた。しかし佐渡さんが「題名のない音楽会」のテーマ曲として「キャンディード」序曲を選び、毎週日曜日にテレビから流れるようになったあたりから、一切演奏するのを止めてしまった。僕にはこれが、佐渡さんを意識した行動のように思えてならない。

2008年、佐渡さんは「レナード・バーンスタイン生誕90周年」と銘打ち、シエナ・ウインド・オーケストラでバーンスタイン特集を組み、レコーディングも行った。また兵庫県芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)とはバーンスタインの交響曲全曲演奏会を行った(「題名のない音楽会」でもその一部が演奏された)。しかしその一年間、大植さんは日本で一切バーンスタインを取り上げず、沈黙を守る。

喧騒が過ぎ去った2009年になって初めて、大植さんは4月の定期演奏会で組曲「キャンディード」を取り上げ、8月の「青少年のためのコンサート」では待望の「ウエストサイド物語」~シンフォニック・ダンスに挑んだ。

「キャンディード」組曲のスコアおよびパート譜には次のような記載がある。「大植英次とミネソタ交響楽団のために」……ちなみにこの組曲が編纂された当時、大植さんはミネソタ交響楽団の音楽監督を務めていた。レニーの深い愛情が窺われるエピソードである。なお、組曲に序曲は含まれず、2009年に大植さんのタクトから「キャンディード」序曲が紡ぎ出される事は結局なかった。

さて2010年。兵庫県立芸術文化センターで佐渡さんが遂に念願の「キャンディード」全曲を振る。パリ・シャトレ座版(演出:ロバート・カーセン)で英語上演。歌手は全員外国人で、ダンサーもオリジナル・プロダクション・メンバーが来日するという超豪華版。これは今からわくわくドキドキだ。一般発売は2月21日(日)から。詳しくは→こちら

佐渡さんは故・桂枝雀さんの大ファンだそうである。指揮者コンクールの直前にも飛行機やホテルで、枝雀落語のカセットテープを繰り返し聞いていたとか。佐渡さんが無邪気にレニーを慕う気持ちが、落語家の師匠と弟子の関係に似ていると思うのは、僕だけではないだろう。

|
|

« 京都でハプスブルク気分! | トップページ | 桂よね吉、文三 IN ちょっと”はんなり”染二です! »

クラシックの悦楽」カテゴリの記事

コメント

待望の記事、ありがとうございます!
興味深く読みました。
私は昔、この二人が同じコンサートで指揮したPMFオーケストラの公演に行ったことがあります。
感想は…ちょっとここには書きにくいので書きませんが、当時駆け出しだった二人が、そのまま世界的な指揮者になれたことはまさに僥倖です。
最近偶然にバーンスタインの評伝を立て続けに読んだのですが、たしかにバーンスタインの周りには初期の頃から崇拝者が取り巻いていたようですね。
でも大植さんは最後の来日公演で体調不良のレニーのピンチヒッターで実際に振りましたし、佐渡さんは実際には振らなかったけど、「ベルリンの壁崩壊記念」の歴史的な第九の時に、またもや体調不良のレニーの代替指揮者として指名されてスタンバってたそうです。
やはり二人とも特別目をかけてもらっていたのは事実でしょう。
同じ関西で、しかもちょっとキャラがかぶってるのでやりにくい面もあるでしょうが、二人ともがんばってほしいものです。

MMTとレニーの関係は、レニー本人とミトロプーロスとの関係に似てるのかもしれませんね。

投稿: 福島です! | 2010年2月20日 (土) 11時02分

あ、MMTはMTTの間違いでした。
マイケル・ティルソン・トーマスですからね…
失礼しました。

投稿: 福島です! | 2010年2月20日 (土) 11時06分

福島さん、コメントありがとうございます。

故・桂文枝は20人の直弟子たちに、「兄弟仲よく」と常日頃言っていたそうですが、笑福亭みたいにバラバラな一門もありますし、実際は色々難しいのでしょうね。

大植さんがレニー最後の来日公演の時、ピンチヒッターとして指揮台に立った「事件」は当時、物議を醸しましたね。今年、小沢征爾さんが食道がんで半年の休演を発表した時にも、このことが蒸し返されたくらいです→こちらにその記事があります。

大植さんにとって、この件は長年、深い傷として心に残ったのではないかと僕は想います。

投稿: 雅哉 | 2010年2月20日 (土) 17時10分

こんにちは。検索から来ました。

大変興味深く拝見しました。「キャンディード組曲」ですが、
これは1998年に Charlie Harmon が編曲したものです。
大植&ミネソタ管のCDライナーにも、Harmon がレニーの死後
発案して編曲したと書かれているようです。
http://www.musicking.co.jp/mt/trb_cla/archives/02_cd/oue_bernstein.php

副題については、(大阪フィルの主張はさておき)レニーの意図が入る余地は
なかったものと考えるのが自然と思うのですが、どうでしょう?

