白羽ゆり、井上芳雄 IN 「シェルブールの雨傘」
この記事は《春野寿美礼 IN ミュージカル「マルグリット」、そしてミシェル・ルグランの軌跡》と併せてお読み下さい。
一般に、フランス映画の黄金期とはルネ・クレール監督の「巴里の屋根の下」(1930)、ジュリアン・デュヴィヴィエ「舞踏会の手帳」('37)、ジャン・ルノワール「大いなる幻影」('37)、マルセル・カルネ「天井桟敷の人々」('45)などが生まれた1930-40年代だと言われている。
しかし僕は、ルネ・クレマン監督「太陽がいっぱい」(1960)、ルイ・マル「地下鉄のザジ」('60)、フランソワ・トリュフォー「突然炎のごとく」('61)、セルジュ・ブールギニョン「シベールの日曜日」('62)、アニエス・ヴァルダ「幸福」('65)、ジャン=リュック・ゴダール「気狂いピエロ」('65)、クロード・ルルーシュ「男と女」('66)、ロベール・アンリコ「冒険者たち」('67)、そしてカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したジャック・ドゥミの「シェルブールの雨傘」('64)が撮られた1960年代こそが、フランス映画が最も豊かで幸福だった時代なのではないかと考える。そしてそれを象徴する至福の、世界中の人々から祝福されたミュージカル映画がドゥミの「ロシュフォールの恋人たち」('67)である。
「シェルブールの雨傘」と「ロシュフォールの恋人たち」でドゥミの色彩豊かな演出と、ミッシェル・ルグランの絢爛たる音楽は頂点を極めた。またこの両者はカトリーヌ・ドヌーブの美貌が神々しいまでに輝いていた時期にも一致する。
ルグランの音楽の魅力はその目くるめく転調と、ルグランJAZZにある。「シェルブールの雨傘」もJAZZYな音楽を主体としながら、優雅なワルツや、タンゴ、ラテンありと変化に富む。全ての台詞にメロディが付けられ、語りの部分は一切ない。1979年にニューヨークで幕を開けた舞台版にもそれは踏襲されている。日本での初演は83年。
その舞台版を観にシアターBRAVA!へ。
主演は宝塚歌劇団を卒業したばかりの白羽ゆり、そして井上芳雄。
元・宝塚の美貌の娘役で僕が真っ先に想い出すのが黒木瞳、檀れい、そして白羽ゆりである。今回のヒロインには正に打って付けであり、全盛期のドヌーブに引けをとらないジュヌヴィエーヴであった。完璧。
井上くんの声量のなさは相変わらずだが、デビュー当時(「エリザベート」皇太子ルドルフ)の線の細さは影を潜め、凛々しく、逞しい青年に成長した。とてもお似合いのカップルである。
そして脇役の充実振りも特筆に価する。ヒロインの母親役の香寿たつきや、井上くんの叔母を演じる出雲綾は宝塚時代から歌唱力に定評があった。特に香寿はきりっと背筋が伸び、誇り高き女性像を見事に描き切った。ANZA演じるマドレーヌも控えめで優しさにあふれ、イメージにピッタリ。
映画版は色とりどりな雨傘の俯瞰ショットから始まり強烈な印象を残すが、その冒頭部についてはやはり舞台版は弱いと想った。しかし、明らかに映画より優れていたのは謝珠栄のダイナミックな振り付け(演出も兼任)。特に男性ダンサーが女性ダンサーをぶんぶん振り回し、ぐるぐる回転する場面は鮮やかで美しかった。近年希にみる素晴らしい作品に仕上がっている(17日、日曜日まで上演中)。
久しぶりに「シェルブールの雨傘」に接して感じたのは、これはメロドラマの究極の完成形だということ。以降、本作を上回る傑作は生まれていない。
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