アイリッシュ・フルート&ハープ/アイルランドの風
日曜日の昼下がり、兵庫県立美術館ギャラリー棟1Fアトリエへ。
ここで守安 功(アイリッシュ・フルート、ホイッスル)、守安雅子(アイリッシュ・ハープ、コンサーティーナ)、グローニャ・ハンブリー(アイリッシュ・ハープ)のコンサートが開催された。
僕が興味を抱いたきっかけは今年の夏、関西吹奏楽コンクールで福島秀行/セントシンディアンサンブルの演奏するオキャロラン(建部知弘 編)/ケルト民謡による組曲第2番「オキャロランの花束」を耳にし、たちまちその素朴で美しい旋律の虜になったから。
ターロック・オキャロラン(1670-1738)は「アイルランド最後の吟遊詩人」とも呼ばれる盲目のハープ奏者・作曲家。アイルランド各地を放浪し、生涯に200以上の曲を遺した。僕は是非、彼の音楽をアイリッシュ・フルート&ハープで聴いてみたいと想ったのである。
グローニャ・ハンブリーさんはアイリッシュ・ハープの第一人者。完璧なテクニックの持ち主。この楽器はオーケストラで使用されるハープみたいに華やかで”ごっつい”音はしないけれど、飾り気がなくイノセントな響きがして実にチャーミングだった。昔は金属弦を使用していたが、現在はカーボン弦で演奏されるとの解説があった。また彼女はコンサーティーナ(六角形の小型アコーディオン)の名手でもあり、十代の頃オール・アイルランド音楽コンクールのチャンピオンになったこともあるそうだ。ピアソラでお馴染みのバンドネオンに近い形をした楽器で、それをさらに軽量化した感じ。
守安夫妻は年間の三分の一をアイルランドで過ごし、現在は世界初の試みとなるオキャロラン全作品録音プロジェクトに取り組んでおられる。
今回のプログラムは、
- 会うは楽しい、別れはつらい(アイルランド舞曲)
- 小雨のそぼ降る朝(デニス・ヘンプソン)
- ホーンパイプ
- ダニエル・ケリー(オキャロラン)
- オキャロランはおかみさんと喧嘩した(オキャロラン)
- カウンティ・クレア
- シングル・ジグ(ウィリー・クランシー)
- イニシア島"Inisheer"(トマス・ウォルシュ)
- チャーリー王子(スコットランド民謡)
- 庭の千草(フルート:宮尾紀子、歌:保阪藍子)
- ミッキー・フィンに捧げるラメント(ビル・フィン)
- ブラーニーへの旅路(オキャロラン)
- ブラーニー城への巡礼(アイルランド民謡)
- オキャロラン協奏曲(オキャロラン)
- ウォーラー夫人(オキャロラン)
- 夏の終わり(フィル・カニンガム)
- マハラ・マウンティンズ(マーティ・ヘイジ)
- ダニー・ボーイ(歌:中尾敦子)
- 小さい妖精、大きい妖精(オキャロラン)
- 盲目の王様(作者不詳)
ほか。
"Inisheer"(Inis Oirr)はダブリン出身のThomas Walshというアコーディオン奏者が、アラン諸島の一番小さな島、イニシア島に旅した時の印象を書き留めた島唄だそう。
また1745年のイギリスとの戦いをモチーフにしたスコットランド民謡「チャーリー王子のエディンバラへの最後の一瞥」および、それがアイルランドに渡りマーチに生まれ変わった曲が両方演奏され、興味深かった。
映画「タイタニック」3等船室でのアイリッシュ・パーティで流れたダンス音楽も良かった!
さらにハープのソロで300年前の作曲家であるトマス・カラランと、現代の作曲家であるパトリック・デイビーの「牧師さんの住む家」が続けて演奏された。時を越えた握手。しかし、その底に流れるものは一貫しており、違和感はない。
「ブラーニーへの旅路」もハープ・ソロ。守安 功さんが現在、アイルランドの全ての音楽の中で一番好きな曲だそう。「ブラーニー城への巡礼」では守安さんが縦笛2本を口にくわえ演奏。とても愉しい。
「オキャロラン協奏曲」はハンブリーさんの師であるジャネット・ハービソンの編曲。イタリア・バロック音楽からの影響が濃厚だとハンブリーさんから解説があった。また「ウォーラー夫人」では守安さんが「イタリア85%、アイルランド15%の曲」と紹介された。
アンコールで演奏された「盲目の王様」は17世紀の曲で、ハンブリーさんのお気に入りだとのこと。
初めて聴いたアイリッシュ・フルートは風の音や雑音までも演奏技巧に取り入れ、イタリア・フランス・ドイツで発展したフルート(フラウト・トラヴェルソ)よりも、むしろ日本の篠笛や尺八に近いなぁと感じた。
考えてみれば、アイルランド民謡「ダニー・ボーイ(ロンドンデリーの歌)」や「庭の千草(夏の名残のバラ)」、スコットランド民謡「蛍の光」「アニーローリー」等、どこか懐かしく郷愁を感じさせる歌の数々は日本でも昔から親しまれてきた。我々の琴線に触れる、何かがあるのだろう。音楽に国境はないーそんなことを改めて考えさせられた、ひと時であった。
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コメント
シンディのことにも触れて頂いてありがとうございます!
