笹本玲奈/ミュージカル「ウーマン・イン・ホワイト」千秋楽
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「ウーマン・イン・ホワイト」は2004年にロンドンで初演されたアンドリュー・ロイド=ウェバーのミュージカル。「オペラ座の怪人」でトニー賞を受賞したマイケル・クロフォードが久しぶりにウェバー作品に出演した(フォスコ伯爵役)ということでも話題になった。翌2005年にブロードウェイに進出したが、プレビューを含む129公演(3ヶ月)で終了しており、これは事実上、興行的失敗を意味する。
オリジナル・プロダクションの演出はトレヴァー・ナン(「レ・ミゼラブル」)。舞台背景にスクリーンを配し、そこにCGの映像を映すことで場面転換をするという奇をてらった演出で、すこぶる評判が悪かった。日本版ではそれを一新、きちっとセットを組んで展開されていく。
なお、ウディ・アレン監督がロンドンで撮り、スカーレット・ヨハンソンが主演した映画「マッチポイント」(2005)には「ウーマン・イン・ホワイト」を観劇するシーンが登場する。
本作で読売演劇大賞の優秀女優賞および杉村春子賞を受賞した笹本玲奈、テノール歌手で「マルグリット」にてミュージカル界に進出した田代万里夫、大和田美帆、軽妙にフォスコ伯爵を演じる岡幸二郎らキャスト、そして日本版演出は見事である。全く文句はない。特筆すべきは音楽監督兼、指揮を担当した塩田明弘さんの卓越したタクト。マエストロ塩田は”踊る指揮者”として有名で、ミュージカルを振らせたらそのセンスたるや右に出るものはない。
しかしその充実したプロダクションの足を引っ張ったのが、作品そのものの出来の悪さである。
1993年に初演された傑作ミュージカル「サンセット大通り」(Sunset Boulevard、日本未上演)を最後に、ロイド=ウェバーの才能が枯渇したことは周知の事実である。「オペラ座の怪人」や「サンセット大通り」の充実度を100%とするならば、「ウーマン・イン・ホワイト」の出来は70%くらい。愛のデュエットも陳腐で「オペラ座の怪人」の名曲"All I Ask of You"と比べるべくもない。劇団四季が最近のウェバー作品を買おうとしないのは、さすが見識が高い(しかし「キャッツ」や「オペラ座の怪人」などドル箱作品があるから、お義理でロイド=ウェバー版「サウンド・オブ・ミュージック」を買ったのではないだろうか?と邪推してみた)。
B級怪奇映画みたいな台本もお粗末。例えばこの物語の鍵を握る「白いドレスの女」が幽霊の如く、野を彷徨っている理由に全く説得力がない。彼女はパーシバル卿の秘密を握っているのだが、なにもそれを心の内に秘めなくても警察や村の人々に告発すればいいではないか。大体、日々の食事はどうしているの?虚構の中のリアリティが欠如している。彼女は主人公マリアンと偶然出会った時に、「秘密は明日の同じ時間に打ち明ける」と言う。そこで僕は「おいおい、今言っとけよ!明日に延ばしたらパーシバル卿に捕まっちゃうよ」と内心、突込みを入れた。そして予想通りの結果となったことは、言うまでもない。
ただ、ロイド=ウェバーの"Aspects of Love"がスティーブン・ソンドハイムのミュージカル"A Little Night Music"へのオマージュだったように、「ウーマン・イン・ホワイト」にもソンドハイムへの憧れが垣間見られたのが興味深かった。例えば姉妹と画家が森へ 写生に繰り出す場面は明らかにスーラを主人公にした「日曜日にジョージと公園で」(Sunday in the Park with George)を意識しているし、後半の精神病院に至る展開は「スウィーニー・トッド」そっくりである。
果たしてロイド=ウェバーが復活し、嘗ての栄光を取り戻す日は来るのであろうか?
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