玉木宏・上野樹里 主演/映画「のだめカンタービレ 最終楽章」前編
評価:B+ (ただし、テレビ・シリーズを未見の人が愉しめるかどうかは保証の限りではない)
映画の中でオーケストラが登場する作品のうち、特に印象に残ったものを想い出してみた。
名指揮者レオポルド・ストコフスキーが本人役で大活躍する「オーケストラの少女」(1937)、群馬交響楽団をモデルにした「ここに泉あり」(1955)、ピアノ協奏曲《宿命》が哀切に響く「砂の器」(1974)、ジョルジュ・ドンがエッフェル塔を背景に踊る「愛と哀しみのボレロ」(1981)、そして今年公開されたばかりの「クララ・シューマン 愛の協奏曲」。「のだめカンタービレ 最終楽章」はそれらに決して引けをとらない、出色の音楽映画である(考えてみれば「愛と哀しみのボレロ」は「のだめ」でも演奏されるラヴェル/ボレロとベートーヴェン/交響曲第7番が重要な役割を果たす)。
公式サイトはこちら。
まず映画冒頭、飯森範親/のだめオーケストラが演奏するベートーヴェン/交響曲第7番の演奏が素晴らしい。ヴィブラートを抑えたピリオド奏法で音楽が弾み、躍動する。
「のだめカンタービレ」のタイトルが、ウィーン楽友協会大ホール(黄金のホール)を背景に浮かび上がった瞬間は背筋がゾクゾクッとした。
玉木宏の指揮ぶりも飯森さんからの指導を受けてテレビ版より更に進化し、スタイリッシュで格好いい。
そしてなりより特筆すべきが”のだめ”を演じる上野樹里。彼女のコメディエンヌとしての魅力が爆発。何と愉快でチャーミングなヒロイン像だろう!彼女のピアノを吹き替えているラン・ランの演奏も疾走感と切れがあり、文句なし。
武内英樹の演出はテレビ・シリーズから冴えていたが、映画でも絶好調。なによりリアリズムに近づこうとはせず、漫画の表現そのままを実写でやろうとするその大胆な試みに好感が持てる。そしてそれは概ね成功している。外国人キャストの台詞が、全員日本語に吹き替えられているのが面白い。
特に”のだめ”の妄想「変態の森」の場面がシュールで凄い。CGアニメのキャラクターが洪水のように出現し、狂騒の場と化す。僕は今敏 監督のアニメーション映画「パプリカ」のことを想い出した。そのワンダーランドへの入り口が、世界遺産モン・サン=ミッシェルの窓というアイディアも大いに気に入った。
千秋が常任指揮者になったフランスの「ル・マルレ・オーケストラ」で木管楽器のフランス式バソンを、機能面で勝るドイツ式ファゴットに切り替えるかどうか論争になるシーンが興味深い。今でも頑なにウィンナホルンに拘るウィーン・フィルを彷彿とさせるエピソードである。
嗚呼、後編の公開が今から待ち遠しい!
| 固定リンク | 0
「Cinema Paradiso」カテゴリの記事
- 2020年 アカデミー賞・答え合わせ〜徹底的に嫌われたNetflix!(2022.03.29)
- 映画「ドリームプラン」でウィル・スミスはアカデミー賞受賞という悲願を達成出来るのか?(2022.03.08)
- 2022年 アカデミー賞大予想! 〜今年のテーマは被差別者・マイノリティーを祝福すること(2022.03.27)
- 映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(スピルバーグ版)(2022.03.10)
- ジェーン・カンピオン vs. スピルバーグ、宿命の対決!!「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(2022.02.17)
「クラシックの悦楽」カテゴリの記事
- 武満徹「系図(ファミリー・トゥリー)-若い人たちのための音楽詩-」を初めて生で聴く。(佐渡裕/PACオケ)(2022.01.26)
- エマニュエル・パユ(フルート) & バンジャマン・アラール(チェンバロ) デュオ・リサイタル(2021.12.11)
- ミシェル・ブヴァール プロデュース「フランス・オルガン音楽の魅惑」Vol. 1(2021.12.10)
- 厳選 序曲・間奏曲・舞曲〜オペラから派生した管弦楽の名曲ベスト30はこれだ!(2021.09.17)
「テレビくん、ハイ!」カテゴリの記事
- 「バビロン・ベルリン」〜ドイツの光と影@黄金の1920年代(2021.07.12)
- ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(監督賞)に輝く「スパイの妻」を観て悲しい気持ちになった。(2020.11.20)
- 「半沢直樹」土下座の歴史と、それを強要する心理学(2020.10.09)
- わが心の歌〈番外編〉祝サブスク解禁!!山口百恵の魅力について語り尽くそう。(2020.06.02)
- 【考察】噴出する「テラスハウス」問題と、ネットで叩く者たちの心理学(2020.05.27)
コメント
突然で申しわけありません。
現在2009年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。
投票は1/14(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。
なお、twitterも開設しましたので、フォローいただければ最新情報等配信する予定です(http://twitter.com/movieawards_jp)。
投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2009年12月21日 (月) 09時38分
雅哉さん、こんばんは
この数日同じような行動パターンでした(笑)
この映画2時間ほどでしたよね、展開がテンポよく、アニメやCGを巧みに使って飽きさせず、2時間があっと言うまでした。
事情をかかえたオケメン達が頑張ってるシーンでのニムロッドには泣けました。
シュトレーゼマンのあの発言は意味深でしたよね?
投稿: jupiter | 2009年12月21日 (月) 22時42分
jupiterさん、こんばんは。
そうそう、本文では書かなかったけれど、ニムロッド(エルガー/「エニグマ変奏曲」より)が流れるシーンは本当に感動的でした。ここだけの話ですけど、想わず涙が零れちゃいました。
それからjupiterさんが飯森さんの指揮するベートーヴェンの7番にどういう感想を持たれたのか、是非お伺いしたいです!
投稿: 雅哉 | 2009年12月22日 (火) 00時45分