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2009年10月28日 (水)

第57回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 2009 《前編》

まず選曲の問題から考察していきたい。

今年、東京・普門館で開催された全日本吹奏楽コンクール《高校の部》に出場したのは29校。演奏された課題曲の内訳を以下に記す。

  • 課題曲 I     0校
  • 課題曲 II    2校
  • 課題曲 III   3校
  • 課題曲 IV 16校
  • 課題曲 V   8校

つまり朝日作曲賞を受賞した課題曲 I 「16世紀のシャンソンによる変奏曲」を選んだ団体は全て地区大会で淘汰され、全国まで駒を進められなかったということになる。ちなみに中学の部、大学の部、職場・一般の部を併せても(全95団体)、課題曲 I で金賞を受賞出来たのはたった1団体という惨憺たる有様だった。昨年の課題曲「ブライアンの休日」同様、「16世紀のシャンソンによる変奏曲」は確かに名曲には違いないが、コンクールで勝てない曲(鬼門)でもあったのである。このように、自由曲に於いても選曲で審査結果が変わってくるというのは実際にあることなのだ(おかしな話ではあるが)。

それから演奏順の運・不運についても書いておきたい。「朝1番に演奏する団体に対する審査員の評価は厳しくなる」というのも歴然とした事実である。過去20年間のデータを調べてみると、出演順が1番だった高校が金賞を受賞したのはたった2校。確率10%。今年出場29団体中金賞が10校あったので、全体で考えれば受賞出来る確率は10/29=34%となる。つまり統計学的有意差をもって明らかに不利ということ。淀工習志野も朝イチの年は銀賞だった。審査員も人の子。最初に付ける採点表は(匙加減が分からず)どうしても辛めになるのである。

僕が何を言いたいのかというと、今年朝イチだった柏市立柏高等学校市柏)の銅賞という不当に低い評価に対して憤りを禁じ得ないという話である。

コンクールの評価が必ずしも正しいとは限らない。名ピアニストのヴラディーミル・アシュケナージは1955年のショパン国際ピアノコンクールで第2位であった。その年の1位は「アダム・ハラシェヴィッチ」……って、一体誰??当時、審査員の1人であったアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリがこの審査結果を不服としてサインしなかったことは余りにも有名。また天才イーヴォ・ ポゴレリッチは1980年のショパン国際ピアノコンクールでなんと本選落選。これに対し審査員だったマルタ・アルゲリッチが抗議・辞任するという大騒動に発展した。同様の《あり得ないジャッジ》が今年、市柏にも下されたのである。

Hu02

そろそろ各論に入ろう。北から順番に各地区ごと感想を書いていきたい。

北海道代表 東海大学付属第四高等学校 金賞 / 北海道旭川商業高等学校 銀賞

東海第四の課題曲IVは滔々とした大河の流れ。自由曲レスピーギ/バレエ音楽「シバの女王ベルキス」は悠久の歴史を回顧するように、聴衆を物語の世界へと誘(いざな)う。北海道の大地を連想させる雄大な演奏。文句なし!

旭川商業の自由曲はラヴェル/「スペイン狂詩曲」。音が翳り、日照時間の短い”北のラヴェル”という雰囲気だった。もっとスペインらしく、燦々と降り注ぐ陽光が欲しい。



東北代表 福島県立磐城高等学校 金賞 /福島県立湯本高等学校 銀賞 / 秋田県立秋田南高等学校 銅賞 

磐城って、いつ見ても男子生徒の学ランが清々しいんだよね。根本直人先生らしく、課題曲IVのマーチから荒ぶる魂を感じさせ嵐の予感。自由曲シュミット/ディオニソスの祭はバーバリズム(野性味)が炸裂!常に緊張感・危機感が失われることなく、とりわけ最後の2音に強烈な印象を受けた。「演奏によって曲が輝く」ことを実感させるものだった。

湯本の課題曲IVは滑らかで、優しい。自由曲の矢代秋雄/交響曲は金管がよく鳴り、アンサンブルの精度も高かった。金でも良かったんじゃないだろうか?

秋田南の課題曲Vはテンポが遅かった。自由曲はオーケストラの演奏会でも滅多に聴けないシュミット/交響曲第2番。こういう選曲は嬉しいし、ありがたい。編曲は天野正道さん。秋田南は天野さんの母校である。



北陸代表 石川県立小松明峰高等学校 金賞 / 富山県立高岡商業高等学校 銀賞 

小松明峰の課題曲IVは端正な解釈。自由曲バルトーク/バレエ音楽「中国の不思議な役人」は楷書的で正確・明快な演奏。本来、民族(ハンガリー)色が濃厚なバルトークがそれでいいのか?という疑問は残るが……。

