« ゲイの大作曲家たち | トップページ | マーチングへ行こう!  »

宮川彬良/大阪市音楽Dahhhhn! 定期演奏会

大阪市音楽団の第99回定期演奏会を聴きにザ・シンフォニーホールへ。指揮は宮川彬良さん(以下、親しみを込めて”アキラ”と呼ばせて頂く)、待望の定期登場である。

20091113183405

2年前にこのコンビによる演奏を、同ホールで聴いた時のレビューはこちら

アキラといえばアンサンブル・ベガ大阪フィル・ポップスのコンサートなどでもお馴染みだが、愉快なトークに定評がある(子供たちにも大人気)。しかし今回はその得意の話術を封印し、マイクなしで指揮台に臨んだ。それだけでもこの演奏会に賭ける意気込みがひしひしと伝わってくる。

Akira

曲目は、

  • 宮川彬良/生業(ナリワイ)世界初演
    I. 上昇思考
    II. 発明の母
    III. 易(Fortune-telling)〜生業
  • 吹奏楽のためのソナタ「ブラック・ジャック」
    I. 血と、汗と、涙と・・・
    II. 命
    III. 生きて生きて息る
  • バーンスタイン(ラヴェンダー編)/ミュージカル「ウエスト・サイド物語」からシンフォニック・ダンス
  • W.C.ハンディ(グレイ、バーゲット編)/セントルイス・ブルース・マーチ

市音のメンバーが登場すると、いつもとは異なり全身黒ずくめで、ブラック・ジャックを意識したような服装だった。

プログラムに掲載されたメッセージの中でアキラは、シャンソン「愛の讃歌」「サン・トワ・マミー」「ラストダンスは私に」やミュージカル「ジーザス・クライスト=スーパースター」「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」の訳詩で有名な作詞家・岩谷時子さんの自伝の書き出しを引用している。

私は作詞をすることを生業として参りました…

この凛とした言葉に惹かれたことが、「生業」作曲の動機となったそうである。

I. は威勢が良くて、まるで西部劇のよう。僕はアーロン・コープランドのバレエ音楽「ビリー・ザ・キッド」「ロデオ」やエルマー・バーンスタインの「荒野の七人」を連想した。打楽器が活躍するII. は一転、和の音楽。霧に覆われた山々、どこか遠くから木挽歌が聞こえてくる…そんな情景を思い浮かべた。宮崎駿監督の「もののけ姫」の世界。そしてIII. は一転、賑やかな祭りの情景。そこには黒沢明監督の映画「七人の侍」(1954)で早坂文雄が作曲した”麦刈りの音楽”に近いものが感じられた。西洋と和の音楽の融合。半世紀前に早坂が目指したものがしっかりと今、宮川彬良に受け継がれている。そのことがしっかりと伝わってくる素晴らしい作品であった(黒澤はジョン・フォード監督の西部劇の手法を日本の時代劇に持ち込んだ。それが再び海を渡り、ハリウッドで「荒野の七人」になった)。

ブラックジャック第1楽章は転調のないソナタ。これについてアキラは「ソナタという西洋の様式美に、モノトーンの日本の魂が注入されたような感覚です」と語っている。厳粛な響きで、僕にはまるで教会音楽のように聴こえた。ゼネラル・パウゼ(総休止)があるところも非常にブルックナー的(教会の残響時間を考慮した手法)だ。第2楽章は儚く切ない哀歌。グレツキ/悲歌のシンフォニー(交響曲 第3番)とか、生後半年で亡くなった娘を追悼するバーンズ/交響曲第3番”ナタリーのために”(次回市音定期で演奏される予定)を彷彿とさせる楽曲。第3楽章は変拍子に富み、生命の鼓動が聞こえてくる。躍動感溢れ、前の楽章のテーマも回想されて締めくくりに相応しい。アキラのシリアスな面が伺える、格調高いシンフォニーであった。

休憩を挟みプログラム後半に登場した楽員は、シルバー系のベストを着ていた。

実は「シンフォニック・ダンス」は既に佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラを聴いたことがあり、それが余りにも鈍重で詰まらない演奏だったものだから、「吹奏楽でこの曲を聴いても仕方がない」と高を括っていた。

ところが!!である。宮川彬良/市音の演奏は全く別物で腰を抜かした。指揮者のセンスが全然違う。本家本元であるレナード・バーンスタインが残した2種のレコーディングを含め、僕は今までこれだけ《踊る!シンフォニック・ダンス》を聴いたことがない。アキラのリズム感は抜群であった。「マンボ」はもうノリノリ!その熱気はグスターボ・ドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース・オーケストラに匹敵すると言っても過言ではない。「クール」では切れのあるスウィングが聴ける。「ランブル(乱闘)」の場面になると、金管の咆哮が凄まじい。そして終曲"Somewhere"の透明でイノセントな響きが、なんと美しいことだろう!もう陶酔してしまった。むしろこの"Somewhere"には弦楽器(あのイライラするヴィブラート)が要らないんじゃないかと想ったくらいであった。

正に圧倒的名演であった。ここで初めてマイクが登場。そしてそれと共にジャケットがボロボロになった映画「ウエストサイド物語」のサントラ・レコードも。このLPはアキラが10歳の時に父・宮川 泰(「宇宙戦艦ヤマト」「ゲバゲバ90分!」の作曲家)から買い与えられたものだそう。「それから擦り切れるくらい何度も何度も聴きました。その曲を今回初めて指揮する機会を得て、感無量です」と。

20091113205011

アンコールの「マツケンサンバII」は2年前にも同じコンビで聴いた。しかしその時よりもアンサンブルはより緻密に、金管の響きはより輝かしく進化していたので驚いた。やはりこの間に何度も綿密なリハーサルと本番が繰り返された成果が、しっかり音として結実しているのであろう。

この感動的コンサートは同時にライヴ・レコーディングされているので、いずれCDとして発売されるだろう。ご期待いただきたい。ただ少し気になるのは、「シンフォニック・ダンス」で市音にしては珍しくホルン・ソロに痛恨のミスがあったことである。あのまま商品化するのは、いくらなんでもまずいだろう。多分ゲネプロ(直前のリハーサル)も録音しているだろうから、修正(編集)は可能な筈だ。その点フォンテックさん、よろしくお願いしますよ!

|

« ゲイの大作曲家たち | トップページ | マーチングへ行こう!  »

吹奏楽」カテゴリの記事

コメント

はじめまして今回の定期演奏会を
小学生の娘(フルートを習っています)と
聞きに行きました。
他の方の感想を調べてもなかなかヒット
しないので諦めかけていたところだったので
嬉しかったです。
自分たちだけの感想だと独りよがりに
なりがちなので大いに参考になりました。
またここで得た情報を娘に伝えます。
ちなみに前回のDAA~N!のほうも
聞いていました。
では私は落語も好きなのでゆっくり
拝見させていただきます。

投稿: 睦五郎 | 2009年11月19日 (木) 17時10分

睦五郎さん、コメントありがとうございます。

愉しいコンサートでしたね。今後も宮川彬良&大阪市音楽Dahhhhn!のコンビに期待しましょう。

投稿: 雅哉 | 2009年11月19日 (木) 23時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/212850/46749469

この記事へのトラックバック一覧です: 宮川彬良/大阪市音楽Dahhhhn! 定期演奏会:

« ゲイの大作曲家たち | トップページ | マーチングへ行こう!  »