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藤原紀香/ブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー」

梅田芸術劇場へ。

僕はミュージカル「キャバレー」を、今まで3つの演出で観ている。

1972年ライザ・ミネリ主演、ボブ・フォッシー監督による映画版(アカデミー賞8部門制覇)。そしてサム・メンデス(映画「アメリカン・ビューティ」「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」)とロブ・マーシャル(映画「シカゴ」「NINE」)が共同演出したブロードウェイ・リバイバル版(2度の来日ツアーおよびブロードウェイ公演)、さらに松尾スズキが演出した2007年版(主演:松雪泰子)である。詳しくは下記記事に書いた。

今回の演出は宝塚歌劇団のエース、小池修一郎。キャストは歌姫サリーに藤原紀香、アメリカ人の作家クリフに阿部力、下宿の大家・シュナイダー夫人に杜けあき、下宿の娼婦に高嶺ふぶき、そしてキャバレーのMCを諸星和己が演じた。

C01

結論から先に言おう。小池版は今までで、最も不出来なプロダクションであった。

BWリバイバル版にはドイツという国家の破滅の足音が聞こえ、デカダンス(退廃)、滅びの美学があった。松尾版には猥雑さと腐臭、狂気があった。しかし小池版は非常に健全で、一言で言うなら《清く、正しく、美しく》、つまり宝塚的なのである。

冒頭、「ウィルコメン(ようこそ)」のナンバーはダンサー全員が黒の燕尾服で登場。「なんだか、やたら上品な『キャバレー』だな」と違和感を覚えた。

BWリバイバル版のMCは地獄への水先案内人、つまりメフィストフェレス的役割を担っていた。小池版は顔半分を白塗りにしたジョーカー。しかし悪魔的な魅力が欠け、物足りない。

ヒロインであるサリー・ボウルズは本来、怠惰で自堕落な女である。最後に「人生はキャバレー」と歌うナンバーにはベルリンと共に滅びてゆくだけという、投げやりで、自暴自棄な感情が込められなければならない。松尾版の松雪泰子にはそれがあった。しかし藤原紀香のサリーはあっけらかんと明るく前向きで、パワフルにこれを歌い上げる。そりゃ全然違うだろう!

大家のシュナイダー夫人という役には絶望と諦念がある。しかし、宝塚男役トップスターだった杜けあきは堂々とした風格で、確かに歌は上手いのだが、世の中の流れに逆らえない夫人の人間的弱さが全く表現出来ていない(これは役者のせいではなく、演出・キャスティングが悪い)。それからコメディじゃないんだから、肉襦袢にも違和感があった(「ウーマン・イン・ホワイト」のマイケル・クロフォードを想い出した)。

クリフがアメリカ兵として戦場で死ぬという幕切れは、余りにも唐突で閉口した。メンデス/マーシャル版では舞台が眩いばかりの白い光に包まれ、登場人物たちが強制収容所で処刑される(勿論、儀式を司るのはMCである)という衝撃的な演出で圧巻だったのだが、もう雲泥の差である。

キャバレー・シートも中途半端であった。1階最前列、両端に設けらたテーブル(ペア)席のことである。ブロードウェイで「キャバレー」を観劇した時は1階席全てがテーブル席で、劇場全体が第2次世界大戦直前のベルリンの雰囲気を醸し出していた。テーブルにはランプが置かれ、それが舞台の進行と共に点滅する。観客は思い思いにアルコールなどドリンクを注文し、それを飲みながらショーを愉しむのである。今回のように、ただ一部にテーブルが置かれているだけ(飲食禁止)では意味がない。

結局、このプロダクションの見所は藤原紀香の細くすらっとした美脚と、諸星和己がローラースケートを履き、ステージ狭しと駆け巡る場面に尽きる。淀工(大阪府立淀川工科高等学校)吹奏楽部の「ザ・ヒットパレード」冒頭で演奏される「パラダイス銀河」は元々、この人が歌っていたんだなぁと懐かしく想い出した。

小池修一郎さんは素晴らしい演出家である。ミュージカル「エリザベート」なんか、ウィーン・オリジナル版よりも日本版の方が優れていると評価しているくらいである。

小池さんは映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観てミュージカル演出家を志した人であり、ジュリー・アンドリュース・ファンクラブにも入っていたという逸話は有名である。そういう真っ当な精神の持ち主には、「キャバレー」という作品の持つ、爛れ、今にも朽ち果てんとする病んだ世界は似合わない。本公演は小池修一郎の資質と、その限界を示したものと言えるだろう。

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