「イニシア」は大好きな曲です(守安さんとシンディで無理やり共演しました…)。
「小さな妖精、大きな妖精」も個人的に大好きです。
守安さんの演奏に接していつも感じるのは、ごくシンプルな楽器だけで奏でるシンプルなメロディが、どうしてあんなにも胸をかきむしるのかということです。
雅哉さんも「郷愁」と書かれていますが、なぜか心の奥底にシューと染み込んでいくのです。
アイリッシュの不思議…。
最近シンディが忙しく、守安さんのコンサートに行けなかったのでこのレポートはうれしかったです!
投稿: 福島です! | 2009年11月 9日 (月) 21時38分
福島さん、コメントありがとうございます。
今後も、守安さん同様、福島&シンディ・コンビにも是非《オキャロランの伝道師》としてご活躍頂きたいなと僕は切望しております。それは吹奏楽の世界で瀬尾宗利さんがマルコム・アーノルドの音楽に対して果たした役割に通じるものがあるように想われるのです。
今度、下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団はアーノルドの映画音楽「第六の幸福をもたらす宿」を演奏しますが、瀬尾さんの編曲がこの世に存在しなければ、このプログラムは絶対にあり得なかったのですから。
投稿: 雅哉 | 2009年11月10日 (火) 00時19分
アイリッシュ音楽と日本人の感性は特に親和性が高いような気がしますが、世界的に見てもアイルランド出身のミュージシャン(U2やエンヤなど)の成功やリバーダンスなどを見ると、アイルランドという土地には絶対何かあるのではないかと思わざるを得ませんよね。
守安さんが再発見(?)したオキャロランを、また僕たちが吹奏楽で演奏していくのはおもしろいことです。
「オキャロランの花束」(そのうち出版されるみたいです)も、日本中で演奏されるようになったら楽しいですね。僕の一番大好きな小品「ジェイムズ・プランケット」を、もっと多くの人に知ってもらいたい・・・
下野/大フィル、行きますよ!
「エルカミ」のオケ版に期待してます。
投稿: | 2009年11月10日 (火) 00時58分
本文にも書きましたがジェームズ・キャメロン監督の映画「タイタニック」(1997)には3等船室のアイルランド移民が登場します。
'96年の時点でキャメロンはジョン・ウィリアムズに音楽を依頼していましたが、スピルバーグとの仕事が忙しかったジョンは断っています。次にキャメロンはエンヤに話を持ちかけますが、映画音楽全体を担当したことのないエンヤは自信がないと辞退しました。そこに登場したのがジェームズ・ホーナー。ホーナーは「エンヤそっくりの曲を書けばいいんだろう?」と作品を仕上げ、アカデミー作曲賞を受賞したのです。
だから僕は「タイタニック」の音楽は評価しません。ホーナーの個性が感じられないからです。やはり彼の代表作は「フィールド・オブ・ドリームズ」「アポロ13」「ブレイブハート」「ビューティフル・マインド」等だと想います。
投稿: 雅哉 | 2009年11月11日 (水) 07時41分
上の上のコメント、名前を書き忘れていました。
福島です・・・
「タイタニック」のジョン・ウイリアムス→エンヤ→ジェイムス・ホーナーの流れは知りませんでした。
そういえば確かにある曲はビックリするくらい「エンヤ的」だ(苦笑)。
他にも悲しげなテーマは、守安さんがコンサートでもよく演奏するアイルランドのお葬式の曲に瓜二つ(というかほとんどパクリ?)なんですよ。
投稿: 福島です! | 2009年11月11日 (水) 11時07分
ホーナーは昔から《パクリのホーナー》と呼ばれているんですよ。
キャメロンとの関係は良好なようで、12月に公開される「アバター」もホーナーが音楽を担当しています。
ところで、パクリでアカデミー作曲賞を受賞したものとしてはビル・コンティの「ライトスタッフ」もあります。メインテーマがチャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲そっくり!またホルストの「火星」瓜二つの旋律も登場します。
投稿: 雅哉 | 2009年11月11日 (水) 12時44分