丸谷明夫×下野竜也/吹奏楽とオーケストラ、夢の饗宴!
ザ・シンフォニーホールへ。下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)が吹奏楽にまつわる曲を演奏するスペシャルライブ。サクソフォン独奏が平野公祟、司会が大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部顧問の丸谷明夫先生(丸ちゃん)。昨年のスペシャルライブの様子はこちらの記事に書いた。
今回のプログラムは、
- J.F.ワーグナー/行進曲「双頭の鷲の旗の下に」
- アーノルド/管弦楽組曲「第6の幸福をもたらす宿」
- グラズノフ/サクソフォン協奏曲
- A.リード(中原達彦編曲)/エル・カミーノ・レアル(管弦楽版)
- シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ
- ラヴェル/「ダフニスとクロエ」第2組曲
客席は9割以上埋まる盛況ぶり。高校生の姿が多い。ステージに登場した下野さん、ますますハンプティ・ダンプティに似てきたなと想った。
「双頭の鷲の旗の下に」は僕も中学生の時、吹奏楽部で演奏したことがある。この曲を耳にするのはそれ以来だが、考えてみればオーケストラ版は初体験だった。いかにもオーストリア=ハンガリー帝国の軍隊行進曲らしく重厚な雰囲気で始まるが、下野/大フィルは中間部をふくよかに伸び伸びと歌う。嗚呼、マーチを聴いた!という爽やかな満足感があった。
「第6の幸福をもたらす宿」はイングリッド・バーグマン主演の映画音楽(1958)。瀬尾宗利さんの編曲により吹奏楽コンクールで火が点いた。まことにロマンティックな名曲である。
「オーケストラよりも、我々吹奏楽の方でしばしば演奏されている曲です」と丸ちゃん。「これを機会にアーノルドがもっと日本で聴かれるようになればいいですね」
第1曲「ロンドン前奏曲」の冒頭はゆったりとしたテンポで開始され、中国への旅立ちを壮大に描く。第2曲「ロマンティックな間奏曲」は榎田さんのフルート、近藤さんのチェロ・ソロが美しい。そして第3曲「ハッピー・エンディング」はピッコロによる行進曲が次第に加速し、愛のテーマが登場するや下野さんは畳み掛けるようにオケを焚き付け、音楽がうねる。文句なしの演奏だった。
「映画の一場面を想い出しますねぇ」と丸ちゃん。「観たことないですけれど」に会場は大爆笑。
次にグラズノフのコンチェルト。オケは弦楽器のみ。平野さんのサックスは歌い方が演歌みたいで、余り馴染めなかった。ピッチ(音程)が少し低いところから吹き始め、尻上がりに合わせる奏法なのである。僕はやはり須川展也さんが奏でる、明瞭で澄んだ音の方が断然好きだ。ソリスト・アンコールはオケの伴奏付きで、
- ラフマニノフ/ヴォーカリーズ
休憩を挟み「エル・カミーノ・レアル」管弦楽版が初披露された。ファンダンゴなどスペインの音楽なので弦楽器によく似合う。むしろ吹奏楽のオリジナル版より良いんじゃないかと想った。「ドサクサに紛れて今後もラテン特集などでこの曲を取り上げたい」と下野さん。その指揮ぶりは勢いがあって情熱的。大フィルの好演もあり、この曲の持ち味が遺憾なく発揮されていた。
シベリウスは「吹奏楽ファンの人に弦の魅力を知ってほしい」と下野さん。元々は弦楽四重奏曲で、作曲者自身の手で弦楽合奏とティンパニ用に編曲された。とはいえティンパニが登場するのは最後たった3小節のみ。大フィルが誇る弦楽セクションの技が光る。
「ダフニスとクロエ」は幻想的な第1曲「夜明け」に始まり、たおやかな第2曲「パントマイム」を経て熱狂の第3曲「全員の踊り」へ。下野さんは激しい指揮ぶりで、大フィルもそれに喰らい付き、引き離されることなく期待に応えた。ワンダーランドへの扉が開き、ラヴェルの魔術的オーケストレーションが浮き彫りにされる結果となった。
盛大な拍手の中、下野さんは「燕尾服がキツイので指揮を交代し、アンコールは丸谷先生にお願いします!」と、
- ホルスト/「吹奏楽のための第1組曲」からマーチ(管弦楽編曲版)
