九雀の噺@繁昌亭
昨年末、上方落語協会に復帰された桂九雀さんが初めて天満天神繁昌亭で主催する夜席、そして初登場となる噺劇(しんげき)を鑑賞した。一階席は満席。二階席も結構、埋まっていたよう。
噺劇とは4年前に九雀さんがやり始めた、落語を題材にした新しい演劇。舞台装置はなく、出演者は全員着物。小道具は落語同様、扇子と手拭いのみ。鳴り物(お囃子)も入り、雰囲気を盛り上げる。前回僕がこれを体験した時の感想はこちら。
大阪では「蜆売り」一話のみだが、10/13-14に北沢タウンホールで開催される東京公演はそれに加え噺劇「転宅」も上演されるそう(詳細はこちら)。
九雀さんによると繁昌亭には様々なルールがあり、噺劇を二つ掛けることは不可能だという。
- 番組の半分以上を落語が占めなければならない。
- 上方落語協会に所属する噺家がトリを取らなければならない。
また九雀さんは敢えて触れられなかったが「3. アマチュアが繁昌亭の高座で落語をしてはならない」というルールもあるようだ(これが原因で桂福團治さんの落語会が中止になるというトラブルもあった→詳細はこちら)。だから今回、噺劇に出演されているコント赤信号の小宮孝泰さんは東京公演で落語をされるようだが、大阪公演はなし。
- 笑福亭生寿/時うどん
- 桂九雀/僕は廃品回収業
- 柳家小権太/たいこ腹(→柳家喬太郎「落語こてんパン」へ)
- 小宮孝泰、世弥きくよ、鍋島浩、原尚子/噺劇「蜆売り」
- 桂九雀/どうらんの幸助
九雀さんは古典を改作したものも高座に掛けられている。「延陽伯」が「御公家女房」へ、そして「紙屑屋(天下一浮かれの屑より)」が「僕は廃品回収業」へ。(確か)脚色されたのは落語作家・小佐田定雄さん。その小佐田さんも聴きに来られていた。
その「僕は廃品回収業」だが、口跡軽やかでテンポ良く、芝居噺的な可笑しさもあり堪能した。特に九雀さんが「北の宿から」「アンコ椿は恋の花」を歌うところは大笑い。中々歌も上手である(これなら東京の柳亭市馬さんに対抗出来るのでは?)「ちゃっきり節」や阿波踊りを披露する場面もあり、実に愉しい。
「蜆売り」は以前、桂文我さんの口演をNHKテレビで聴いたことがある。はっきり言って退屈で、途中からダレた。やはり僕はこういう湿っぽい人情噺が苦手だ。
九雀さんの師匠である桂枝雀さんと小佐田定雄さんが以前、落語の「情」について語られた内容を「らくごDE枝雀」(ちくま文庫)から引用してみよう。
枝雀 なんぼ「情」が結構やちゅうてもおしつけがましなったらいけまへん。おしつけがましい「情」てなもん、私らの最もかなわんもんでっさかいね。
(中略)
小佐田 演者に先に泣かれてしまうと私らみたいなヘソ曲がりの客は「オッサン、なに泣いとんねん」てなもんで、かえってサーッと醒めてしまいますねんな。ことに落語なんかで「泣き」を入れられると、「わかったわかった。もうええもうええ」てな気ィになってしまいますな。
全く同感。正鵠を射た対談である。つまり演じ方によっては箸にも棒にもかからない人情噺を飽きさせず聴かせる手段が、噺劇であるというのが僕の解釈。そういう意味で九雀さんが台本を書かれた「蜆売り」は見事に成功している。この噺がこんなに面白かったとは!正に目から鱗の体験であった。必見。
九雀さんは今後も繁昌亭でこの噺劇をシリーズとしてやっていく予定だそうである。とても愉しみだ。
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