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空気人形

評価:B

大人のための寓話。R-15指定なので中学生以下の健全な少年少女はこれ以上、決して読まないように。しかし、高校生でさえも刺激が強すぎる(R-18相当)と想うんだがなぁ……。映画公式サイトはこちら

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さて、これからは不健全な大人の時間だ。身も蓋もないことを言ってしまえば、本作は心を持ったダッチワイフの話である。

カンヌ国際映画祭で主演男優賞(柳楽優弥)を受賞し、キネマ旬報ベストテンでは日本映画ベストワンに輝いた「誰も知らない」の是枝裕和監督、最新作。僕は正直「誰も知らない」が好きになれなかった。「過酷な現実を切り取ってそのまま観客に提示するだけで、果たして”映画”と言えるのか?」という疑問を感じたからである。しかしこの「空気人形」は中々面白かった。正しく立派な”変態映画”である。映画を観ながら即座に連想したのは「卍」「赤い天使」「盲獣」など一連の増村保造監督の作品群である。女体に対する執着は江戸川乱歩的とも言えるだろう。これだけ”変態的”な作品は久しぶりに出会った気がする。

空気人形を所有する中年男が古びたアパートの天井にプラネタリウムで星座を写し、ベッドに彼女を抱きながら語りかける場面ではルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ルートヴィヒ/神々の黄昏」を想い出した。考えてみればヴィスコンティの「地獄に落ちた勇者ども」や「ベニスに死す」なども”格調高い変態映画”であった。

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この映画の最大の魅力はペ・ドゥナに尽きるだろう。僕が彼女を初めて知ったのは天才ポン・ジュノ監督のデビュー作「ほえる犬は噛まない」(2001、韓国)。コメディネンヌとしてのコケティッシュな魅力を放散していた。そして同じくポン・ジュノの「グエムル-漢江の怪物-」(2006)では颯爽として勇ましく、青春映画の傑作「リンダ・リンダ・リンダ」(2005、日本)では、ほんわかしてゆる~い感じが何とも言えず良かった。さて「空気人形」の彼女だが、もう雰囲気がぴったり!拙い日本語にも妙にリアリティがあり、正にはまり役と言えるだろう。監督のキャスティング・センスに脱帽だ。しかし、ペ・ドゥナにメイド服を着せて、デパートを歩かせるなんて、是枝裕和は只者ではない。この人にこんな”変態性”があったなんて、もうびっくりした(イヤ、これは褒め言葉である)。僕にとって今年の主演女優賞は文句なしにペ・ドゥナに決まりだ。

また映像の美しさも特筆に価する。何ともその”空気感”がいい。撮影監督は台湾の名手リー・ピンビン。香港のウォン・カーウァイと組んで「花様年華」(キネマ旬報ベストテン第2位)を世に問い、また、現在村上春樹原作の「ノルウェイの森」を撮影中のトラン・アン・ユン監督(ベトナム出身)とは「夏至」で一緒に仕事をしている。

東京を舞台にしながらも、キャメラは執拗に都会の裏側の路地や河川敷など下町の風景にこだわる。それは例えば宮部みゆきの小説(「理由」「模倣犯」)や押井守監督の傑作アニメーション「機動警察パトレイバー2 the movie」に通じる世界、異次元空間である。

そしてそこで生活する市井の人々の描写を通して見えてくるテーマは、「世界は美しい」「生きてるって素晴らしい」ということ。

そんな感じで心地よく観ていて、中盤まではB+くらいにしようかなと考えていたのだが、少々グロテスクで後味の悪い結末で評価が下がってしまった。それはないぜ!是枝さん。

それにしてもペ・ドゥナが好きになる青年(ARATA)が働くレンタル・ビデオ屋のマニアックさには笑った。壁にフェリーニ監督の映画「道」のスチール写真(ジュリエッタ・マシーナとアンソニー・クイン)や、野口久光さんが描いた「大人は判ってくれない」(1959)とか「赤い風船」(1956)のポスターも貼ってあるといった調子である。

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ちなみにこのポスターが大いに気に入ったフランソワ・トリュフォー監督は映画「二十歳の恋/アントワーヌとコレット」(1962)の中で、アントワーヌの部屋にこれを飾っている(→「誕生100年記念 グラフィックデザイナー野口久光の世界」展情報へ)

またレンタル店を訪れる客が「ビクトル・エリセ(スペイン)の『マルメロの陽光』かテオ・アンゲロプロス(ギリシャ)の『蜂の旅人』はありませんか?」と尋ねたりと、超マニアック!映画館のあちらこちらから笑いがこぼれていた。 あと、店のモニター画面に流れる映画「太陽がいっぱい」でヨットに絡まった死体を引き上げる場面をペ・ドゥナが見ながら「海…」と呟き、それが切っ掛けでARATAとお台場デートになるシーンも気に入った。

小さい女の子が父親とレストランで食事をしていて「フォークで髪を梳いたらいけないよ」と注意される場面で、彼女が「だってアリエルがしてたもん!」と答える場面が特に僕にはツボだった(ディズニー映画「リトル・マーメイド」のこと)。

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