上方落語の噺家たち/今、この二十人が面白い 第二弾!
そろそろ第四回繁昌亭大賞が発表される時期になった。そこで連動企画を。
以前、「上方落語の噺家たち/今、この十人が面白い」という記事を書いた。今回はその加筆・改訂版である。
まずは聴いておきたい、僕が一押しの噺家十人(順不同)。現在高座で落語をされない桂米朝さんは別格とする。
- 桂春團治
- 桂ざこば
- 桂雀々
- 桂よね吉
- 月亭遊方
- 笑福亭鶴瓶
- 笑福亭たま
- 桂文珍
- 桂文太
- 林家染二
春團治さんは、しゅっとした佇まい、そして磨き抜かれた芸。(羽織の脱ぎ方など)完璧である。ただ現在されるネタが十しかないので要注意。何度か通っているうちに必ず重複するということである。十八番は「祝いのし」「代書屋」。惜しむらくは春團治一門は弟子がパッとしないこと。
ざこばさんはもう、生きざまそのものが落語。豪快な語り口が耳に心地良い。ただ最近、時々元気がないことも。僕のお気に入りは「遊山船」「狸の化寺」。
雀々さんは師匠(桂枝雀)ゆずりの身振りの大きな爆笑落語にその真髄がある。では枝雀のコピーか?と問われれば決してそんなことはなく、独自の味をくっきりと出している。今まで聴いた中で特に面白かったのは「くっしゃみ講釈」や「疝気の虫」など。
よね吉さんは洗練されたスタイリッシュな高座が魅力的。なんとも華がある噺家さんだ。若い女性に大人気なのも頷ける。東西若手落語家コンペティション2008でグランドチャンピオンに輝いた。やはり吉朝一門だけに芝居噺が光る。「七段目」「蛸芝居」がお勧め。「天災」も凄く良かった。
遊方さんは繁昌亭創作賞を受賞。”高座のロックンローラー”であり、その独特のセンスにはいつも腹を抱えて笑ってしまう。僕は遊方さんの喋る《天王寺ネタ》が大好き(彼は天王寺在住)。お気に入りなのは「いとしのレイラ ~彼女のロック~」(遊方 作)「天狗の恩返し」(金山敏治 作)。
鶴瓶さんはまず日常を語る「鶴瓶噺」が面白い。そして「私落語」もノスタルジックで愛しい。お勧めは「ALWAYS -お母ちゃんの笑顔- 」「青春グラフティ松岡」。
たまさんは新作の技巧派。(ある意味攻撃的とも言える)その知性が冴える。マクラで振るショート落語がユニーク。またオーバー・アクションな古典も面白い。代表的ネタは「胎児」「伝説の組長」(新作)「いらち俥」(古典)。繁昌亭輝き賞受賞。
文珍さんも古典と新作、両方いける。時事ネタの入れ方が上手い。「粗忽長屋」「地獄八景亡者戯」などを推す。
文太さんほど名人という呼び方が相応しい噺家もいないだろう。仙人のように飄々としていて味がある。どの噺でも聴き応えあるが、強いて挙げるなら贋作シリーズかな?
