ゲイの大作曲家たち
チャイコフスキーが同性愛者だったことは余りにも有名である。詳しくは下記記事で触れた。
イギリスの作家E・M・フォースターが1913年に執筆した小説「モーリス」でもチャイコフスキーがゲイであることに言及されている。
この事実を知っておかなければ、彼が死の直前に発表した交響曲 第6番「悲愴」で語ろうとしたこと、その切実な想いを理解することは絶対に出来ないだろうと僕は確信する。
またモーリス・ラヴェルの疑惑に関しては下記に書いた。
先日、METライブビューイング(公式サイトはこちら)で世界配信されたメトロポリタン歌劇場のベンジャミン・ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」(1945年初演)を観た。既にDVDも発売中。噂には聞いていたが、凄まじい傑作だった。僕は今までブリテンのオペラ「ベニスに死す」「カーリュー・リヴァー」などを観てきたが、それらを遥かに凌ぐ文字通り最高傑作と言えるだろう。その暗いタッチなど、スティーブン・ソンドハイムのミュージカル「スウィーニー・トッド」(1979年初演)との強い親和性も感じられた。またスコットランド出身のドナルド・ラニクルズの指揮ぶりが鬼気迫るものがあり、大変な名演であった。
その「ピーター・グライムズ」の幕間にイギリスからの中継があり、このオペラや「ベニスに死す」「ねじの回転」「カーリュー・リヴァー」「戦争レクイエム」等を初演したテノール歌手ピーター・ピアーズとブリテンが”生涯のパートナー”であり、一緒に暮らしていたことが紹介された。ここで僕は初めてブリテンがゲイであったことを知った。二人のお墓が仲良く並んでいる映像も登場、それは中々麗しい情景であった。
考えてみれば「ベニスに死す」を映画化したイタリアのルキノ・ヴィスコンティ監督はバイセクシャルだったし(アラン・ドロンやヘルムート・バーガーを寵愛した)、これをブリテンがオペラにしアッシェンバッハ役をピアーズが演じたということにヒントが隠されていたのだなぁと今更ながら気がついた。
それにしても問題だと想うのは、ブリテン作品が収録されたCDの解説書やコンサートでのプログラム・ノートにこの事実が一切記載されていないことである。チャイコフスキーの例を挙げるまでもなく、作曲家の生涯と人となりを知ることは、その作品を深く理解する上で必要不可欠なことである。村上春樹の著書によると、フランシス・プーランクは「私の音楽は、私がホモ・セクシュアルであることを抜きにしては成立しない」と語っていたという。もっとこの国がオープン・マインドになることを僕は願う。
さて、レナード・バーンスタインはバイセクシャルだったのか?というのも非常に興味のあるテーマなのだが、残念ながらそろそろお時間が来たようです。今日はこれにて。
- ほぼ日刊イトイ新聞 へ(バーンスタイン情報あり)
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