宝塚宙組/カサブランカ
千秋楽を翌日に控え、宝塚大劇場で宙組公演を鑑賞。
アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞に輝いた映画「カサブランカ」(1942)は名台詞の宝庫である。
Here's looking at you, kid.
「君の瞳に乾杯!」
Play it, Sam. Play "As Time Goes By".
「あの曲を弾いて、サム。『時の過ぎ行くままに』を」
We'll always have Paris.
「俺たちにはパリの想い出がある」
Louis, I think this is the beginning of a beautiful friendship.
「ルイ、これが俺たちの美しい友情の始まりだな」
男なら、一度は言ってみたい台詞の数々だ。なお、イングリット・バーグマンが言う"PLAY IT AGAIN,SAM"はウディ・アレン脚本・主演した映画「ボギー!俺も男だ」(1972)の原題にもなった。
僕がこの作品を本当に凄いと想うのは、映画が公開された時点でアメリカはドイツと交戦中であり、ナチス・ドイツは未だ負けていなかった(ヒトラーは生きていた)ことにある。そして「カサブランカ」は1998年にアメリカ映画協会(AFI)が選出した「アメリカ映画ベスト100」で第2位、2007年の再選考でも第3位に選ばれている。
今回世界で初めてミュージカル化されるにあたり、台本・演出に当たったのは宝塚歌劇団のエース、小池修一郎である。ミュージカル「エリザベート」や「モーツァルト!」の演出で知られた鬼才であり、昨年の「スカーレット・ピンパーネル」では菊田一夫演劇大賞に輝いた。
小池さんの潤色は原作を生かしながら、回想のパリの場面でカン・カンを登場させるなど宝塚らしい華やかな見せ所も盛り込み、実に見事。パリのシーンはRouge(赤)を基調とした色彩感も洗練されている。盆(回り舞台)やせり(舞台の上下機構)を駆使した場面転換は流れるようで鮮やか。さすがである。
日本人が映画版を観て些か難解に感じるのはラストシーン、 ルノー署長(クロード・レインズ)が「ヴィシー水」と表記されたミネラル・ウォーターを飲み、そのラベルに気が付いて苦々しい顔でボトルごとゴミ箱に捨てる場面である。これはフランスに出来たナチス・ドイツの傀儡・ヴィシー政権の象徴となっている。今回の舞台ではこの描写をカットし、冒頭部でヴィシー政権の解説をするよう変更されている。なかなか賢いアレンジである。
音楽は"As Time Goes By","It Had to Be You" ,"Someone to Watch Over Me"などスタンダード・ナンバーをはじめ、オリジナルの楽曲も中々いい。
主演の大空祐飛さんは決して歌が上手くない(歴代のスターで言うなら彩輝なお、大和悠河 レベル)。しかしそのスッとした立ち姿が美しく、ハッとさせられた。何というか孤独を背負って生きる男の哀愁が漂っている。男役の美学、ここに極まれり。
バーグマンが演じたイルザ役の野々すみ花さんは容姿端麗とはほど遠く、歌も×。何でこんな人がトップになれたのか全く訳が分からない。美貌の檀れい、白羽ゆり退団後、娘役氷河期が続く宝塚であった……。
ラズロを演じる蘭寿とむさんは歌唱もダンスもパーフェクト。素晴らしい男役である。聞くところによると、宝塚音楽学校時代は入学から卒業まで主席を他に譲らず、歌劇団へも主席入団だったとか。
また、エトワールに抜擢された七瀬りりこさん(研3)のソプラノがとっても美しかった!これは特筆に値する。
兎に角、宝塚版「カサブランカ」は映画版をこよなく愛する僕でも納得出来る、素晴らしい舞台である(ただし、娘役を除く)。必見。
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