「カールじいさんの空飛ぶ家」3D字幕版
評価:A+
ピクサー・アニメーション・スタジオの勢いは止まらない。常にクオリティの高い作品を続々と世に送り出すその姿勢は、ウォルト・ディズニーが存命中だった頃のディズニー映画を彷彿とさせる(ウォルトは1931年の「花と木」以降、ほぼ毎年アカデミー短編アニメーション賞を受賞。生涯に26個のオスカーを獲得した。これはアカデミー賞史上、最多記録である)。そしてその中身(プロット、CGで描く技術)はより洗練され、エンターテイメント性を増している。映画公式サイトはこちら。
メガネの形、顎の輪郭……まず主人公の顔が宮崎駿そっくりなのに笑ってしまう。ピート・ドクター監督は一応(スタジオ・ジブリの試写室にフィルムを持参し上映した折)、スペンサー・トレイシーの顔を参考にしたと宮崎さんに語っているが、それはまあexcuse(言い訳)に過ぎないだろう。いくらなんでも本人を目の前にして「あなたをモデルにした」とは言えないわな。横からジブリの鈴木プロデューサーが「映画を観ている最中ずっと、このおじいさんは宮さんだと想っていた」と感想を述べているが、正鵠を射た発言である。
ピクサー及びディズニー・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼務するジョン・ラセターは「すべてのピクサー作品が宮崎作品へのオマージュ」であると断言している。
だから主人公が南アメリカの目的地に到着する場面で、周囲に立ち込めていた霧が晴れていくと、遠くに滝が見えてくる情景の(静の)表現法、飛行船とのチェイス(動)、雨雲に近づく場面(”竜の巣”)等は明らかに「天空の城ラピュタ」を彷彿とさせるし、飛行船上で駆け回るアクション・シーンで「未来少年コナン」のギガント(巨大飛行兵器)登場の回を想い出さない人間はいないだろう。
また本作は同時にアルベール・ラモリス監督のフランス映画「赤い風船」(1956)や「素晴らしい風船旅行」('60)へのオマージュにもなっている(ラモリスは1970年、「恋人たちの風」を空撮中にヘリコプターの墜落事故で亡くなった。享年45歳。如何にもらしい最後であった)。
「カールじいさんの空飛ぶ家」は、いきなり冒頭部分から魅了される。まず少年時代のカールとエリーの出会が描かれるのだが、ここでのエリーは饒舌で、捲し立てる様に喋る、喋る。ところが、ふたりが結婚する場面になると突然台詞なしで音楽のみのサイレント映画仕立てになり、エリーと死別するところまで一気にスケッチ風に描かれる。ここは涙なしには観られない名場面である。宮崎駿さんもこう語っている。
「実は僕、追憶のシーンだけで満足してしまいました」
前の過剰な台詞の洪水があればこそ、この演出が生きるのである。
マイケル・ジアッチーノ(「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」)の音楽も素晴らしい。テーマがディキシーランド・ジャズ風に演奏されたかと想うと、それが優雅なワルツとなり、変幻自在にメタモルフォーゼを繰り返す。彼は今年「スター・トレック」でも卓越した仕事をこなしたし、そろそろアカデミー作曲賞をあげてもいいんじゃないだろうか?
今回は上の写真のような3Dメガネをかけて鑑賞。字幕は浮き上がったように表記され、決して見にくくはない。ピクサー初の3D作品ということで会社のロゴも、より立体的に見せる工夫が凝らされている。画面が飛び出してくる驚きはないが、CGの質感がよりリアルに感じられ、特に色とりどりの風船が舞い上がる美しさは3Dでしか味わえられない新鮮な肌触りである。お勧め!
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