第二回繁昌亭大賞を受賞した染二さんは端正な芸で、周到な稽古に裏打ちされた流れるような語り口が特徴。特に「たちぎれ線香」は圧巻だった。
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さらに間違いなく上方落語の醍醐味を堪能できる十人を挙げよう(こちらも順不同)。
- 月亭八方
- 桂九雀
- 桂吉弥
- 桂吉坊
- 笑福亭松喬
- 笑福亭鶴笑
- 桂三枝
- 桂あやめ
- 桂文三
- 桂かい枝
八方さんは悪い男が良く似合う。「大丸屋騒動」や「算段の平兵衛」は絶品。虚実の狭間にたゆたう「鉄砲勇助」も素晴らしい。
九雀さんはその明るさと、落語と演劇を融合した新しい形態《噺劇》の創造を高く評価したい。僕が苦手な人情噺もこれなら興味を持って観ることが出来る。お勧めは噺劇「蜆売り」そして超古典落語「どぜう丁稚」。
NHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」でブレイクした吉弥さんは人気ばかりではなく、第二回繁昌亭大賞を受賞するなど実力も折り紙つき。僕は「高津の富」「七段目」「くっしゃみ講釈」が好き。ただネタおろし等、慣れてない噺はカミカミで不出来なこともある。現在38歳、まだまだ若手、発展途上の噺家さんだ。最近お弟子(弥太郎)さんを取られたよう。
吉坊さんは28歳、若いながらも既に三味線を習得し、能楽(謡や小鼓)を習うなど古典芸能に詳しく、その高座はとにかく所作が美しい!未来の大器。先日の「胴切り」にはつくづく見惚れた。繁昌亭輝き賞受賞。
松喬さんの魅力は、何とも言えない愛嬌があるところだと想う。(兵庫県出身だけど)いかにも「大阪のおっちゃん」的で”もっちゃり”している。そこがいい。大ベテランだから高座にも安定感があり、ハズレなし。今まで聴いた中では「質屋蔵」が良かった。
鶴笑さんは紙切りも上手いけれど、やっぱりパペット落語(「ザ・サムライ」「義経千本桜」)にトドメを刺す。世界のKakushowここにあり!今度は是非、未体験の「立体西遊記」が見たい。繁昌亭爆笑賞受賞。
三枝さんは上方落語協会会長として繁昌亭開設に尽力し、成功に導いた立役者。上方落語に対する情熱は並々ならぬものがある。200を超える創作落語は上方の大きな財産であり、三枝さんの弟子だけではなく様々な噺家が高座に掛けている。僕が特に凄みを感じるのは「ゴルフ夜明け前」と「大阪レジスタンス」。
NHK「ちりとてちん」でも描かれたように、落語という芸能では女流というだけで既に大きなハンディキャップなのだが、あやめさんは新作を武器にその壁を打ち破ってきた。「義理ギリコミュニケーション」「私はおじさんにならない」など非常に生活感があって面白い。また林家染雀さんとコンビを組んだ音曲漫才・姉様キングスも秀逸。繁昌亭奨励賞受賞。
文三さんは機嫌のいい男が登場し、陽気な高座を展開するのが真骨頂。ただ声のトーンが高いので、時々耳障りに感じることがあるのが今後の課題かな(本人もそのことを気にされている様子)。今まで聴いた中で好きだったのは「動物園」「狸賽」「芋俵」。
かい枝さんの武器はテンポの良さと英語落語。半年間に渡るキャンピングカーでのアメリカ横断ツアーは快挙であった。十八番は「野ざらし」、"A MAN IN A HURRY"(英語落語「いらち俥」)、"EYE DOCTOR"(英語落語「犬の目」)。繁昌亭爆笑賞受賞。
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さて、今回二十人には入らなかったけれど、気になる存在を最後に何人かピック・アップ。
まず、たまさんの師匠・笑福亭福笑さん。いや〜確かに上手いし爆笑落語なんだけれど、凄く過激で新作における下ネタは強烈。その毒にやられ、引いてしまうこともしばしば。そういうのがお好きな方は是非。
枝雀さんの一番弟子・桂南光さんが名人であることを認めるのはやぶさかではない。しかし申し訳ないが、僕は南光さんのあのガラガラ声が苦手である。これはもう生理的なものなので、如何ともし難い。縁がなかったということで……。
上方に於いてネタの豊富さで文太さんと肩を並べるのが桂文我さん。こういう存在は貴重である。つい先日聴いたばかりの「妲妃のお百」は本当に良かった!
入門10年以内の若手で注目株なのが露の団姫(まるこ)さん、23歳。彼女はしっかりしていて口跡が良い。将来がとても愉しみな噺家だ。
この企画は今後もやっていく予定です。
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