ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜
評価:A
これぞ映画!文句なし、本年度邦画のベスト・ワン。
映画公式サイトはこちら。モントリオール世界映画祭で監督賞を受賞。
しかしどうして来年の米アカデミー賞外国映画部門・日本代表として本作が選出されなかったのか、全く理解に苦しむ(選ばれたのは「誰も守ってくれない」)。
この映画を観ながら感じたのは巨匠・成瀬巳喜男 監督の名作、例えば「浮雲」('55)や「女が階段を上る時」('60)との類似性である。浅野忠信が演じる《救いようのないダメ男》は、まるで前述した成瀬映画における森雅之ではないか。そしてその男に尽くす女、松たか子はデコちゃんこと、高峰秀子そっくりである。さらに終戦直後という時代設定も「浮雲」と共通している。
種田陽平の美術セットが素晴らしい。当時の雰囲気が良く出ている。そしてそれもまた、成瀬映画に欠かせない美術監督:中古智の仕事を思い起こさせるものだった。
絶対、根岸吉太郎監督は成瀬を意識して撮ったに違いないと検索してみると、動かぬ証拠を見つけた→こちら。
そうか!ということは「ヴィヨンの妻」における伊武雅刀は「浮雲」の加東大介と同じ役回りなんだ。妻を寝取られるという設定も含めて。
また、愛人の広末涼子がはまり役。しかし、この映画の白眉は何と言っても浅野忠信、彼に尽きるだろう。いやはや、これ程までにいい役者だとは今まで気が付かなかった。前にも書いた通り、《救いようのないダメ人間》を演じているのだが、成瀬映画の森雅之と決定的に異なるのは「ヴィヨンの妻」の浅野は非常にセクシーなのである。そして着物がよく似合う。もし僕が女だったら「嗚呼、この人のためなら、とことん墜ちても構わない。地獄の底までついて行く!」と覚悟を決めるに違いないくらいの説得力があった。必見。
最後に、吉松隆の静謐な音楽も傑出していたことを申し添えておく。僕は彼の5つある交響曲や管弦楽曲「朱鷺によせる哀歌」、アルト・サクソフォーンのためのサイバーバード協奏曲、ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」等が大好きである。
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