この曲は淀工が演奏したこともあるし、なにわ《オーケストラル》ウィンズ第1回目のコンサートでも丸ちゃんが指揮した。速いテンポで引き締まった痛快な演奏であった。こうして夢のような、素敵な一夜は終わりを告げた。
なお、来年以降このスペシャルライブで僕が是非取り上げてほしいと想う楽曲を次に列記しておく。
- 保科 洋/風紋(管弦楽版)
- 大栗 裕/大阪俗謡による幻想曲
- ハワード・ハンソン/ディエス・ナタリス
- カレル・フサ/プラハのための音楽1968
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コメント
自分もこの演奏会、見に行きました。
サックスはとっても眠かったです・・・
須川先生はスロヴァキア・フィルと109をやっているようで
動画で観ましたが須川先生、素晴らしかったです。
エルカミーノは中学時代やった事もあり、
オケ版は感動の一言でした。
下野氏がとても面白かったです
投稿: RUKI | 2009年12月21日 (月) 17時31分
私はまずグラズノフが苦手でした。
来年は中川英二郎さん!ばんざーい!
大好きなトロンボーン奏者です。またアフリカ象とインド象、やってくれるかもですね。
それと大阪俗謡による幻想曲も予定曲にありましたね~~
投稿: jupiter | 2009年12月21日 (月) 22時49分
RUKI君、コメントありがとう。
淀工生はステージ後方の客席にずらりと座ってましたね。
本当はこの翌日、いずみホールでトルヴェール・クヮルテットの演奏会が予定されていたのだけれど、ご承知の通り公演中止になってしまいました。須川さんも辛いでしょうね。
淀工のグリコン、聴きに往くよ。1年生はマーチングやるんでしょう?期待してるからね。
それから吹奏楽コンクールが3出休みの来年、淀工が1年間かけてどんな曲に取り組むのかも愉しみにしています。前回は「リンカンシャーの花束」だったけれど、淀工の演奏する「リンカンシャー」を聴いて、あの曲の良さに目覚めました。
投稿: 雅哉 | 2009年12月22日 (火) 00時09分
jupiterさん、この記事を書いた時点では来年の予定を知らなかったのですが、とても嬉しいです。
どうせなら丸谷先生/淀工が演奏する「大阪俗謡」吹奏楽(コンクール短縮)版と、下野/大フィルによるオーケストラ(全曲)版を一夜で聴き比べするなんて企画も、面白いと想いませんか?
投稿: 雅哉 | 2009年12月23日 (水) 13時46分
大好きなエルカミを聴きに行きたかったのですが、早々に安い席が売り切れてしまい、聴きに行けなかったので、このように詳細に解説していただけると、本当にありがたいです(ちなみに、この翌日にマンドリン版のエルカミを聴きましたが、弦に合うということを実感しました)。
ところで、コメントの中に来年の予定についての話があるのですが、そういったものは何処で調べることができるのでしょうか?
投稿: 関西人35号 | 2009年12月24日 (木) 11時02分
関西人35号さん、コメントありがとうございます。
来年の予定は大フィルから会員宛のお知らせに書いてありました。2010/12/15(水)ザ・シンフォニーホールで、曲目はフンパーディング「ヘンゼルとグレーテル」より、大阪俗謡による幻想曲、モンティ/チャルダッシュ、レスピーギ/シバの女王ベルギス ほかです。
投稿: 雅哉 | 2009年12月24日 (木) 12時32分
1月のグリーンコンサート、友人がゲットしてくれて行けることになりました!
さてさて・・・あとは何時頃行ったらようのでしょうか?
投稿: jupiter | 2009年12月25日 (金) 00時49分
jupiterさん、指定席は当日引き換えなので少なくともその開始時間までには行かれることをお勧めします。
それから中々コメント欄に書きにくいこともありますので、もし今後何かお知りになりたいことがあればメールを直接頂ければ幸いです。プロフィールページから連絡がつくようになっております。
投稿: 雅哉 | 2009年12月27日 (日) 00時05分