以前、
という記事を書いて好評を博した。そこでリクエストもあり、今回はスリラー/サスペンスを取り上げることにした。
まずは”サスペンスの神様”に敬意を表して、アルフレッド・ヒッチコック監督特集から。
「めまい」1958年、アメリカ
言わずと知れた、ヒッチコックの最高傑作。ソウル・バスによるタイトルデザイン、バーナード・ハーマンの音楽などいずれもパーフェクトである。またヒッチコックと撮影監督ロバート・バークスがこの映画で生み出した「逆ズーム」は絶大な効果をもたらした。
「疑惑の影」1942年、アメリカ

ヒッチコックが得意とする、平凡な日常に忍び寄る恐怖。スリリングな映画である。明るい「メリー・ウィドウ」ワルツが不気味に響く。またヒロインを演じた清純派女優テレサ・ライトは僕のお気に入り。アカデミー作品賞を受賞した「我等の生涯の最良の年」(1946)の彼女も良かったし、カルトな名作「ある日どこかで」(1980)に登場した時は可愛らしいおばあちゃんになっていた。
「北北西に進路をとれ」1959年、アメリカ

泣く子も黙るヒッチコック絶頂期の傑作中の傑作。サスペンスとユーモアの按配(匙加減)が絶妙。観ずに死ねるか!
「見知らぬ乗客」1951年、アメリカ

原作はパトリシア・ハイスミス。同じく彼女が書いた小説を映画化した「太陽がいっぱい」同様、この作品の主人公に交換殺人を持ちかけるブルーノが同性愛者的イメージで描かれている。落ちたサングラスに歪んで映る、絞殺シーンが印象的。
「白い恐怖」1945年、アメリカ

やっぱりバーグマンは綺麗やねぇ……(ため息)。幻想シーンはサルバドール・ダリが協力していることでも名高い。それからアカデミー作曲賞を受賞したミクロス・ローザのロマンティックな音楽は本当に美しい。
「海外特派員」1940年、アメリカ

雨傘を俯瞰で撮った暗殺シーン、一つだけ逆に回る風車小屋、そして飛行機が海に突っ込むスペクタクル。映像の魔術師の面目躍如である。
「レベッカ」1940年、アメリカ

既に死んだレベッカの影に怯える人々。全て彼女が支配している世界。僕はこの映画を観ると、没後10年経った今でも上方落語界に影響を与え続けている桂枝雀さんのことを想う。以上でヒッチコック特集は終わり。
「冒険者たち」1967年、フランス

本作は煌く海が眩しい青春映画でもある。アラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラの男の友情が熱い。そしてフランソワ・ド・ルーベが作曲した、口笛の「レティシアのテーマ」!痺れるねぇ。レティシアを演じたジョアンナ・シムカスは本作により、僕らにとって永遠のアイドル(偶像)になった。
「殺人の追憶」2003年、韓国

紛れもなく韓国映画の金字塔。ヒリヒリとして、背筋が凍りつく大傑作。ポン・ジュノ監督恐るべし。岩代太郎の音楽も出色の出来。
「オールド・ボーイ」2003年、韓国

原作は日本の漫画。色々な意味で「痛い」映画だ。カンヌで本作にグランプリを与えた審査員たちは偉い!ちなみにこの年の委員長はクエンティン・タランティーノだった。だから彼の映画が苦手な人は、これも駄目かも。
「L.A.コンフィデンシャル」1997年、アメリカ

フィルム・ノワールの傑作。原作はジェイムズ・エルロイ。エルロイが殺害された実母の未解決事件を追い、自分の半生を書いた本のタイトルが「わが母なる暗黒(My Dark Places)」なんだから凄い。その生き様そのものがノワールだ。
「第三の男」1949年、イギリス
この名作について、いまさら説明するまでもないだろう。光と影、白黒撮影という美の極致。アントン・カラスのツィターが高鳴る!
「スピード」1994年、アメリカ

サスペンスというよりアクション映画、かもね?とにかく面白いんだから、どっちでもいいじゃない。上のポスターは「スピード2」のもの。この続編はどうしようもない駄作。
「その土曜日、7時58分」2007年、アメリカ
究極のLoser(負け犬)映画。これは悪夢だ!公開当時の僕のレビューはこちら。
「砂の器」1974年、日本

終盤の30分、美しくも哀しいピアノ協奏曲「宿命」が鳴り響く中、コンサートの様子(現在)に、親子の旅(過去)がフラッシュバックされるシーンの何という鮮やかさ!これこぞ映画。橋本忍、山田洋二の(共同)脚本が素晴らしい。他に松本清張原作なら「張込み」もいい。
「華麗なる賭け」1968年、アメリカ

