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フランツ・シュミット、知られざる交響曲/大阪シンフォニカー定期

ザ・シンフォニーホールで寺岡清高/大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会を聴く。

プログラムは、

  • ベートーヴェン/交響曲 第8番
  • シュミット/交響曲 第4番

以前この、知られざるウィーンの交響曲シリーズを聴いた感想は下記。

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歯切れよく軽やかな古楽器演奏、あるいはピリオド奏法に慣れた耳には、大編成による寺岡さんのベートーヴェンはいささか機動力に欠け、腰が重く感じられる。テヌート気味で滑らかな、厚化粧のベートーヴェン。ただこの演奏会のテーマが「世紀末ウィーン」なので、ロマン派の見地から解釈した20世紀的演奏と考えれば、理解出来ないこともない。僕はこれを聴きながら、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」を連想した。特に映画の最後、(マーラーをモデルにした)作曲家・アッシェンバッハが息絶え、その化粧が醜悪に溶けていく場面を。つまり、「マーラー的ベートーヴェン」であった。

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さて、すこぶる面白かったのがプログラム後半、フランツ・シュミット(1874-1939、オーストリア)である。まさに後期ロマン派最後の作曲家と言えるだろう。

交響曲第4番が初演されたのが1934年。ナチスがドイツの政権を取ったのが1932年、38年にオーストリアはドイツに併合され、翌39年にシュミットは亡くなっている。

ユダヤ人だった「三文オペラ」の作曲家クルト・ワイルは、舞台作品への度重なるナチスの暴力的干渉に身の危険を感じ、33年にドイツを離れパリへ逃れた。そして35年にアメリカへ渡り、ブロードウェイ・ミュージカルを手がけるようになる。

「カルメン幻想曲」で知られるフランツ・ワックスマンはユダヤ系ドイツ人。ナチス政権下で自由な活動を閉ざされたワックスマンは34年にアメリカに渡る。そして「フランケンシュタインの花嫁」('35)「レベッカ」('40)など映画音楽に携わり、「サンセット大通り」('50)「陽のあたる場所」('51)でアカデミー作曲賞を受賞することになる。

ウィーンでオペラ作曲家として活躍したエーリヒ・ウォルフガング・コルンゴルトもユダヤ系であった。ハリウッドから招かれ1936年の映画「風雲児アドヴァース」でアカデミー作曲賞を受賞したコルンゴルトは、38年ナチスのオーストリア併合により、アメリカで生きることを余儀なくされる。

その38年、ドイツ出身の名指揮者ブルーノ・ワルターもまた、マーラー/交響曲第9番のレコーディングを最後にウィーン・フィルと別れを告げ、スイス経由でアメリカに亡命する。

そういう風雲急を告げる時代に、このシンフォニーは作曲された。またシュミットの妻は精神病院に収監され、1932年には娘エンマが出産直後に死去。そういった度重なる不幸が交響曲に暗い影を落としている(妻カロリーネはシュミットの死後、ナチスの精神病患者一掃政策により、殺害された)。

第1部はトランペット・ソロにより調性と無調の狭間をたゆたう、不安定でもの寂しい主題から開始される。僕はこれを聴いてジェリー・ゴールドスミスが作曲した映画「エイリアン」のメイン・テーマに雰囲気が似ているなと感じた。そして谷川俊太郎さんの処女詩集「二十億光年の孤独」というタイトルが想い起こされた。

第2部は葬送行進曲。これはまさしく後期ロマン派の音楽への、悲痛な、告別の歌である。

そして空しく盛り上がる第3部のスケルツォを経て、全てが虚無へと帰す第4部へ。僕はここにロマン派の音楽とヨーロッパ文明が瓦解する音を、間違いなく聴いた。

このシンフォニーは少なくともマーラーの第7番や8番を凌ぐ、傑作である。こんな素晴らしい作品がもっと日本で演奏される機会が増えることを心から望む。そしてこれを取り上げる英断を下した寺岡さんと、大阪シンフォニカーにエールを送りたい。

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コメント

こんばんは、記事拝見しました。あまりに興味をそそられたので、iTuneでウェルザー・メストがロンドンフィルを振ったものをダウンロードして聴いています。

確かに、書かれている通り、非常に魅力的な曲ですね。これもまた、「不当に忘れられた曲」でしょう。こんな曲に出会わせてくれる企画、感謝ですね。

いつものことながら、水曜日はどうしても身動きができないため、パスしましたが、シンフォニカー、いい仕事だと本当に思います。

投稿: ぐすたふ | 2010年2月15日 (月) 23時51分

ぐすたふさん、拙記事を読まれて曲を聴いて下さったなんて、ブロガー冥利に尽きます。ありがとうございます。

コルンゴルトが「ハリウッドに魂を売り渡した売女(ばいた)」と蔑まれ、抹殺されたように、シュミットの場合はナチスを讃えるカンタータを作曲するよう要請されたため(未完に終わる)、ドイツ敗戦後に協力者と見なされたことが現在の不当な扱いに繋がっている気がします。

さて、数年前からぐすたふさんにお勧めしておりますが、来シーズンこそは是非とも、機会を見つけて児玉宏/大阪シンフォニカーをお聴き下さいね。ぶっ飛びますよ!

投稿: 雅哉 | 2010年2月16日 (火) 00時22分

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