「代書」オリジナル完全版/宗助ひとり会
大阪府高槻市にある割烹旅館「亀屋」へ。
桂宗助ひとり会。THE ONE AND ONLY.
- 子ほめ
- 骨つり
- 代書(四代目米團治仕立て)
宗助さんは桂米朝さん最後の直弟子。落語「二番煎じ」の登場人物"宗助”から名前が採られた。上方落語協会に所属されていないので繁昌亭への出演がない。だから高座を聴く機会が滅多にない希少な噺家さんである。端正でオーソドックスな芸風。
「代書」は米朝さんの師匠、四代目桂米團治が昭和十年代に創作したもの(現在の米團治は五代目)。
三代目桂春團治や桂枝雀の口演が有名だが、実は「代書」のごく一部が演じられているだけで、本来この後にさらに3人の客が代書屋を訪れる。
その中に片言の日本語を喋る在日朝鮮人がいて、渡航証明書を書いて欲しいと依頼する。しかし話しているうちに戸籍謄本に書かれた戸主の死亡届けや彼の妹の出生届が役所に提出されていないことが判明する。
「代書」が発表された当時は問題なかったのだろうが、戦後の日本ではある種タブーと言うべき題材であろう。別に朝鮮の人を馬鹿にしているわけではないが、「差別的内容」と誤解されかねない。これでは確かにオリジナル版が演じられなくなったのも仕方ないのかも知れない。
それでも今回初めて聴いた完全版は構成がしっかりしていて、これはこれで面白かった。また逆にこの噺の中からエッセンスだけ凝縮し、さらに独自のギャグ「セェ~ネンガッピ!」や「ポンで〜す」という爆発的サゲを持ってきた枝雀さんの天才性にも改めて感服した。
なお代書屋の名前・中濱賢三は米團治の本名。最初に登場する客の名は元々、太田藤助だったが米朝版は田中彦次郎、春團治版は河合浅次郎(先代・春團治の本名)となっている。さらに枝雀版では松本留五郎(松本姓は枝雀の祖父の旧姓)に代わっている。
また宗助さんが米朝さんから直接聞いた、米團治の人となりも興味深かった。「米團治師匠はどういうお人やったんですか?」と訊ねると「真面目で、律儀で……、ずぼらな人やったな」と。寄席から帰っても米朝さんが世話を焼かない限り着物を着替えることなく、そのまま酒を飲んだり、ごろっと横になってしまったそうだ。絵や字の上手い人で、飼っていた鶏の羽をある日、余っていた絵の具のグリーンで染めてしまった。鶏小屋に戻すと他の連中からえらく虐められるものだから「鶏てあんまり賢こないなぁ」とポツリ。う〜ん、落語的だ。
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