アカデミー賞に輝いたミッシェル・ルグランの音楽、サングラスをかけ黄色いグライダーを操縦するスティーブ・マックイーン、そしてスプリットスクリーン(分割画面)。全てがお洒落な映画。
「誘拐」1997年、日本
渡哲也、永瀬正敏 主演。映画の脚本コンクール「城戸賞」受賞を受賞したシナリオが練りに練られていてミステリーとして出色の出来。東京都庁、新宿歌舞伎町などを舞台に「身代金受け渡しのテレビ中継」が展開される群集シーンに臨場感がある。
「天国と地獄」1963年、日本
言わずと知れた黒沢明監督の名作。原作はエド・マクベインの「キングの身代金」。これも誘拐もの。当時まだ新人だった山崎努が鮮烈な印象を刻み込む。
「野良犬」1949年、日本

これも黒沢明監督。終戦直後の東京の風俗が活き活きと描かれている。三船敏郎と志村喬の刑事コンビがいい。御託は抜きだ、とにかく観て下さい。
「陸軍中野学校」1966年、日本

日本にもスパイ映画があった!その衝撃的な面白さ。日本人はもっと増村保造監督の凄さを知るべきだ。
「黒の試走車(テストカー)」1962年、日本
これも増村映画。悪い奴を描かせたらこの監督は天下一品。欲望にギラギラした人間たちが蠢く。
「青の炎」2003年、日本
切ない犯罪映画、青春映画とも呼べるだろう。二宮和也、松浦亜弥主演。監督は蜷川幸雄。
「マルタの鷹」1941年、アメリカ

やっぱりハンフリー・ボガートはハードボイルドやねぇ。渋い!
「刑事ジョン・ブック/目撃者」1985年、アメリカ

やっぱりこの映画の白眉は、主人公の刑事がアーミッシュの村に彷徨い込むとろろにある。現代のアメリカ合衆国にこんな暮らしをしている人々がいたとは!正にカルチャー・ショックであった。
「インファナル・アフェア」(無間道)2002年、香港

香港ノワールの最高作。ハリウッドでリメイクされた「ディパーテッド」がアカデミー作品賞・監督賞を受賞したのはご承知の通り。でも断然、オリジナル版の方がいい。
「M」1931年、ドイツ
フリッツ・ラング監督、ドイツ時代の代表作。ピーター・ローレの怪演が強烈。サイコスリラーの始祖であり、このジャンルはラングと共にアメリカに渡り、フィルム・ノワールに発展した(ユダヤ人であったラングはヒトラー政権を逃れ亡命)。ラングが戦争中の1943年にアメリカで撮った「死刑執行人もまた死す」も鬼気迫るものがある。
「太陽がいっぱい」1960年、フランス・イタリア合作

アラン・ドロンの出世作。ニーノ・ロータの音楽が切なく響く。これをゲイ映画として見直せば、作品に新たな光が当てられるだろう。
「現金に体を張れ」1956年、アメリカ

やっぱりスタンリー・キューブリック監督は天才だね。息詰まる描写力がお見事。
「ワールド・オブ・ライズ」2008年、アメリカ
公開当時の僕のレビューはこちら。
「ザ・シークレット・サービス」1993年、アメリカ

年老いたクリント・イーストウッドが走る、走る!悪役のジョン・マルコヴィッチ、そしてエンニオ・モリノーネの音楽もいい。
「ダーティ・ハリー」1971年、アメリカ

刑事ものといえばこれでしょう(アカデミー作品賞を受賞した「フレンチ・コネクション」は何度観ても面白いと想わない)。クリントもあの頃は若かった。
「バウンド」1996年、アメリカ

ウォシャウスキー兄弟が最も冴えていたのは、「マトリックス」シリーズじゃなくて断然こっち。中々セクシーな映画である。
「激突!」1971年、アメリカ

スピルバーグの出世作(テレビ映画)。主人公を執拗に追うトラック運転手の姿を最後まで見せないのが不気味だ。後にスピルバーグはこの演出法を応用して「ジョーズ」を撮った。
「ミュンヘン」2005年、アメリカ

国家を挙げての犯罪映画である。暴力に対し暴力で報復するのは、後に空しさが残るだけ……。ラストシーンで遠くに霞んで見える、世界貿易センター(World Trade Center)ビルが切ない。
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