高岡商の自由曲はR.シュトラウス/アルプス交響曲。6本のホルンがよく鳴っていた。それ以外の印象は希薄。



東関東代表 習志野市立習志野高等学校(千葉県) 金賞 / 横浜創英中学・高等学校 銀賞 / 柏市立柏高等学校(千葉県) 銅賞

習志野は青いジャケットが爽やか。石津谷先生の指揮台にカラヤンの写真が置かれていたのが可笑しかった。何故に?課題曲IIは軽妙洒脱でウィットに富む演奏。楽器を吹いていない生徒たちの笑顔が素敵だった。緊張する筈のコンクールでああいう表情ができるってすごい。自由曲はグリエール(石津谷治法 編)/バレエ音楽「青銅の騎士」。伸びやかでチャーミング、音楽のワクワクするような楽しさがこちらまで伝わってきた。ブラボー!

横浜創英の課題曲IIは堅い演奏。自由曲プッチーニ(後藤洋 編)/歌劇「トゥーランドット」はカンタービレが少々間延びして聴こえた。アインザッツ(休止後の吹き始め)が揃っていないのが気になる。

市柏の課題曲IVは歯切れがよく、強弱のコントラストが鮮明。自由曲は清水大輔/マン・オン・ザ・ムーン(Alternate Take)。ハミングあり、サンダーマシーンありとすこぶる面白い。冒頭部はジェームズ・ホーナーが作曲した映画音楽「アポロ13」みたいで格好いい。中間部に入ると不協和音の洪水となる(僕は2005年に市柏が挑戦した風変わりな自由曲「ウィンドオーケストラのためのムーブメントII~サバンナ」のことを想い出した)。石田修一先生、今年もチャレンジングな選曲をされたなと胸がスカッとした。ただこういう斬新な曲は保守的な審査員は受け入れられないだろうし(「サバンナ」の年は銀賞)、出場順が朝イチだから金賞は難しいかも知れないなとは感じたが、よもや銅賞などという判定が下されようとは夢にも想わなかった。目の覚めるような演奏を披露してくれた市柏の生徒さんたちが、本当に可哀想である。



東京代表 東京都立片倉高等学校 金賞 / 駒澤大学高等学校 金賞

東京勢は昨年2校とも銀賞という不本意な結果に終わったが、今年は大いに気を吐いた。なお、3出休み明けの東海大学付属高輪台高は支部大会で金賞を受賞するも代表にはなれず(=ダメ)、相当レベルの高い戦いだったようだ。

片倉は女子の多さが目を引いた。自由曲はバルトーク/バレエ音楽「中国の不思議な役人」。マグマが噴出するような熱い演奏。瀕死の役人が”のた打ち回る”雰囲気が巧みに醸し出されていて秀逸。終盤の加速が物凄く、ド迫力!馬場正英先生が指揮台で大暴れしているのが目に焼き付いた。

駒澤の課題曲IVはゆったりとしたテンポで。自由曲はコダーイ/ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲。各声部(パート)がクリアに聴こえてくる、理知的で全体の見通しが良い「くじゃく」であった。

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上の写真は当日会場で配られた朝日新聞の号外。西関東代表以西の感想は《後編》で語ろう→こちらからどうぞ。

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コメント

日記を読ませていただきました。
調べものをしていてたまたまたどり着きました。
コンクールでの演奏が聞こえるようなレポートを、
ありがとうございます。

ところで、ちょっと一言。
「コンクールの評価が必ずしも正しいとは限らない。」とは、
その通りだと思います。ただ、その例が、、、

アシュケナージもポゴレリッチもハラシェビッチも
実は全て大好きな演奏家なんです。
ピアニストとして、そして指揮者として活躍しているのは
アシュケナージで、その音楽はどれも素晴らしい。
でも、ハラシェビッチのショパン(特にマズルカやポロネーズ)は
アシュケナージのそれより本当に素晴らしかった。
ポゴレリッチのショパンを始めて聞いたときは衝撃を受けました。
聞きなおしてもやはり刺激的でした。
でもそれゆえ、認めない(認めたくない?)人も多い。

音楽は極めて主観的ですから、
そもそもコンクールなんて意味がないのかもしれません。
でも、コンクール好きです。変ですね。

投稿: 大野成義 | 2010年11月26日 (金) 23時47分

大野さま、コメントありがとうございます。

コンクールというのは絶対的評価ではなく、良い面も悪い面もあるのだと思います。そもそも音楽に順位をつけるなんて無茶な話ですし、でも逆に、コンクールがあってそれを目標に皆が頑張るからこそ、これだけ日本で吹奏楽が発展したのも事実です。

コンクールは必要だし、それが参考にはなるけれど、決してその結果を鵜呑みにしてはいけない。自分で聴いて、各自で判断する姿勢を忘れてはいけない。そういうことなのではないでしょうか?

投稿: 雅哉 | 2010年11月27日 (土) 00時04分

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