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2009年11月 6日 (金)

母なる証明

評価:A-

掛け値なしの傑作。評価にマイナスが付いたのは、単に物語(後味の苦さ)が僕の好みではなかったという些細な理由である。来年に開催される米アカデミー外国語映画賞の韓国代表に選ばれている。英語タイトルはシンプルに"Mother"。映画公式サイトはこちら

Mother

ウォンビン兵役後初の映画出演ということで話題になっているが、そんなことはどうでもいい。

監督はポン・ジュノ。僕は以前から彼のことを天才だと何度も書いてきた。現在、世界で最も信頼する映画作家である。デビュー作「ほえる犬は噛まない」とキネマ旬報ベストテンで第2位に輝いた「殺人の追憶」(評価:AA)について5年前に僕が上梓したレビューはこちら。そして監督第3作「グエムル-漢江の怪物-」(キネマ旬報ベストテン第3位)のレビューはこちら

ポン・ジュノの映画は自然描写が素晴らしい。例えば本作でも激しく降る雨、大木が強風に揺れる情景、ブラックホールのようにポッカリと口をあけた暗闇の恐怖などが強烈な印象として残る。”自然現象にまで演技をさせる”という点で、僕は彼のことを”韓国の黒澤明”と呼んでいる。

冒頭、枯野の中を歩いてくる年老いた母親。突如、彼女は静かに踊りだす。そこから観客はポン・ジュノの世界に一気に引き込まれる。そして冒頭のシーンが映画終盤に再現され、我々は本当の意味を知る。張りめぐらされた伏線が最後に回収されてゆく、練りに練られた脚本がお見事。鮮烈なラストシーンは正に衝撃的であった。人として生まれたことの絶望、子供を守ることを宿命として定められた母親の哀しみ・狂気が胸を抉る。まるでギリシャ悲劇のようだ!

また映画の随所に散りばめられたユーモアのセンスがいい。これは「殺人の追憶」にも共通する特徴で、シリアスな内容の緩和剤として効果的に機能している。

「箪笥」「グエムル」などで卓越した仕事をしたイ・ビョンウのギターをフィーチャーした音楽が哀愁を漂わせ、深い余韻を残す。

韓国は米アカデミー外国語映画賞にノミネートすら一度もされたことがないという不名誉な記録が続いている(日本は「羅生門」「地獄門」「宮本武蔵」「おく りびと」で4回受賞。他にも「たそがれ清兵衛」など11回ノミネートされている)。「殺人の追憶」や「オールドボーイ」がもし代表に選ばれていれば可能性はあったのに、代わりに出品されたのは「プライベート・ライアン」のパクリ「ブラザーフッド」('04)や「トンマッコルへようこそ」('05)だった。しか し、今年は違う。選考委員は本物を選んだ。遂に韓国初のアカデミー賞ノミネートが現実のものとなるかも知れない。本作はポン・ジュノの「天才の証明」とも呼べるだろう。

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コメント

これは観たい!

そう思わせて頂きました。いつも映画評論、こころから楽しみにしております。

普門館コメント、名前忘れました・・・

投稿: 鯉太郎 | 2009年11月 9日 (月) 19時09分

鯉太郎さん、コメントありがとうございます。

僕が考える韓国映画オールタイム・ベスト3を挙げておきます。

「風の丘を越えて/西便制」(1993)
「オールド・ボーイ」(2003)
「殺人の追憶」(2003)

他に、スリラー・サスペンスなら「シュリ」(1999)、耽美系ホラーなら「箪笥」(2003)もいいです。「トンマッコルへようこそ」(2005)は音楽が最高!だって久石譲さんですから

投稿: 雅哉 | 2009年11月10日 (火) 00時49分

おはようございます。早速に返信コメントありがとうございました。

私は韓流はまったく分かりませんので、こうして挙げて頂くと嬉しいです。早速今日借りに行きたいとおもいます。オールド・ボーイは観ました。そう先日こちらの評論から「チェイサー」をレンタルしました。迫力に圧倒されました。最近の私の映画チョイスは、こちらの評論家らがほとんどです。

私は特にサスペンス系が好きですので「真夏の夜の怖い映画10選+α」を参考にしております。また素敵なサスペンスありましたら、教えて下さい。

いつもありがとうございます。

投稿: 鯉太郎 | 2009年11月10日 (火) 07時21分

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