ちなみに、兵庫・東京での「キャンディード」公演にあたり、
佐渡はレニーの娘から白いベストをプレゼントされたようですね。

投稿: K.I. | 2010年7月29日 (木) 19時55分

K.I.さん、コメントありがとうございます。仰るようにレニーが亡くなったのは1990年で、Harmonの編曲はその8年後ですから"Dedicated to Eiji Oue and Minnesota Orchestra"という記載は編曲者の言葉と解釈するのが妥当かも知れませんね。

投稿: 雅哉 | 2010年7月29日 (木) 23時31分

沢山のお客様のコメント、楽しく読ませて頂きました。いろんな憶測、勘ぐり、氏と変容?結論から始めます。
全て限りなく近い創造です。が全て的を得た真実のコメントは、残念ながら
一つも在りません。しかし之こそが
Leonard Bernstein先生の意図です。
沢山のお客様に議論、予測、書面のみでの結論、疑惑、陰謀etc、話題を提供して皆様に音楽に興味を持って頂き、最後には音楽のファンに何時の間にかなっていた。之だけは先生の間違えない本当の目的です。1978年7月24日午前11:26にタングルウッドで初めて先生にお会い
した時から即感じ取り、お聞きしたら1989年7月16日パリで巨匠カラヤン死没を僕がお伝えしたと
き、20世紀最大のライヴァルと世界中が信じていた事について一晩中
事実のお話をたっぷり教えてくださいました。その内容は僕が72歳になったら本を書きます。(当然生きていたら)Brahmus vs Tchaikovski
Mozart vs Salieriなどの事実などのことは書見には在りません。音楽仲間の秘密結社のようなもので音楽家から音楽家へ語り注がれるだけで公開では全く違うように発言をし沢山の人達に興味を持たせる話題創りの真実の本を書けば富士山より高くなるでしょう。巨匠から次の巨匠へと語り注がれ、事実はBach以来でていません。僕本人は書きたく皆様に音楽家の秘密を明かしたい。気持ちで
一杯ですが、内部告発は御座いません。ただ一ついえるのは、人間が作った芸術を末永く続ける為にまたそれによった音楽で皆様に幸せを与えたい。この事実は間違え在りません。皆様の夢、希望、目的が適うよう全ての音楽家が思っている事です。何時かは事実が出てくると思いますが、音楽のミステリーにはシャーロックホームズは居ません。また
いりません。何故なら皆様が
シャーロックホームズだからです。

投稿: 大植英次 | 2013年8月11日 (日) 15時29分

一つだけ明かしましょう
MTTこと
マイケル ティルソン トーマスは
本名では在りません。

投稿: 大植英次 | 2013年8月11日 (日) 15時36分

大植英次さんから直々のコメントを頂き光栄です。ありがとうございました。

内容から考えて、これは公表していいものだと判断致しましたが、もし掲載不可の場合はご連絡下さい。

投稿: 雅哉 | 2013年8月11日 (日) 17時14分

大植さんのコメントを読み、強く感じることは「真実は一つだけではない。受け手それぞれに真実がある」ということです。

考えてみれば音楽自体が正にそれで、あくまで抽象芸術であり、作曲家の意図・想いは聴き手が想像力を働かすしかありません。答えは無数にある。同じ人間でも聴く年齢、状況(心理状態)により変わってくる。だから面白いのですね。

投稿: 雅哉 | 2013年8月12日 (月) 12時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/212850/47273528

この記事へのトラックバック一覧です: 大植英次と佐渡裕/「キャンディード」をめぐって:

« 京都でハプスブルク気分! | トップページ | 桂よね吉、文三 IN ちょっと”はんなり”染二です! »