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2010年1月30日 (土)

春野寿美礼 IN ミュージカル「ファニー・ガール」

梅田芸術劇場へ。客席の9割5分は女性。宝塚大劇場に近い比率。

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舞台ミュージカルの中には、ある役者の存在抜きに語れない作品がある。「アニーよ銃をとれ」や「ジプシー」におけるエセル・マーマン、「ハロー・ドーリー!」におけるキャロル・チャニングなどがそれに該当する。

ファニー・ガール」(Funny Girl)はそもそもバーブラ・ストライザンドのステージを観た作曲家ジュール・スタインが彼女のために書き下ろし、1964年にブロードウェイで初演された。'68年にはバーブラの主演で映画化(監督は「ベン・ハー」「ローマの休日」の名匠ウイリアム・ワイラー)、彼女はこれでアカデミー主演女優賞に輝く。

実在した主人公ファニー・ブライス(Fanny Brice)はユダヤ人だったので、ユダヤ系の家庭に生まれ、ブルックリンで育ったバーブラの個性的な顔立ち(Funny Face)がよく似合ったのだろう。

なおファニー・ブライス本人は、アカデミー作品賞を受賞した映画「巨星ジークフェルド」(1936)や「ジークフェルド・フォーリーズ」(1946)などに出演している。僕はどちらも観たが、何と言うか……けったいな人だった(なかなか形容し難い)。

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宝塚男役トップ・スターだった春野寿美礼さんは整った顔立ちなので、正直ファニー・ブライスという感じではない。周囲から「あんたみたいな美人じゃない娘は……」と言われても、なんだか違和感がある。しかし歌唱力は抜群で、バーブラの代名詞となった名曲"People"は力を抜いてたおやかに、一方、賭博師ニック・アーンスタイン(綱島郷太郎)を追って決然と歌う「パレードに雨を降らせないで」(Don't Rain On My Parade)はパワフルで熱く。宝塚時代は限りなく格好よかった春野さんだが、本作では実に軽やかに演じ、コメディエンヌとしての魅力を発散していた。

映画「ファニー・ガール」の冒頭、バーブラが楽屋の鏡に写った自分の姿に向かい"Hello, gorgeous."と言う台詞は余りにも有名である。AFI(アメリカ映画協会)が選ぶ「アメリカ映画・名セリフ100」では81位にランク・インした。バーブラのコンサートで彼女がスクリーンに映った若き日の自分に「ハロー、ゴージャス!」と語りかけるだけで、観客は熱狂し、喝采するのである。ところが、今回の舞台版ではこの台詞がなかったので驚いた。元々、映画用の脚色だったのか、それとも日本版の演出の都合上カットされたのかは僕には分からない(事情をご存知の方、コメント頂けると幸いです)。

それから舞台版ではファニーの親友で振付師エディ・ライアン(橋本じゅん)の比重が多いのにもびっくりした。事実上、準主役級の扱いである。映画版のエディは小さな役で、恐らくファニーとニックの関係に焦点を当てるために、様々なエピソードが割愛されたのだろう。

宝塚歌劇団の座付き演出家・正塚晴彦さんは普段どおり地味で堅実な仕事振りだった。もう少し華やかさがあってもいいかな?という気もした。

舞台は2段のひな壇になっており、そこに階段が掛けられて上下を行き来できるようになっていた。オーケストラは上段に配置された。ニックと決別したファニーが毅然と観客に背中を向け、階段を上がって舞台奥へと消えていくラストシーンは宝塚・男役の美学が感じられ、素敵だった。

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