笑福亭鶴瓶、吉永小百合/映画「おとうと」
評価:A
いっぱい笑った、そして泣いた。素晴らしい作品である。今年、米アカデミー外国語映画賞の日本代表として「誰も守ってくれない」などという駄作が選ばれたが、来年の日本代表は是非、本作に!と希望する。映画公式サイトはこちら。
山田洋次監督が「おとうと」を撮ると聞いた時、幸田文(原作)市川崑(監督)の映画「おとうと」(1960年、キネマ旬報ベストワン)のリメイクなのかなと思った。ところが完成した作品を観ると現代を舞台にした全くのオリジナル作品で、「病に伏した弟と看病する姉がリボンで手と手をつなぐ」というアイディアのみ借用されていた(映画の最後に《市川崑監督「おとうと」に捧げる》とクレジットが出る)。
山田監督の「寅さん」シリーズが、人間として駄目な兄と賢い妹の滑稽噺だったのに対し、 今度の新作は賢い姉と駄目な弟の物語になっている。そして21世紀になり描くことが難しくなった《家族=血の繋がりというやっかいなもの》をテーマとしている。
吉永小百合は現在64歳。娘役の蒼井優は24歳。ちょっと親子としては厳しい年齢差だが、映画を観る限り不自然さを微塵も感じさせない。さすがプロの女優である。それにしても蒼井優のウェディング・ドレス姿は本当に綺麗だった!
東京郊外に住む吉永は、弟の笑福亭鶴瓶に娘の結婚を知らせる手紙を書く。しかし「宛先不明」で戻ってくる。そこに書かれた住所は大阪市西成区。実にリアルだ。
結婚式に駆けつけた鶴瓶は「天下茶屋で住吉のおばさんにばったり会って(結婚のことを)聞いた」と言う。このフレーズが実に落語的である。
山田洋次監督は落語に造詣が深い。故・柳家小さんのために新作落語「目玉」を書いているくらいである。
- 月なみ(^o^)九雀の日(6/10)(落語「目玉」について)
鶴瓶によると山田監督は撮影中、彼に対して一切NGを出さなかったそうである(一方、小林稔侍は40回くらい出したとか)。つまり、彼を《落語国の住人》として自由に泳がし、その浮遊感を映画の核としたということなのだろう。酔っ払いの演技は笑福亭一門のお家芸。鶴瓶が結婚式を滅茶苦茶にする場面は絶品だった。正に、立川談志さんが言うところの落語の本質、《人間の業の肯定》がそこにはあった。
末期癌に冒された鶴瓶は民間ホスピスで息を引き取るのだが、これにはモデルがあるらしい(→「きぼうのいえ」ホームページへ)。そこに登場する人々は決して偽善的でなく、真摯で温かい。見事な描写力である。しかし山田演出は死を目の前にしても、決して笑いを絶やさない。それは落語「らくだ」や「死神」(どちらも鶴瓶が高座に掛けたことのあるネタ)にも通じる精神である。鶴瓶は映画のクライマックスに向け、15Kgの減量をしたそうだ(撮影はシナリオの順番どおり行われた)。その迫真の演技には凄みさえ感じられた。
- 笑福亭鶴瓶/映画「ディア・ドクター」
- 笑福亭鶴瓶 落語会(鶴瓶と談志のエピソードあり)
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